グレイ、帝国に入る
王城を出発してから3日。国王とその御一行は【ガーランド帝国】の帝都に到着した。
帝都は大国である【ガーランド帝都】の首都なだけはあって、同じく大国である【フランツ王国】の王都にも負けずとも劣らない規模と繁盛を誇っていた。出入り口には商人や冒険者といった者たちが長蛇の列を作り、入場待ちをしている。
グレイはフードを深く被り、狼耳が見えないようにする。帝国は人族至上主義国家なので獣人だと余計なやっかみを受ける恐れがあるのだ。
一行は長蛇の列を尻目に貴族又は来賓専用の出入り口へと向かう。
基本的に街には2つの出入り口が設置されている。商人や冒険者といった者たちが出入りするための一般出入り口、そして貴族や来賓といった者たちが出入りする特殊出入り口だ。
特殊出入り口を抜けると、街並みが目に飛び込んでくる。
帝国は統一感のない石造りの建築物が大通りの両側に乱立していた。雑多な印象を受ける街並みだ。
グレイたち一行はそんな街並みを横目に大通りを進んでいき、やがて城に到着した。
すると、閉ざされた鉄門の端に設置してある詰め所から門番が出てきた。
「【フランツ王国】国王御一行様とお見受けいたします‼︎申し訳有りませんが、書状を拝見させて頂きたく思います‼︎」
「はい。こちらです」
国王が乗る馬車の行者席に座っていた近衞騎士の1人が懐にしまっていた書状を取り出し、門番の前まで歩いてきた。すでに馬車の中にいる国王専属の執事から受け取っていたようだ。
「はい!結構でございます!お手数おかけいたしました!改めまして【ガーランド帝国】へようこそおいでくださいました!」
その門番の言葉に合わせ、城の鉄門が城側に開いていった。何かしらの魔法が仕込まれているようだ。
一行はグレイたち冒険者4人組が乗る馬車を先頭に王城の敷地内へと進入していった。
2台の馬車と、馬に乗っていた近衛騎士団員及び魔法騎士団員、そして騎士団員全員が入りきったあたりで馬車は停止した。
「ようやく着いたか。流石に疲れたぜ」
「そうだな。レンブラントはこれからどうするんだ?確かこれから明日まで自由時間だろ?」
グレイたちの護衛はあくまで建国祭当日なのであって、明後日までの間は自由時間が与えられている。それは偏に、国王が城の内部という護衛しやすい環境にいる限りは近衛騎士団と魔法騎士団の護衛だけで足りるとの判断からだ。
「うーむ……そうだっ!この4人で依頼受けてみねーか?中々こんなメンバーで依頼なんか受けられねーし。それに体も動かしてーしな!どうだ?」
「そうだな。俺はすることないし賛成だな」
「私も賛成です」
「グレイとメリナは賛成だな。サンドラはどうだ?」
「zzz」
「おい。まだ寝てんぞ、こいつ。グレイ起こしてやれ」
「はぁ⁈いやに決まってんだろ。殴られたくねーし」
サンドラは寝ることが好きだ。それ故に起こされると起こした人物を寝ぼけて殴るという愚行を犯す時がある。殴られる確率は大体50%といったところだろうか?
今までの旅路でレンブラント、グレイ、メリナは最低1回は殴られかけている。もしくは殴られている。ちなみにグレイはギリギリ避けているため、殴られかけているだけである。
このサンドラ。恐ろしいことに、こと睡眠に関することなら本来の能力以上の力を発するのだ。そのため、グレイの超人的な身体能力をもってしても避けるのはギリギリであった。ハッキリ言って2回目を完全にかわすという自信はなかった。
もちろん、寝ぼけているから殴るのであって、完全に起きたら謝ってはくれるのであるが……。謝ってもらっても、痛いものは痛いのである。
「じゃあ、メリ「私も嫌ですよ?」ナ……」
ちなみにメリナは、サンドラとテントが同じだったので、すでに3回被害を受けている。
「チッ。しゃーねーか。恨みっこなしのジャンケンといこうじゃねーか」
「いいだろう」
「えぇ分かりました。恨みっこなしですね」
3人は思い思いの構えで気迫をたぎらせていく。各人の背後にはメラメラと燃え上がる炎が見えていた。気迫で幻を見せるほど3人は真剣であった。
そして、戦いの火蓋は切って落とされる。
「「「最初はグー!ジャンケン!ポン!」」」
♦︎♦︎♦︎
「くっ。で結局言い出しっぺが負けんのかよ。なんだよ、この嫌なお約束。あぁ痛てー」
「……ほんっと申し訳ないです」
結局、言い出しっぺのレンブラントが負けて、サンドラに声をかけたのだが、運悪く寝ぼける彼女の時に当たってしまい、頰を殴られるという事態が発生した。
そしてレンブラントの頰にはグーパンチの形に跡がしっかりと残ることとなった。
サンドラはそれ以来、レンブラントにペコペコと謝り通している。大男であるレンブラントが、一見小柄な一般女性にしか見えないメリナに謝り通されている姿はシュールで多くの人の目を集めていた。
「ぶふっ」
「だ、駄目ですよグレイさん、笑っちゃ。ぷぷっ」
グレイとメリナはそんな2人を見て、少し距離を取りながら歩き、吹き出すようにして笑っていた。距離を取っているのは、仲間だと思われたくない一心からである。
「おめーら……」
4人は和やかに?冒険者ギルドへ向かって大通りを歩いていった。
やがて到着した冒険者ギルドはピーク時間を過ぎていたため、割と空いているようだ。4人は依頼が貼られている掲示板に向かった。
「あっ、コレなんかいいんじゃないでしょうか?」
各々が依頼を探している中、サンドラが声を上げた。
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【分類】
●調査依頼
【依頼ランク】
●冒険者ランクA以上のみ受注可能
※パーティーでの受注推奨
【内容】
●セルン高原の生態調査
▷3ヶ月ほど前からセルン高原を中心に魔物の移動が発生。強個体が出現、もしくは縄張りにした可能性あり。移動した魔物のランクから強個体がいるならAランク以上の魔物と推定。
【報酬】
●大銀貨2枚
※報告内容によっては追加報酬あり
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「ほう。調査依頼か。面白そうじゃねーか。俺はソレでいいぜ」
「俺もそれでいいぞ」
「私もソレでいいと思います」
「そうですか。では受付に持っていきましょう」
4人は満場一致で調査依頼を受けることに決め、3つあるうちの空いていた真ん中の受付へとむかった。
「おはようございます。依頼の受注ですか?」
「はい。コレお願いします」
サンドラは受付嬢に依頼書を手渡す。
「調査依頼ですね。依頼は4人で受けられるのですか?」
「はい」
「では、4人分の冒険者ギルドカードの提示をお願いします」
グレイとレンブラント、メリナはサンドラに冒険者ギルドカードを渡し、彼女が代表して4人分を手渡した。
「ありがとうございます。拝見させていただきます」
受付嬢は冒険者ギルドカードを確認し始めた。そして、ランクを確認すると、その顔を驚きが埋め尽くした。
「凄いですね!こんな豪華パーティー見たことありません!っと、依頼の受注は完了です。それではいってらっしゃいませ!」
4人は冒険者ギルドを後にして、【セルン高原】へと向かった。
目的地の【セルン高原】は帝都から徒歩で2日ほどの距離にあるテーブル上の山のことだ。本来なら1日で往復できる距離ではないのだが、そこは高位の冒険者4人組。陸上選手真っ青の速さで街道を駆け抜けていく。
途中でてくる魔物はグレイに彼方まで吹っ飛ばされ、レンブラントに叩き潰され、サンドラに切り刻まれ、メリナに骨まで残らず燃やされた。
そして走ること約1時間と30分。ようやく【セルン高原】頂上部へと到着した。
「さて、何処から見て回るかだが、やっぱ真ん中が怪しいよな」
「ああ。ってか真ん中に強い魔物がいるっぽいぞ?」
「なんで分かるんですか?」
メリナはグレイに質問を投げかけた。
「ああ、まぁ俺は獣人だからな。五感が鋭いんだよ。今回は匂いとか音とか、な」
「ヘェ〜そうなんですか。便利ですね」
「みなさん!早く行きましょう!戦いが!戦いが私を呼んでいます!」
サンドラが今までに見たことがないほどのハイテンションで言った。目は爛々と輝き、頰は紅潮している。【狂乱淑女】の名は伊達ではないようだ。
「お、おう」
「そ、そうだな」
「は、早く行きましょうか」
そんなサンドラの変わりように3人は若干引いていた。
戦いを好み、戦いに生きる。サンドラ曰く、それが生き方であり、全てなのだ。
ちなみに、彼女のそんな信条を理解できた人物は今まで皆無であったそうな……。
4人はそんなサンドラを先頭に【セルン高原】中心部へと歩を進めていった。




