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グレイ、高原を調査する

 

 グレイたち一行が【セルン高原】中心部に向かって歩を進めてからおよそ数分。やがて周囲には霧が立ち込めてきた。


 この霧は果たして自然現象なのか?それとも魔物によるものなのか?グレイたちには、その判断がつかなかったが、特に毒などの害はないようなので構わず進んでいく。


 そして、中心部に到着した。中心部には大穴が穿うがたれており、その最下部には何かがいてうごめいているのが見て取れた。


「何かいるな……。グレイどうだ?何か分かるか?」


「多分……スライムだ」


 グレイは持ち前の獣人の超人的な視力で大穴の底を確認できていた。また、狼の獣人特有の暗視能力も功を奏したようだ。


 大穴の底には超巨大なスライムがたむろしていた。


 どうやらこの大穴はスライムが山を溶かしながら開けたものらしい。


「スライム?それにしてはデカくないか?……おい?まさか”アレ”じゃねーよな?」


「あぁ、間違いなく”アレ”だな」


「マジか……」


「あのー”アレ”というのは何でしょうか?」


「ああ、”アレ”っつうのはグラトニースライムだよ」


 レンブラントが”アレ”と呼ぶ存在。それは初めてグレイがレンブラントと依頼を受けた時に遭遇した魔物で名をグラトニースライムという。何であろうが溶かしながら取り込み続け、無限に巨大化していく魔物だ。周囲に立ち込めている霧は溶かした時に発生する煙なのだろう。


 冒険者ギルドでは、その危険性から第2級危険生物に認定されており、発見次第抹殺することが通達されている。


「グラトニースライム……。初めて見ました」


「アレと戦うんですよねっ!もう行っていいですか⁈」


「待て!この戦闘狂!無策に突っ込んでも溶かされて死ぬだけだっつの!それにアレは物理はほぼ効かねーから!」


 グラトニースライムはその巨大さ故に物理攻撃はほぼ効かない。何故なら弱点の核まで攻撃が届かないからだ。そのため、基本的な戦闘方法は魔法で身を削りまくりながら、核が見えてきたら破壊するという方法だ。


「俺とサンドラはあまり強い魔法は使えないからな。グレイとメリナ頼んだぜ。ってことだから俺と、サンドラ。お前さんは待機だ」


「りょーかい」


「分かりました」


「なん……だ……と」


 各々はレンブラントの指示に肯定で返した。約1名ほど、この世の終わりに直面したかのような悲壮感漂う顔をしていたが、全員それを無視して行動を開始する。


 まず、レンブラントは四つん這いなっていたサンドラの首根っこをひっつかみ、遠くに引っ込んだ。魔法の余波を受けないようにするためだ。


 グレイとメリナは持ちうる限りで一番火力のある火魔法を大穴に叩き込むために詠唱を開始した。


「【地獄の炎(ヘルフレイム)】!」


「【大爆裂エクスプロージョン】!」


 やがて詠唱が完了すると、巨大な魔法陣が2つ出現し、魔法が飛び出した。


 グレイが放った【地獄の炎(ヘルフレイム)】とメリナが放った【大爆裂エクスプロージョン】は吸い込まれるようにして大穴に消えていく。そして、その数瞬後には爆風を撒き散らしながら火柱を吹き上げた。


 ーードォォォン!


 大穴はそれなりに深くまで続いていたため、地を揺らすような振動が周囲に伝わった。


 火柱が収まった頃、大穴からは煙が立ち上がり始めた。グラトニースライムの身が火魔法で蒸発したためだろう。


 しかし、グラトニースライムはそれでも死んではいなかった。


 大穴から吹き出すようにして地上に現れたグラトニースライムは、その身を大分失いつつも未だに存在感があった。顔がないため表情は分からないが雰囲気から察するに非常にお怒りのようだ。


 グレイとメリナは一発目の魔法を叩き込んだ後にすぐさま次の魔法を詠唱していた。ちょうどタイミングよく魔法が完成したので再び魔法を叩き込む。


「【地獄の炎(ヘルフレイム)】!」


「【大爆裂エクスプロージョン】!」


 2人の魔法はグラトニースライムに直撃し、表面、そして内部を焼きながら身を蒸発させていく。


 やがてグラトニースライムはかなり小さく弱々しい姿へと変わってしまった。すると、避難していたサンドラがフラフラ〜と現れ、核を突き刺した。


 グラトニースライムの核は抵抗なく真っ二つに割れた。


「……違う……違う!私は!私は!もっと血湧き肉躍る戦いがしたかったのに!なんだこれ!死にかけのゴブリンを倒したようなものじゃないか!あぁぁぁー!戦いが!戦いが足りないっ!誰かっ!誰か戦いをくれっ!」


 サンドラは魂の慟哭を上げた。一見すると薬が切れた危ない人にしか見えない。


 後から来たレンブラントはそんなサンドラを見てため息をついた後、1つの提案をした。


「はぁー。ったく、しょうがねーな。違うとこで魔物狩りにでも行くか?」


「行く!絶対に行く!死んでも行く!」


「いや、死んだら行けんだろ……グレイとメリナもいいか?」


「ああ」


「はい。まだ十分余力はありますし」


 その後一行はスライムの核、魔石、スライムゼリーを回収し、山の周辺部の森へと入っていった。


 グラトニースライムが山の中心部にいたため、その近くに元々いた魔物が周辺の森に移動しているらしいからだ。


 森に到着するや否やサンドラは嬉々として魔物を斬り伏せていった。


「キャハハハ!いいっ!いいっ!生きてるって感じがするぅ!もっとぉぉぉ!もっと出てこいっ!」


「「「……」」」


 サンドラと、その他3人の間には大分温度差があるようだが、概ね順調に魔物狩りは進んでいった。


 魔物からしてみれば、たまったものではないだろうが……。


 3人はサンドラが斬り伏せて行く魔物を只管ひたすらインベントリや魔法袋に詰めていく。ちなみに、森に入ってからすでに1時間は経過しているが未だにサンドラ以外は戦闘をしていない。


「まだまだー!」


「おいっ!あんまり遠くに行くな……ってまるで聞いてねーな」


「何アレ怖いんですけど……」


「サンドラさん……普段とギャップあり過ぎです……」


 3人は冷めた目で森の中心部へと向かうサンドラをただただ見つめていた。


 ♦︎♦︎♦︎


「はふっ。楽しかったです。また来たいですね」


「あ、あぁそうだな」


「「ハハハ」」


 レンブラントはなんとか言葉を返していたが、グレイとメリナは乾いた笑いを浮かべるだけであった。


 1人を除いたメンバーは疲れた顔で冒険者ギルドへと入っていく。


「あっ、お帰りなさい。あれ?サンドラさん以外疲れた顔していませんか?」


「まぁーその色々あってな……とりあえず依頼の報告をしたいんだが」


 レンブラントがぼかしながら対応する。


「えと、なんかお疲れ様です。報告は面会室にてお願いします」


 その後、4人は面会室にて調査依頼の報告をした。グラトニースライムという思わぬ大物の登場に受付嬢が驚いたりしたが、概ね順調に報告は終わった。そして貰った追加報酬を人数分均等に分けて、それぞれが貰い受けた。


 そうして、ある意味大変だった帝国での1日目は終了した。


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