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グレイ、武闘大会に出る1

 

「おお〜。ここが王都か」


「左様。【フランツ王国】で一番大きい都市じゃ」


 ここは【フランツ王国】最大の都市にして王都でもある【コンノーブル】。全ての中心にして、世界で1、2を争う繁栄度を誇る都市だ。


 そんな都市に今、グレイ、カイゼル、エリザベート、セバスチャンの4人は来ていた。ちなみにお付きの者はセバスチャンしかいない。カイゼルは身軽なのが好きなのだそうだ。なので、メリダたちは屋敷に残っている。


 グレイは「貴族としてそれはどうなんだ」とも思ったが本人がいいと言っているのだからいいのだろうと納得することにした。


 王都は【魔法都市アルベリオン】と違って統一感のある建築物が建ち並んでいた。白を基調とした石造建築は清潔感があり、美しい街並みを作り出している。グレイが乗る馬車が走る大通りはアルベリオンのそれよりも幅があり多くの馬車が行き交っていた。


 大通りの左右に作られている歩道には人族が多いように見受けられるが、他の種族も普通に出歩いている。差別がないというのはアルベリオンだけに留まらず、王都でも徹底されているようである。


 馬車はそのまま止まることなく大通りを進んでいき、やがて1つの巨大な建造物の前で止まった。


 その建造物はイタリアがローマのコロッセオのような円形で、王都の中心部に鎮座している。そのコロッセオ風建造物の周囲には冒険者や騎士が多数おり列をなしていた。


「着いたぞ。ここが武闘大会の会場【コンノーブル闘技場】じゃ」


「デカっ。それで武闘大会はいつからなんです?」


「うん?今日からじゃ。2時間後の正午に予選開始じゃ」


 それからグレイたちは馬車を降り、招待選手専用の受付に行き手続きを済ませる。


「招待選手は何か違うんですか?」


「うむ。国が直々に出場を打診した人物が招待選手じゃ。儂は騎士を引退してから毎年のように招待されとったんじゃが面倒臭くてのう、出ておらなんだ。じゃが、今回はお主との決闘に相応しい舞台だと思うて参加することにしたんじゃ」


「俺は招待選手じゃないんですが……」


「そこはほれ、儂は元公爵家当主じゃし、魔法騎士団の団長でもあったからのう。裏から手を回したんじゃよ」


「うわー権力の悪用だ」


「ふんっ。使えるものはなんでも使うのが儂のポリシーじゃ」


 元公爵は黒かった。


 ♦︎♦︎♦︎


「それでは私は観客席の方で観戦しております。お爺様、グレイ様。頑張ってください。陰ながら応援しております」


「カイゼル様。グレイ様。私も応援しております」


「ああ、ありがとう」


「うむ。セバスよ、エリーを頼むぞ」


「承知致しました」


 エリザベートとセバスチャンは観客席へと向かっていった。


 グレイとカイゼルが現在いる場所は招待選手用の控え室。武闘大会は100人の枠のうち最大で20人までの招待選手枠を定めている。しかし、控え室を見る限り今回の招待選手は15人しかいないようだ。残りの枠は一般選手枠に振り分けられるため、今回の武闘大会は一般選手枠85人、招待選手枠15人となる。


「グレイ。予選で負けるでないぞ」


「ええ、そちらも」


「そろそろ時間じゃな。心の準備をしておくのじゃ」


 今の時間は正午10分前。つまり、あと10分で予選が始まる。


 予選はA〜Dの4つのブロックに分けられている。ちなみにカイゼルがAブロック、グレイがBブロックだ。予選は25人が一度に戦い、最後まで残った2人が決勝トーナメントに進める形となっている。


 グレイは刃が潰された剣を身体に馴らすために何回か振る。彼は本来なら刀を使うのだが、刃の潰された刀など雪山をチェーンなしの車で走るようなものなので剣を使うことにしたのだ。剣は叩き斬るものであり、刃がなくとも物理攻撃力はそれなりにある。


 そんな風に過ごしているとやがて風魔法で拡大された声が闘技場内に響き渡った。


『待たせたな!これより第120回【コンノーブル武闘大会】を始める!』


『うおぉぉぉぉぉぉー!』


『進行役はこの私!冒険者ギルド コンノーブル副支部長代理のアルフレッドだぁぁぁー!』


『う、うおぉぉぉー?』


『うおーい!まあいい!まずはAブロックから!観戦者諸君!喜ぶがいい!今回の武闘大会はある人物が参加している!その人物の名は……カイゼル・フォン・アルベリオン!通称「鬼のカイゼル」だぁぁぁー!』


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!』


『……なんか今日一番の盛り上がりだな。まあ、いいか!これよりAブロックの試合を始める!選手!入場!』


「儂の出番じゃな。では行ってくるぞい」


 カイゼルは控え室を出て、舞台上へと向かった。選手の控え室は舞台を見下ろせるようになっているので、グレイはそこからカイゼルの戦いぶりを見ることにする。


 カイゼルは民衆に人気があるらしい。先ほどの紹介時もそうだったが、舞台に姿を現した今の比ではない。グレイは「最初に出会ったのが武闘大会なら尊敬できたかもしれない」などと思うのであった。


『開始前にルールを説明する!まず、魔法の使用は例外なく禁止!気絶した者や場外に落ちた者は失格だ!最後まで残った2名が決勝トーナメント進出となる!準備はいいかー!それでは始め!』


 戦いの火蓋が切って落とされた。


 カイゼルは開始と同時に8人の参加者に囲まれた。しかし、いくら人数がいても有象無象では彼を止められない。8人は1人また1人と彼によって吹っ飛ばされ一撃でKOとなっていた。恐るべきパワーである。元魔法騎士団団長の肩書きは伊達ではない。グレイもまともに喰らえばそれなりのダメージを受けてしまうだろう。


 周囲の参加者はそんなカイゼルを見て顔を青くしている。カイゼルはニヤリと迫力ある笑みを浮かべ集団に斬り込んで行った。


 その瞬間、この世に鬼が顕現した。


 それからは阿鼻叫喚の地獄絵図である。カイゼルが剣を振るう度に人が宙を舞い、気絶して倒れていく。舞台上には戦闘不能に陥った者たちが積み重なり、悲鳴と呻き声が響き渡っている。まさしく死屍累々といった様相だ。中にはカイゼルに恐れをなし、場外に自ら飛び降りる者が出る始末であった。


 大会運営の関係者と思しき男性がこの状況を見て頭を抱えているのが見える。彼の心中は察するに余り有る。


 大会の主催者である国王は頬を引きつらせながら見ている。見た目の歳から察するに、おそらくカイゼルと同じくらいだろう。公爵家と王族という身分を鑑みれば2人の関係は深いのかもしれない。


 だが、そんな彼らとは裏腹に観客たちは大盛り上がりであった。


 やがて試合は終了した。結果はカイゼル以外の決勝トーナメント進出者が出ないという前代未聞のものであった。


「ワーハッハッハ!久しぶりにしっかり動いたわい!運動は良いものだのう!」


 試合を終えたカイゼルが上機嫌で控え室に戻ってきた。


「あんたやりすぎだ!」


 グレイはついカイゼルを指差しながら叫んでしまうのであった。


 ♦︎♦︎♦︎


 10分間の舞台整備を挟み、Bブロックの試合が始まった。グレイが振り分けられたこのブロックは冒険者しかいないようだ。


 グレイは適当に、だが確実に1人また1人と倒していく。同じ組には高ランクの冒険者がいたので彼に減らしてもらって楽をしようという魂胆だ。グレイの目的はあくまでカイゼルをコテンパンにすること。それ以外は特に興味ないのである。


 高ランクの冒険者は乱戦や混戦を経験している者が多いので、このような試合形式は得意としている。それ故か、あっという間に低ランクから中ランクの冒険者は駆逐され、残りはグレイを含めた2人となった。つまり、決勝トーナメント進出である。


「試合見とったが、お主やる気ないのう」


「うん?まあ、俺の目的はあくまでカイゼルさんを倒すことですから。なので、この大会自体にはあまり興味ないですね」


「はあー。冷めとるのう」


 決勝トーナメント進出を決めたグレイは控え室へと戻っていた。決勝トーナメントは予定では今から2時間後に開始するそうなので、それまでは自由時間だ。


 なので、グレイはカイゼルとの話を適当に切り上げ昼食をとることにした。


 王都にはアルベリオンには無い物が溢れている。それはもちろん食べ物もだ。そこでグレイは何か珍しい食べ物を探しに王都へと繰り出した。


 結論から言うと、珍しい食べ物はあった。しかし、グレイはどうしてもそれを買って食べる勇気が持てなかった。何故なら、その食べ物とはオークのアレだったからだ。しかも形はそのままなのである。ちなみに大きさはかなりのものだったとだけ記しておく。


 グレイはそれを見た途端急激に食欲が失せたので何も食べずに会場へと戻っていった。


 王都での食探しの散策はかなりの時間を潰せたらしく、決勝トーナメントが直に始まる時間になっていた。


 決勝トーナメントには各ブロックから2人ずつの計8人が出場する。しかし、今回に限りAブロックからは1人しか出ないのでシードを決めることになった。


 そして行われたシード権をかけたクジ引きの結果、グレイは運良く当たりを引き準決勝進出となったので、グレイを除く6人は今から順次準々決勝に臨む。カイゼルは第1試合で相手は騎士団の副団長らしい。


『皆の者!これより準々決勝を開始する!第1試合はAブロックよりカイゼル・フォン・アルベリオン!』


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!』


 凄い盛り上がり様だ。Aブロックでのカイゼルの戦いは彼の元々の人気も相まってしっかりと民衆の心を掴んだらしい。


『続いてDブロックよりアレックス・フォン・モーリス!』


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!』


 アレックスは民衆に人気がある騎士の1人だ。彼は若くして騎士団の副団長に上り詰めた実力者で、約10年に渡って騎士団長を補佐し、今では騎士団になくてはならない存在となっている。「弱きを守る強き者」を体現したかのような人物で、彼に憧れて騎士団を目指す者は多い。


『トーナメントのルールを説明する!ルールは簡単!相手が気絶するか、降参すれば試合終了だ!それでは準々決勝第1試合開始!』


 開始の合図とともにカイゼルが駆け出した。年齢にそぐわぬ身体能力で両者の間にあった5mほどの距離を一瞬で縮める。


 アレックスはそれに臆することなく、冷静に剣を構えて迎撃態勢をとる。


 両者の剣はやがて交錯し、剣戟が展開された。打ち合う度に剣と剣がぶつかり合う音が周囲に響き渡る。カイゼルはパワーと練達した剣技でアレックスに斬りかかる。対するアレックスは剣技ではカイゼルに及ばないものの、手を替え品を替えなんとか互角に渡り合っていた。


 しかし、その均衡はやがて崩れることとなった。カイゼルがギアを一段上げたからだ。今まではウォーミングアップというわけだろう。


 それからは一方的な展開となった。カイゼルが振るう剣はアレックスの剣が受け止めることなく、その身体に確実にダメージを与えていく。アレックスはなんとかカイゼルの隙をつこうと穴を探すが練達した剣技の腕を持つカイゼルが隙を見せることは殆どない。


 やがて、カイゼルの剣がアレックスの鳩尾を捉え、その意識を刈り取った。


『アレックス選手戦闘不能!勝者!カイゼル・フォン・アルベリオン!』


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!』


 武闘大会決勝トーナメント準々決勝第1試合はカイゼルの勝利で幕を閉じた。


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