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グレイ、店を出す

 


 希望に沿う店が見つかった。


 その一報を受けたのは「店の紹介をする」という約束が交わされてからもうすぐ3ヶ月が経とうという時だった。グレイはどのような場所なのか確認するためにカイゼルの案内で店へと向かう。


 その店は大通りから外れた道を奥に奥に進んだ裏通りに面していた。その店は石材と木材が使用された建築で割と新しいようだ。


 2階建ての建物で1階部は店、2階部は住居になっている。店内及び2階部の室内は掃除がキチンとされていたようで、今すぐにでも入居できそうな状態だ。この建物は状態、形状、位置、その全てがグレイの満足いくものであった。カイゼルはどうやら本気で探してくれていたようである。


 店の確認を終えたグレイは満足気な顔を浮かべつつ、売り出す商品を考えるために2階部の居間へと向かう。


 居間にはソファーやテーブルなど、最低限の家具もすでに準備されていた。カイゼル、できるやつである。グレイはカイゼルへの認識を少し上向きに修正するのであった。


「お主はどんな商品を売るんじゃ?」


「いくつか候補は考えていますが、今のところ決定しているのは7種類です。回復ポーション4種類に、魔力回復促進ポーション、解毒ポーション、それと結界を張る魔道具ですかね」


「結界を張る魔道具?! お主そんな物まで作れたのか⁈」


「ええ。まあ」


 この世界の人々は、グレイに言わせれば、魔法陣への理解が浅い。そのため、魔法陣の中でも特に難解な結界魔法の魔法陣を魔石に刻める者はほぼいない。


 仕組みとしては空気中の魔力を取り込む魔法陣と結界魔法を発動する魔法陣を魔石に刻む。この際に空気中の魔力を取り込む魔法陣の魔力吸収量と結界魔法の維持及び展開するのに必要な魔力量が等しくなるようにする。そうすることによって無駄のない魔力運用を実現できるのだ。


 また、結界魔法の魔道具はその性質から大きな魔石を使えば、その分だけ魔法陣をより細かく刻めるのでより強力な結界魔法を張れるようになる。


 グレイが異世界生活初日に使用した結界魔法を張る魔道具はSランクの魔石、それもドラゴンから手に入れた魔石を使っている。そのため、Sランクの魔物の攻撃なら問題なく防げるというぶっ壊れ性能である。まあ、流石に通常のSランクの魔物とは一線を画するドラゴンの全力攻撃は防げないが……。


 今回は量産のために作業効率を重視し、グレードを落としてC〜Aランクの魔石で作ることにしている。それでも使った魔石と同等ランク以下の魔物の攻撃なら問題なく防げるのでかなり有用である。


 この魔道具が1つあれば、村や町での魔物による人的被害は減り、旅の道中も安心できることだろう。


 そんな夢のような魔道具の名は【守るんです】。


「お主……ネーミングセンスないのう」


「グレイ様……」


「ほれ? エリーも呆れてーー」


「流石です!」


「なにぃぃぃぃぃぃー⁈」


「どんな効果があるのかが一目で分かるそのネーミング! さらには親しみやすくも覚えやすい! 流石はグレイ様です!」


「うんうん。やはりエリーは違うな。この名前の良さが分かるとは。この名前の良さが分かる者は今まで誰もいなかったというのに」


 グレイ同様エリザベートも残念な感性の持ち主だったようだ。この場で世間一般的な感性を持つ者はカイゼルだけのようである。


「儂は【万能防御結界イージス之盾八式】とかが良いと思うぞ?」


「「それは絶対ないと思います」」


「むう。そうか?良いと思うのだが……」


 前言撤回。カイゼルも残念な感性の持ち主であった。今この場には世間一般的な感性を持つ者はいなーー否。いた。セバスチャンである。


「……グレイ様。単に【結界具】でよろしいかと」


「「「それ(だ)(じゃ)(です)」」」


 セバスチャンのファインプレーで残念な名前のまま売りに出されることは回避された。


 この日以降、セバスチャンはグレイの魔法具命名の相談役に就任することが決定した。



 ♦︎♦︎♦︎



 売り出す魔道具を考えた日より1週間が経過した。


 グレイが開く錬金術専門店【狼の祠】で売り出す商品は三日三晩考えに考えた末に以下の通りに決定した。


 ==============================================================

 ⚫️ポーション系⚫️


 名称:【下級回復ポーション】

 効能:傷(小)、打ち身、打撲の治癒

 値段:3.000G


 名称:【中級回復ポーション】

 効能:傷(中)、打ち身、打撲の治癒

 値段:10.000G


 名称:【上級回復ポーション】

 効能:傷(大)、打ち身、打撲の治癒

 値段:50.000G


 名称:【最上級回復ポーション】

 効能:傷(極大)、打ち身、打撲の治癒

 値段:100.000G


 名称:【エリクサー】

 効能:四肢再生・病気、全ての傷の治癒

 値段:10.000.000G


 名称:【魔力回復促進ポーション】

 効能:魔力回復の促進

 値段:10.000G


 名称:【解毒ポーション】

 効能:解毒

 値段:10.000G


 ⚫️魔道具⚫️


 名称:【結界具 壱式】

 効果:結界魔法(強度C)

 値段:300.000G


 名称:【結界具 弍式】

 効果:結界魔法(強度B)

 値段:500.000G


 名称:【結界具 参式】

 効果:結界魔法(強度A)

 値段:1.000.000G


 名称:【魔法袋 壱式】

 効果:収納(10m×10m)

 値段:300.000G


 名称:【魔法袋 弍式】

 効果:収納(30m×30m)

 値段:500.000G


 名称:【魔法袋 参式】

 効果:収納(50m×50m)

 値段:1000.000G

 ==============================================================


 品数はまだ少ないが、状況を見て順次増やしていく予定だ。


 開店は明日。グレイはとりあえず、上級までの回復ポーションを20本、最上級回復ポーションを10本、エリクサーを5本、魔道具は2個ずつをインベントリから出し準備する。今まで暇を見つけては作製していたため、後は店に並べるだけである。


 1時間後には全ての商品を並べ終え、【狼の祠】は店の体裁をなしていた。


 そしてグレイは満足した顔を浮かべて、その様子を見るのだった。



 ♦︎♦︎♦︎



 そして翌日。今日は【狼の祠】開店初日だ。


 一番客は武闘大会の準決勝で戦ったレイラだった。なんでも近くに演習に来たので開店祝いも兼ねて寄ったらしい。彼女とは武闘大会以来仲良くなったので、機会があれば会う仲となっていた。


「こんにちは、グレイ殿。開店おめでとう。それにしても本当に店を開いているとはな」


「こんにちは。まあ、半分は趣味が入ってますが」


「……普通の人は錬金術なんかできないんだが。まあいい。それより中級回復ポーションを5本お願いしたい」


 レイラには以前回復ポーションを使ってもらったことがあり、それ以来定期的に売っていたのだ。なんでも他のポーションよりも質がいいのだとか。


 グレイはカウンターの後ろの棚から中級回復ポーション5本を取り出し、レイラに手渡す。


 レイラはポーションを受け取ると、懐に入れた丸型の財布から銀貨5枚をグレイに手渡した。


「それにしてもグレイ殿が作るポーションは本当に良い品だな。販路を拡大すればひと財産築けると思うが……」


「忙しいのは俺の望むところではないんですよ。それに稼ぎたかったらこんな裏通りで営業なんてしてませんしね」


「それもそうか。だが、私にとってはその方が都合が良いかもしれないな。グレイ殿のポーションが世に広まれば間違いなく人が殺到する。そうなってポーションを買えなくなるのは痛いからな」


「ありがとうございます」


「また買いにくる。その時はよろしく頼むぞ」


 レイラはそう言うと店を出ていった。



 ♦︎♦︎♦︎



 レイラが出て行ってから3時間が経過した。この頃になるとグレイは思うことがあった。


「……客が来ない」


 当たり前である。いくら質の良い品物を売っていたとしても知られていなければ誰も来るはずがない。それに誰がわざわざ好き好んで裏通りにある目立たない店に来るだろうか?


「店番探すか……。それでめぼしい人には俺が営業をかけて……ブツブツ」


「何をブツブツ言っておるんじゃ?」


「ああ、カイゼルさん。店番してくれる人を探そうと思うんですがいい人いませんか?」


「店番? ふむ、そうじゃな……奴隷を買うのはどうじゃ?」


「奴隷? この街にいるんですか?」


「うむ。おるぞ。この国では奴隷にもキチンと人権を与えておるからな。主人は衣食住を保証しなければならないんじゃ。そういう訳で見た目はほとんど奴隷と分からんようになっておる」


「へぇ〜。そうなんですか。じゃあ奴隷を買いますか」


 店番として奴隷を買うことが決定した。それはそうと今更ながらグレイはカイゼルが来た理由が気になった。


「そう言えば何しにここへ?」


「開店祝いじゃ。ほれ、この酒をやろう」


 カイゼルは袋に入れられた酒を取り出した。取り出された酒はどうやら赤ワインらしい。


 この国では16歳で成人なのでグレイは酒を飲むことができる。ただ、まだ飲んだことはないのだが……。


「ありがとうございます。それでカイゼルさん、仕事は終わったんですか?」


「い、いや。実は抜け出してきた。……あ奴は恐ろしい男じゃ。儂を部屋に閉じ込めて仕事をさせるからのう」


「……」


(それは自分のせいだろ)


 グレイはカイゼルの言葉を聞き、思うのだった。


 ちなみにあ奴とはセバスチャンのことである。カイゼルは隠居したものの、元公爵家当主なのでそれなりに仕事があるのだ。しかし、隠居して以来、仕事をサボるようになりセバスチャンに捕獲されては部屋に閉じ込められて仕事をさせられている。


「して、どうするのじゃ? 奴隷を買うなら今から案内してやっても良いぞ?」


「ならお願いします」


「よし! なら付いて来るのじゃ!」


 グレイは店の扉にぶら下げた板を『クローズ』にしてから店を出る。


 カイゼルに付いて歩いていると、やがて別の裏通りに出た。どうやらこの区画は奴隷商が多く商いをしている区画のようである。


「着いたぞ。では儂はこれで帰る。あまりここに長居するのは外聞が良くないのでな」


 カイゼルは元とは言え、公爵家の当主だ。そんな彼がこのような場所にいると色々邪推する者がいるのだろう。


 グレイはカイゼルを見送る。そして1軒の儲かっていそうな奴隷館へと入った。



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