グレイ、大群と戦う
「陣地の造成の件、礼を言う」
「はは。構いませんよ。あれくらい」
「そうか。それにしても本当に良いのか?グレイ殿は使者。出なくとも良いのだぞ?」
「ええまあ、使者的な立場ではありますけど本業は冒険者なので」
「それは助かる」
「それに皆んな戦ってるのに1人だけ戦わないというのもなんですし」
「ははは。違いない」
「それで?後ろにいる方々はどなたです?」
レオナルドの後ろには3人の獣人がいた。
「ああ、紹介しておく。此奴らは我が国の最高戦力だ。おい、お前ら自己紹介を」
「はい。……初めまして。私は三獣士と魔法部隊隊長の地位を預かっているクレハと申します。以後お見知り置きを」
孤人族の女性が優雅に挨拶した。グラマラスな身体をもつ妖艶な女性だ。
「……同じく三獣士のシズ」
言葉少ない猫獣人の少女がそれに続く。彼女は小柄だが、纏う雰囲気は強者のそれであった。
「俺はサウザーってんだ。三獣士と戦闘部隊隊長を兼任してる。よろしくなっ!」
最後に虎獣人の青年が挨拶してきた。彼からはレオナルドに次ぐ覇気を感じる。聞くところによると、彼は獣王国NO.2の実力を持つらしい。
「俺はグレイって言います。よろしく」
グレイも彼らに習い、挨拶する。
その後、軽く戦闘の段取りを共有するのであった。
「では頼むぞ」
レオナルドたちは本陣に戻っていった。
ここは獣王国王都【クノッソス】近郊。ゴツゴツとした岩石が見え隠れする渓谷地帯だ。
そんな渓谷地帯には、今までになかった陣地が築かれている。王都に繋がる谷間の街道を守るようにして築かれたその陣地は守るに容易く攻めるに難い、そんな印象を受けるものだ。
5mほど盛り上がった大地。その大地の上には約1mの石製の柵が張り巡らされ、数百もの魔法が使える冒険者や兵士が待機している。その盛り上がった大地下方には2mほどの堀が掘られ、底には槍のようなものが設置されていた。
これらは全てグレイが土魔法にて造成したものだ。
このような造成物を作った理由。それは魔物の大群に備えるためである。【魔物大行進】と呼ばれる厄災が発生し、少なくとも1万はいるであろう魔物の大群が王都【クノッソス】を目指して突き進んでいるそうだ。
このようなことは10年を周期に起きる、言わば恒例イベントなわけであるが、今回のものは今までに類を見ない大規模なものらしい。
「見えてきたぞー!」
誰かが声を上げた。
「おいおいマジかよ……」
「ヤベーな、ありゃ」
「ああ」
地平線には土埃を巻き上げながら、何かが蠢いているのが見えてきた。それらは地平線を埋め尽くさんばかりで、まるで黒い波が迫ってくるかのように見える。
「死ぬんじゃねーぞ、お前ら」
「たりめーだ!俺は無事に帰ったら告白するって決めてんだ!」
「……お前、それ死亡フラグって言うらしいぞ」
だが、立ち向かう者たちに絶望の色はない。むしろ、逆境を跳ね除けんばかりの決意の色に染まっていた。
彼らは獣人。誇り高き獣人族だ。戦いを好み、戦いに生き、そして戦いに死ぬ。獣人とは元来そんな種族なのだ。それに今、彼らの肩には何千何万の同胞の命がかかっている。何よりも同胞の繋がりを尊ぶ彼らにとって逃亡はおろか、撤退の文字はない。
故に誰もがギラギラとした目で前方の大群を見据えていた。
「今宵は【血吸丸】が疼いておるわ」
「クックック。『飛んで火に入る夏の虫』とは彼奴等のこと。我が相棒の錆にしてくれる」
「虚無の支配者と呼ばれる私に敵はない。ふふふふふふ」
何人かおかしなのがいるが概ね問題ないようである。
やがて、魔物の大群は魔法の射程距離に入った。
「魔法部隊!魔法を放ちなさい!」
クレハより魔法部隊に攻撃命令が下された。
各々は自らが1番得意とする魔法を放つ。
魔法に長けた99人の孤人族が所属するかの部隊は【九尾隊】などと呼ばれている。その部隊が一斉に魔法を放った。
さて、エルフに次ぐと言われる魔法適性を持つ孤人族が一斉に殲滅魔法を打つとどうなるだろうか?
それは最早天変地異である。
ある一角では全てを消し炭にする火魔法が展開され、ある一角では全てを氷づかせる氷魔法が展開されている。土魔法は津波のごとく魔物を襲い、水魔法は魔物を窒息死させる。風魔法は魔物を細切れにし、雷魔法は一瞬で命を刈り取る。闇魔法は底なし沼のごとく魔物を呑み込み、光魔法はレーザーのごとく魔物を貫通する。
だが、それでも魔物の勢いは止まらない。仲間?の屍を超えて陣地を目指す。
そんな中グレイも魔法を放つ。
「【雷球】」
最上級雷魔法に分類される【雷球】は巨大な雷の球状の塊を出現させる魔法だ。
その魔法が魔物の大群のど真ん中に展開されると多くの魔物を呑み込んだ。あとには球型に抉られた大地だけが残っていた。
それを見た魔法部隊は負けじと更に魔法を撃ちまくる。
「ふ〜ん、貴方凄いわね。流石はSランクの冒険者だわ」
「そりゃどうも」
「私も出ようかしらね」
クレハが指示を副隊長に一任し、自らも魔法を放つ。
「じゃあ、いくわよ!【氷河期】!」
クレハから放たれた魔法ーー【氷河期】は最上級氷魔法に分類される。その威力は凄まじく、広範囲殲滅魔法の中でもその規模はトップクラスに相当する。だが、デメリットもある。かの魔法は制御しにくいのだ。故に下手をすれば味方をも巻き込んでしまう危険な魔法でもある。
しかし、クレハの魔法はその限りではなかった。完璧に制御された【氷河期】は敵だけを呑み込んでいた。
「へぇー、凄いですね」
「ふふふ。ありがと」
「でも、そろそろ範囲魔法は使えない、か」
「そうね。これからは単発魔法になるかしらね」
「俺は前に出ることにします」
「そう。お互い頑張りましょう」
「ええ」
グレイは陣地を降り、戦闘部隊の前方へと向かう。
魔物たちは最初に比べれば減ったようだが、それでもまだまだ数は多いようだ。仲間の屍を超え、ひたすらに陣地を目指すのが見える。魔物との距離は1kmといったところだろうか?
「おう!来たか!」
「じゃあ、予定通り俺は率いてるやつを始末しに行くんで、後は頼んます」
「ああ!こちらこそ頼むぜ!」
サウザーは戦闘部隊の最前線にいた。グレイは最初「司令官がこんなとこにいるのはどうなんだ?」とも思ったが、どうやらこれが彼のスタイルらしい。曰く、「司令官が前線で戦っていた方が士気が上がる」だそうだ。まあ、目の前で強敵を次々に薙ぎ払う上司がいれば、士気が上がるだろう。
グレイは両手に刀を持つ。黒い刀身を持つそれらの刀の銘は【新月】と【黒陽】。【アダマンタートル】の甲殻を使って作った一級品だ。
2本の刀は太陽光に反射し、黒光りしていた。その光景はまるで獲物を見つけた肉食獣の眼光のようであった。
グレイは物凄いスピードで駆け出す。
やがて、魔物の大群と衝突した。
グレイが両手の刀を振るう度に魔物が蹴散らされていく。1人で全部の魔物を相手するのは流石の彼でも不可能だが、立ちはだかる魔物を斬り捨てるだけならばお茶の子さいさいというものだ。
グレイは魔物を斬り続ける。かなりの数の魔物を葬ると、やがて大群の後方に到達した。
大群の後方にはSランクと思われる魔物が3体いた。
その3体の魔物は牛の頭を持つ魔物だった。
かの魔物の名は【ミノタウロス】。Sランクに該当する魔物だ。その実力はSランクに分類される魔物の中でも最上位に位置し、Sランク最強と名高いあの竜種に負けずとも劣らない強さをもつ。
だが、グレイにとってはその程度の強さは問題にもならない。
Sランクを超える強さをもつ魔物。EXと呼称されるランクに分類される【四帝獣】を1人で倒しているのだから。
彼は両手の刀に魔法を展開する。
「【雷纏】」
その魔法は黒い刀身を青白く染め、バチバチと音を立てる。
グレイは駆け出し、その刀を【ミノタウロス】に向かって袈裟斬りに振るう。
斧を手に持っていた【ミノタウロス】はそれでガードしようとするが、グレイが振るった刀はまるでバターでも斬るかのように斧を切断した。刀はそれで止まることなく、やがて【ミノタウロス】の身体に到達し、その身を斬りつけた。
「モオォォォォォォー!」
斬られた【ミノタウロス】は叫び声を上げる。
だが、グレイの攻撃はそれで止まることはなかった。もう片方の手に持った刀で今度は斬りつける。
その刀は確実に【ミノタウロス】の体を捉え、その命を刈り取った。
「「モオォォォォォォー!」」
残りの【ミノタウロス】は仲間が殺されたことに怒り、叫びながらグレイに近づくと斧を振り下ろす。だが、グレイはそれを軽々と避けた。行き場を失った2体の攻撃は空を斬ることとなる。
ドガァァァーン!
その攻撃はそんな音を立てながら地面に突き刺さった。地面には突き刺さった斧を中心に小さなクレーターができていた。どうやら彼らが使う斧は相当な質量をもっているようだ。そんな斧を軽々と振り回すだけのパワーがあるのだからSランク最強の一角というのも納得かもしれない。
しかし、それでは足りない。今彼らが相対しているのは人類及びEXランクの魔物も含めた全生命体最強の一角なのだから。
グレイは【ミノタウロス】が攻撃を外した隙をつき肉薄する。そして、横一閃に振るい一刀のもとに2体を一刀両断に斬り捨てた。
(早く戻らないとな)
だが、それで終わりではない。まだまだ多くの魔物は王都目指して突き進んでいるのだ。グレイは【ミノタウロス】をインベントリにしまうと急いで陣地を目指す。
陣地の前ではすでに戦闘が始まっていた。
戦闘部隊はサウザーを中心に危なげなく魔物を斬り捨てている。魔法部隊はクレハの指示のもと、単発魔法にて戦闘部隊の援助、及び戦闘部隊から抜き出た魔物を処理していた。
グレイは戦闘部隊に参加する。今回攻めてきている魔物はゴブリン、オーク、オーガの3種類と各々の上位種たちだ。比率的にはゴブリン種5000、オーク種3000、オーガ種2000といったところだろう。
ただの人間種ならこの数を相手取るのは厳しいだろうが、今この場にいるのは戦闘能力が高い獣人族だ。国民1人1人が驚異的な身体能力を有している。
まあ、そんな種族だからこそ【魔物大行進】が起きるような危険地帯に平気で国を作れるのだろうが……。
現に獣人族の兵士及び冒険者たちは数の振りを物ともせず、1人1人が数十の魔物を倒していた。
グレイも立ちはだかる魔物を刀を振るって倒していく。彼が1回刀を振るうたびに複数の魔物が倒されている。
「やっぱすげーな!俺も負けらんねーぜ!」
それを見たサウザーはギアを上げ、今まで以上の速度で魔物を倒し始めた。そんなサウザーの様子を見て彼の部下たる戦闘部隊も士気が上がり、討伐速度はさらに上がった。
そして、魔物と戦闘部隊の衝突から2時間後。過去最大の【魔物大行進】は終息をみたのだった。




