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グレイ、新しい武器を入手する

 

 例の魔物ーー【アダマンタートル】との死闘から3週間。グレイは今【鉱山都市バーミリオン】にいた。


 何故、バーミリオンにいるのか?それは死闘を演じたあの時に遡る。



 ♦︎♦︎♦︎



「グレイ様ーっ!」


 グレイが【アダマンタートル】を倒したと同時に超級結界魔法も解除され、エリザベートが走り寄ってきた。その背後からはエルフの教師やリズベット、ミレイが付いてきている。他の生徒は呆然としているか、生きている喜びを噛み締めている様子だ。


「グレイ様!怪我は!怪我はありませんか!」


 エリザベートは泣きそうな表情を顔に浮かべている。彼女からしてみれば、グレイは恩人であると同時に師匠であり、兄のような存在でもあるのだ。そんな彼が死地に赴いていたのだから心配しない道理はない。


「大丈夫ですよ」


「ヒック。よがっだでず。グレイざま、ヒック。あまり、あまり無茶はなざらないでぐだざい……うわぁぁぁーん!」


 エリザベートはとうとう泣き出してしまった。彼女は恐ろしかったのだろう。グレイを失うことが。


 彼女の世界は狭い。そんな彼女の大事な人は数えるほどしかいないのだ。常に貴族であろうとする彼女であっても、今回のような状況では気張ることなどできなかった。


「ごめんな、エリー」


 グレイはそんなエリザベートの気持ちを察し、本当の兄が妹に接するような優しい声で一言謝りながら頭を撫で続けるのであった。


「私もあんな感じのお兄ちゃん欲しかったな……」


「私も欲しいです……」


 リズベットとミレイはエリザベートとグレイを見てしみじみと思うのだった。


「それはそうと、グレイさんってあんなに強かったのね」


「そうですね。魔法に刀技。どちらをとっても一流、いえ超一流の域ですからね。一つ分からないのはあの赤いオーラのことです。あれは一体どういう魔法なのでしょうか?」


「う〜ん、私も見たことないな〜」


「あれは確か【鬼神化】という魔法です」


 エルフの最長老教師ーージルフォードは答えた。


「「【鬼神化】?」」


「はい。私も400年以上生きてきて、まだ2回しか見たことありませんが間違い無いと思います。そうですね、端的に言えば、究極の身体強化魔法といったところでしょうか」


 ジルフォードが【鬼神化】を見たのは過去の【四帝獣】との戦いの最中だ。その時の使用者は【獣王国ユーラザニア】の獣王であった。


 今から200年ほど前。【四帝獣】が前々回に出現した時のことだ。当時は【アダマンタートル】ではなく、【キングレオン】が出現し、人族の都市が5日ほどで2つ滅ぼされた。


 危機感を抱いた人族の王は各国に助けを求めた。【四帝獣】が出現した以上、それは最早その国だけの問題ではないからだ。助けを求められた各国は自国で最強の部隊を編成し、出陣した。


 その時に【獣王国ユーラザニア】から出陣したのが、当時世界最強と謳われた獣王だった。彼は自らを中心とした部隊を編成、人族の国に出陣した。


 獣王は【キングレオン】に遭遇するや否や、全員を下げるように進言した。丁度、前線では司令官が殺され、崩壊寸前だったこともあり、その意見は通ることとなった。


 そして戦い始めた獣王であったが、その戦いは人知を超えるものであった。戦闘直後、獣王の身体から赤いオーラが立ち上ったかと思えば、その場にいた殆どの人物が目で追えない速さで動き出し、1人で【四帝獣】を相手取っていたのだから。


 それからは両者譲らずに死闘を演じていたが、やがて獣王の一撃が【キングレオン】にクリーンヒットし勝負に幕を下ろした。


「ーーということがあったんですよ。私はエルフの部隊として参加していたのですが、あの戦いには誰も介入できず、見てるだけでした。それほどに高度な戦いでしたから……。今回と同じですね。ははっ……。はぁ……」


 ジルフォードは自らの不甲斐なさに乾いた笑いを浮かべ、ため息をついていた。


「……(ねぇ?先生落ち込んでるんだけど、なんて励ませばいいの?)ヒソヒソ……」


「……(ここは下手に励ますと惨めな気持ちにさせるだけです。放っておくのが賢明でしょう)ヒソヒソ……」


「……君達。聞こえてるからね」


「「ご、ごめんなさい」」


「いいですよ。……コホン。それでその戦いが終わった後にその時の赤いオーラは【鬼神化】という魔法だと教えてもらいましてね」


「なんのお話ですか?」


 リズベットたちの会話にエリザベートが突然入ってきた。どうやらジルフォードが過去話をしている間に落ち着いたらしい。


「グレイさんの魔法についてよ。あの赤いオーラの魔法は見たことなかったから」


「あれは【鬼神化】というそうですよ」


「エリーは知ってたのね」


「はい。先ほどグレイ様に教えてもらいました」


「あっ!そうだっ!グレイさんの使ってた武器を見せて欲しいんだけど頼んだら見せてくれるかな」


 リズベットは自らが前衛ということもあり、実力者が持つ武器に関心があるのだ。


「今聞いてみましょう!グレイ様ー!ちょっとよろしいですかー!」


 グレイは今、【アダマンタートル】をインベントリにしまうために少し離れた位置にいた。彼は【アダマンタートル】を手早くインベントリに収納すると、エリザベートたちの方にやってきた。


「なんですか?」


「グレイ様が使っている武器を見せて欲しいのですが、構いませんか?」


「ああ、そんなことですか。別に構いませんよ」


 グレイは腰に差した刀を抜く。そして、エリザベートに渡そうと近寄った。その時だった。


 ペキンッ。


「「「「……」」」」


「ああっ!グレイ様の刀が!」


 グレイの刀が折れた。それはもう見事な真っ二つである。


「1年来の相棒が……」


「「「短っ!」」」


「グレイ様。おいたわしや……」



 ♦︎♦︎♦︎



 ということがあり、愛用の刀が折れてしまったのだ。それはもうポッキリと。【アダマンタートル】との戦闘は武器の耐久力を大幅に削り取っていたようである。


 前の刀は2本ともゲーム時代にボスからドロップしたアイテムだった。最高クラスのボスのドロップアイテムだったので、非常に高い魔力伝導率と頑強さ、鋭利さを持ち合わせていた。


 グレイが自分で刀を作れればいいのだが、彼は生憎と鍛治ができず、得意とする錬金術では刀を作れない。いや、正確に言えば錬金術で作れるのだが、彼が使う武器のレベルに足るものは作れないのだ。


 故にグレイは鍛治師に新しく刀を作り直してもらうことにした。そのため、鍛治師が多く住まう【鉱山都市バーミリオン】に来たのだった。


 そして、バーミリオンの冒険者ギルドで聞いた結果、紹介された店が【ガンツ刀鍛冶店】という店だった。人族とドワーフの夫婦が経営する店で、夫婦ともに刀を専門に作る刀匠らしい。刀を作らせたらバーミリオン1の腕だと名高い店、とのことだ。


 刀はつい2週間前に注文し、今日受け取れる手筈となっている。注文したのは刀を2本だ。折れてしまったのは1本だけだが、もう1本も大分劣化しており、いつ折れてもおかしくない状態だったからだ。


「武器を取りにきました。ってあれ?ナタリーさん、ご主人は?」


「……奴はもう死んだ。もういないものと思ってくれ。これからは私がこの店を切り盛りする」


 彼女は部屋の隅に視線を送る。


 その視線の先には物体Xがあった。物体Xの正体はこの店の主人にして刀匠でもあるガンツだ。そこには最早、イケメンの面影はなかった。


 グレイは昨日、彼が夜の街で見知らぬ女性といたところを見ていた。おそらくそのことがバレたのだろう。ちなみに、彼はその時に「罪はバレなきゃ罪じゃない。浮気も同じだ。それに迸るこの俺のリビドーは誰にも抑えることなんてできないのさ。ふっ」と爽やかに告げていた。


 グレイは「浮気バレてるじゃねーか!」と思ったが、そのツッコミはそっと心の中にしまい込んだ。


 ガンツは刀匠としての腕は超一流なのだが、遊び人なのが玉に瑕だ。


 グレイが後に聞いた話だと、ガンツは今までも数え切れないほどの浮気をやらかしており、バレる度にこのような仕打ちに遭っているらしい。


 だが、そうして浮気を繰り返す一方で、嫁さんLOVEを内外で公言しているので、ナタリーは制裁を加えるに留めているようだ。彼らの本質は相思相愛なのである。


「……」


 グレイはなんとも形容しがたい気持ちを浮かべながらガンツを見る。


 そんな時、どこからともなくガンツとナタリーの娘が現れ、手に持った棒切れで父親をーーいや、父親だったものをつつきだした。遊んでいるようだ。その度にピクピクと動く姿は中々にシュールだった。


「リリー、そんな物に触れるんじゃないよ。中で菓子でも食べてな」

「はーい」


 リリーは棒切れを父親に突き刺すと、店の奥へと向かっていった。


 ガンツ、不憫な男である。まあ、自業自得だが。


「ガンツさん。どうぞ安らかにお眠りください。あなたのことは忘れません……南無三」


 グレイは物体Xの前で手を合わせた。彼も大概ひどい奴である。ガンツは心の中で「俺は死んでない……」とツッコミを入れるのだった。


「ふう。……それで刀は出来てますか?」


「はいよっ。コレだ」


 グレイは刀を受け取る。そして刀を鞘から抜いた。


 その刀は見事な出来映えであった。黒光りする刀身は頑強さを持ち合わせていながら、何でも斬り裂けそうな鋭利さも秘め、魔力の電動率も非常に高い。ゲーム時代のチートスペックな武器と同等、いや、それ以上かもしれない。


「今回の仕事は本当に楽しかったよ。また何かいい素材があったらよろしく頼むよ」


 今回の刀作製に使ったのは【アダマンタートル】の牙と甲殻だ。牙は刀の芯として、甲殻はそれを覆う素材として使われている。【アダマンタートル】の甲殻は魔力伝導率が非常に高く、今までの武器で1番強力なものとなりそうだ。


「ありがとうございました。そう言えば、この刀は銘はなんというんですか?」


「うん?ああ、言ってなかったな。銘は【新月】と【黒陽】だ」


「【新月】【黒陽】……か。いいですね。気に入りました。」


「そうかい?そりゃ良かったよ」


「また、何かあったら来ますね」


「ああ、頼んだよ」


 グレイは【ガンツ刀鍛冶店】を後にした。


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