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グレイ、騎士と会う

 


 異世界転生してから3日が経過した日の早朝。グレイは森から抜け出し、街道へと出ていた。


 しかし、この3日。グレイは多くの疲労を溜め込んでいた。何故かは分からないが、このたった3日であり得ないほどの数の魔物に襲われたのだ。ゴブリン、ワイバーン、レッドドラゴン、……etc。そんな魔物が昼夜問わず襲ってくるのだからたまったものではない。


 故に今のグレイからは負のオーラが漂い、顔からは表情が抜け落ち、目の下には寝不足故の隈ができていた。


「フフフ……フハハ……フワーッハッハッハ!ようやく、ようやく脱出できた……」


 グレイは喜びのあまり壊れたように笑い声をあげる。そうして森から脱出できた喜びを噛み締めていた。


(眠い……寝よう)


 そしてグレイは結界を展開した後死んだように眠りにつくのであった。


 そして6時間後。完全に復活したグレイの姿がそこにはあった。


「さて、どちらに進むか」


 グレイに究極の2択が迫られていた。そして考える。どちらに行けば早く文明に触れることができるのかと……。


 グレイは文明に飢えていた。今まで周りには人しかいないような都会にいたにも関わらず、いきなり自分以外の人が誰もいない場所に放り込まれたのだから当然だ。


 そのままたっぷり10分ほど悩み抜いた末に左行くことを決めた。そして左方向へと歩き出す。走れば早いだろうが、今はゆっくりゆったりとした旅をしたかった。そう思わせるはひとえに森の中での怒涛の生活が原因である。早く文明に触れたいが、ゆっくりとゆったりとはしたい。そんな矛盾とも取れるような気持ちがグレイの中で渦巻いていた。


 そんな形で歩いていると、馬に乗った20人ほどの騎士の集団と簡素な馬車がグレイの横を後ろから前へ通り過ぎていった。


(騎士?……ついていけば街に辿り着けるかも)


 グレイは通り過ぎていった馬車を見て、慌てて追いかけていった。



 ♦︎♦︎♦︎



 グレイを追い越すように進んでいた騎士たちは、それから5分ほど進んだ場所で馬を降りていた。


「これから情報にあった盗賊団を殲滅する。皆の者心してかかれい!」


『はっ!』


 大きな声で指示を飛ばすのは初老の男性だ。刈り上げられた白髪と碧眼、適度に伸ばした髭を持つその姿は、「老紳士」の言葉がよく似合う。しかし、そんな印象とは裏腹に服の上からでも分かるほどに鍛え上げられた身体は筋骨隆々で年齢による衰えをあまり感じさせない。


 彼の名前はカイゼル・フォン・アルベリオン。街道を2時間ほど進んだ先にある【魔法都市アルベリオン】を治めるアルベリオン公爵家の先代当主だ。現在は一線を退き隠居している。だが、たまにこうして公爵家が抱える騎士団の任務に参加したりしている。


 カイゼルは元々、アルベリオンが所属する国――【フランツ王国】の魔法騎士団団長だった。魔法騎士とは魔法と剣術両方を十全に扱える者だけが就くことが許される王国最強の部隊である。通常は魔法と剣術両方をやろうとすれば中途半端になりかねない。だが、魔法騎士団に所属する団員は皆が皆魔法と剣術両方を一流と呼ばれる高みにまで登りつめている。魔法騎士団に入るには才能と努力が必要なのである。


「では、行くぞ!」


 カイゼルの指示に従い、騎士たちが移動を開始する。


 彼らは街道に隣接する森へと足を踏み入れ、出てきた魔物を倒しながら進んでいく。そして、彼らの前に盗賊団のアジトが姿を表した。


 そして彼らは動き出す。まず、見張りとして立っていた盗賊2人を遠距離からの魔法攻撃で倒す。続いて、アジトへと潜入を開始した。



 ♦︎♦︎♦︎



「さっきの騎士の馬か? ということは、この先に入っていったのか?」


 グレイは騎士たちが馬を降りて、森へと進入したポイントへと来ていた。騎士たちを探していたのである。それは、あわよくば街の場所を聞けるかも、と思ってのことだ。


「とりあえず、俺も森に入ってみるか」


 グレイは森へと足を進めた。


 幸い、騎士たちがゾロゾロと歩いていたおかげで森の中には微かに道ができており、騎士たちを探し出すのは容易そうであった。


 そして、森を幾分が進んでいくと、崖が前方に見えてきた。そのまま、崖方向へと進んでいくと、やがて崖にポッカリと空いた洞窟が姿を現した。洞窟の前には盗賊と思しき者が2人ばかり息絶えている。


 グレイは騎士たちが倒したのだろうと当たりをつけ、ちょっとした好奇心も相俟って洞窟へと入ることにした。


 洞窟の中は松明が焚かれているため暗くはなく、特段に何をしなくとも進むことができた。通常、洞窟に入る場合は火魔法などで灯りを取りながら進むわけだが、それは不要なようである。


 そうして、進んでいくうちに、やがて、チラホラと盗賊と思しき者たちの死体が地面に転がっていた。


 グレイはその一切を無視して進む。


 すると、やがて喧騒が聞こえてきた。剣と剣がぶつかり合う音、指示を飛ばす声、バタンッ!という誰かが倒れたと思しき音、……etc。様々な音が聞こえてくる。


 グレイは音が聞こえた方へと足を進める。時折、盗賊らしき身形の男の死体などがあったが、足を止めることなく進んでいく。そして、やがて辿り着いた場所は今までの細い通路とは違った広い空間だった。


 その広い空間では、騎士と盗賊が戦っていた。だが、騎士たちは劣勢であり、このままでは騎士が負けてしまうだろうということが容易に想像ができた。


 グレイはそう考えて、騎士に加勢することを決めた。



 ♦︎♦︎♦︎



 カイゼルたちと盗賊団との戦いは熾烈を極めていた。王国中で指名手配されるほどの大型盗賊団だけはあり、その構成員は皆、最低でも冒険者基準でCランクはあったからだ。対して騎士たちは冒険者基準でBランクあるかないか。それでも一般兵基準で言えばとんでもない強さなのだが、今回は相手が悪かった。まさしく多勢に無勢。徐々にではあるが騎士たちは傷を負うようになり、疲労も目に見えるぐらいに溜まってきていた。


 カイゼルは当初は無双していたが、盗賊団の頭との戦闘に入ると膠着状態に陥った。現役時代なら倒せたであろうが、流石の最強部隊の元団長も寄る年波には勝てず、最盛期ほど動けていない。


 団長を引退して十数年が経ち、訓練は続けているものの近頃は実戦を多くは経験していないのだから当然かもしれない。まあ、それでも冒険者にしてSランクの実力を未だに有しているのだから驚愕だが……。


(不味いのう。予想以上の手練れじゃ。全くこんな奴が盗賊をしておるなど社会の損失じゃろ! ……しかし、このままではこちらが負けるのは自明の理。どうにかせねば)


 騎士たちも奮戦しており、まだ誰1人として脱落はしていないが、それも時間の問題だった。それを感じ取った盗賊たちはいきりたち、さらに攻勢を強め始める。


 しかし、盗賊団は知らなかった。この世界最強格の実力者がコツコツと音を立てながら近づいていたことに……。


「【雷槍サンダーランス】」


 突如そのような声が聞こえたかと思うと盗賊団を中級雷魔法の【雷槍】が襲った。通常の【雷槍】よりも速く、且つ強力なその魔法は回避の余地さえ与えず盗賊団を一網打尽にした。唯一、Sランク冒険者並みの実力を有する盗賊団の頭は己が持つ剣で防いでいた。


 カイゼルは目の前の光景に一瞬呆然としていたが、そこはやはり元公爵家当主。すぐさま立ち直り闖入者を確認する。


「全く盗賊団とか……萎えるわー」


 たったひとつの魔法で盗賊団を一網打尽にした当の本人はそんな呑気な声を上げていた。そして、そのまま続けて言った。


「へぇーいい剣持ってるじゃないか」


「……誰だ?テメーは」


 盗賊団の頭は突然の闖入者に問う。


「さあー?誰でしょうかね」


 グレイは身体強化魔法を施した後、腰に差した刀一振りを抜き、盗賊団の頭に急接近した。10m以上あった距離を一瞬で縮めて肉薄してきたグレイに、辛うじて反応する盗賊団の頭であったが、続く攻撃には対処出来ず、鳩尾に一撃入れられて崩れ落ちた。


「……安心しろ。峰打ちだ」


 グレイは人生で1度は言ってみたかった言葉を呟き、納刀した。ちなみに今の言葉はグレイが人生で1度は言ってみたい言葉ランキング第5位である。


「誰じゃ? 冒険者か?」


「いえ、違いますよ」


「そうなのか?まぁとりあえず助かった!礼を言う!」


 初老だが衰えを感じさせない筋骨隆々の男性がつかつかとグレイに近寄り礼を言った。男性とは言わずもがなカイゼルのことである。


「いいですよ。あなた方に聞きたいことがあって追ってきたのですけれど、なんか危なそうだったんで」


「お主が来なければ儂も騎士も危なかった。……それで儂たちに聞きたいこととは何じゃ?」


「いえ、それが今、俗に言う“迷子”というヤツでして……街の方向をおしえてもらえないかな、と」


「何じゃ。そんなことか。なら、一緒に街へと向かおう。儂が住む街にな。ついでに今回の礼もしたい」


「ありがとうございます。お世話になります。っあそうだった。俺はグレイと言います」


「おお、すまん。儂も自己紹介がまだであった。儂はカイゼル・フォン・アルベリオンと言う」


(貴族か?なら、様付けとかした方がいいか……)


「カイゼル様ですね」


「カイゼルでよい」


「では、カイゼルさん、とお呼びします」


 その後は盗賊団の後処理をした。気絶している盗賊団の頭は拘束した後、馬車の荷台に乗せられた。そのまま連れ帰ってアルベリオンで裁くようだ。残りの盗賊団の構成員はすでに生き絶えているので金銭を頂戴した後、油をかけて燃やし土に埋めることとなった。


(そう言えば死者を見ても、生き物を殺しても大して応えないな。転生に際して精神の最適化がされているのか?)


 グレイは内心疑問に思ったが「異世界で生きるにあたっては都合がいい」とそこで考えるのをやめ、カイゼルに渡された馬に乗り込んだ。



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