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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第三章
51/63

上がる舞台

明けましておめでとうございます!

昼は親戚の子守!夜は執筆!

なんやかんやで楽しい年末年始でした、今年もよろしくお願いいたします!

 ラウルがヒーロー公園のヒーローであると子供達に公認された次の日。朝早くからラウルは厩で馬の世話に精を出していた。その横では仏頂面で的確に馬の毛並みを磨く老人もいる。最近ではこの仏頂面が機嫌の良い時に多いとラウルも分かるようになってきた。

 ガースルトは意外にシャイな性格をしているのだ。喜びを人に見せることに慣れていない。本当に機嫌の悪い時はこの老人は表情でなく声に出す。無言で顔を顰めているときが、一番機嫌がいい時だ。


「おい、もういいぞ。今日は叙勲するかもしれねぇだろ。ひとっ風呂浴びとけ」

「・・・なんですかそれ?」

「あ~~。陛下みてぇな偉い人からからご褒美を貰う事だ」

「あは、だといいなぁ」


 他人事のように言いながら馬を一頭一頭撫でては磨く。それを見てガースルトは、馬でもやった方がいいんじゃねぇかと独り言つ。大演習において名指しで褒められることをの意味を理解していない。そんなラウルを見て、呆れながらラウルを厩から押し出した。

 こうなるともう厩に入れてくれないことはラウルも知っている。ポリポリと頭を掻きながら兵舎に戻る。リーゾの前で柏手を一つ、朝食を済ませて柏手二つ。妹達に朝の挨拶をしに向かおうとすると、クレアが食堂に姿を現した。


「む」

「おはよ。ごーめんって昨日は、もうからかったりしないってば」

「・・・むぅ」

「ホントだってば、朝メシ食ったら。鎧取りに行こうや、ね?」

「・・・はい」


 どうやら将軍邸に着いてからも、ラウルは笑われ続けたらしい。タニアも思わず破顔するほどの威力だった。マイアはその話に母が気を取られている間に、鉢を自室のバルコニーへ運んでいた。すぐにバレたのは有能な家令の目敏さのせいである。

 そんな笑い話に笑われ疲れたラウルは、昨日の帰りからクレアにイエスと、ノーの返事しかしていない。からかい続けるクレアには勿論。師の様に格好付けたつもりが、大外れになったことの方にもダメージを受けている。

 そんなラウルを見て、妹二人は表情を伺うように近づく。


「なんでもないよ、おはよう。二人とも」


 家族にその心境は隠せなかった。アッシュは飛びつくこともせず、ひたすらに腹をラウルの脚へ擦りつける。視線は常にラウルの顔へ。

 ユキはいつものように鼻先をラウルの顔へ寄せる。鼻を擦りつけながら時折、ブシュブシュと粗い鼻息が鳴っていた。臭いでラウルの心境を量るように。


「う~ん、どうやったら先生みたいに格好良く、出来るかなぁ?」

「オゥ・・・」「キュゥ」

「難しいね。でもクーちゃんはちょっと笑い過ぎだと思う」


 そんな会話をしていると、水の張った盥を持ったイーリスがねぐらにやって来た。不定期ではあるが、朝の時間に余裕があるときは、欠かさずイーリスがアッシュとユキの面倒を見ている。代わりに彼女の都合もユキに聞いてもらうのだ。主に唾液と言うカタチで。


「あ、イーリス。おはよう」

「えぇ、おはようございます。ラウル様」

「ユキ、体を拭こうね」

「キュル・・・」「オンッオンッ」


 身体の巨きさから考えられないほどの小さい声で、ユキが鳴く。渋々といった具合だ。こんな時、アッシュはイーリスから離れない。むずがるユキから護るためと、拭い残しがないよう見張るためだ。

 イーリスはアッシュの前者の考えしか読み取れていない。しかしそれでも謝意を感じている。竜に人の身だけで近づこうなど、常識外どころではない。そのため、アッシュの喜ぶ食べ物などを頻繁に城の厨房から都合を付けて来るようになった。特に、捨てることの多い獣や家畜の内臓などだ。


「いつもありがとう、アッシュさん。今日はまだ貰えてないけれど、またお肉を貰ってくるわね」

「オゥンッ!フスッ」

「あは、ありがと、イーリス」


 ようやくユキの首の周りと尻尾を拭き磨いた頃、クレアもねぐらにやって来た。これからラウルと今日の任務の確認だ。任務は兵舎の中心、玄関口に掲示される。護衛、警邏、招集、などである。

 もうすぐ伝達する係の者が掲示している頃だろう。


「むぅ」

「もー、ホントにゴメンよ。機嫌なおしとくれよー」

「珍しい。どうしたのですか?」

「別に、なんでも」


 昨日のいきさつをまだ知らないイーリスはラウルを見て驚いた。奔放、かつ明朗な少年だったラウルがクレアに対してむくれている。それが妙に、可笑しい。

 初めて見る年相応の態度にころころと口を隠して笑う。先ほどまでの我慢しながら身体を拭かれているユキのように見えた。


「フフ、流石はご兄妹ね。ユキさんと同じような拗ね方」

「えっ!?むっ・・・んぐぅ・・・はぁ。クレア様、もう笑わない?」

「おうよ!アタシも騎士だかんね!」

「言いふらしたり、しない?」

「アタシは、しないけども・・・マイアがどうかねぇ」


 ラウルはしまったと表情に出す。マイアには口止めもなにもしていない。いずれミリアにも伝わることだろう。イーリスに知られるのも、ミリアに昨日の話が伝わるのも、転げまわりたくなるほどだ。

 しかも昨日の大喧嘩の負い目も、まだある。あるが何としても口止めしようと、ラウルは心に決めた。そしてむくれるのもなんとか堪える。末の妹のようだ、と言われれば兄としてのプライドが傷つく。


「何があったのですか?昨日は」

「い、いい!今度話すよ!ほら、行こ・・・行きましょうクレア様。今日もお仕事です」

「ふぃ~。はいはい、ようやく口きいてくれたか」


 やれやれと首を振りながら押されるままに、ラウルとクレアは玄関口へ。そこでは掲示板にせっせと羊皮紙や通達の書面を張る伝令兵の姿があった。張り終えるのを待ちながら、クレアは各方面の通達に目を通す。各領地の大まかな状況や、各国の大きな動きなども中にはある。また国内要人の動向や、特別訓練の通達などもだ。

 ラウルはまだ字に明るくないため、流し読み程度で分かるものだけを読み進める。フェッロの指導で読み、書き、算術は修めているが、まだまだ年に合わない程度だ。唯一算術だけは旅中でも必要だったのか、まともに指導についていけている。

 二人が掲示板を眺めていると、伝令兵が声を掛けて来た。


「おはようございます。クレア上級騎士と、ラウル騎士見習いですね?」

「ん?おはようさん。そうだけども・・・個人通達かい?」


 緊急の場合、また非公開情報などは、こうして直接個人に口頭で通達される。クレアも久しぶりの事である。前回は問題を起こした際、その時の上官から呼び出しが掛かって以来だ。

 伝令兵の口からは、登城せよとの招集が掛かる。護衛騎士としては珍しくない。ラウルが来てからはクレアに登城の通達は無かったが。

 そして詳しい時刻と、鎧を着用のうえ登城せよとのことだった。クレアはピンときたようだ。


「との第一騎士団長からの通達です。ただちにご用意を」

「っしゃ!やっぱりね!ラウル君急ぐよ。鎧取りにいかにゃあ」

「え?城に行くんですか?」

「ったりまえよ。聞いてたろ?叙勲だよ叙勲!」


 バタバタと伝令兵の礼も見ずに謝意を伝えて、兵舎の倉庫へ。大きな損傷もなかった二人の鎧はもう既に届けられているはずだ。急ぎ回収して着用、待機だ。おそらく他の受勲者も同じように用意をしていることだろう。

 クレアに関しては、希望は薄い。しかし見習いの身分の者だけで何かしらの取り立てがある場合は、監督官として同行する決まりがあった。


「ご褒美を貰うってやつですか?」

「そ!そんでアタシは上司として同行する。いいかいラウル君。跪くときは左膝を立てて、陛下や妃殿下の顔を見ないように俯くこと。覚えてるね?」

「えぇと、はい」

「あとは有り難き幸せって言っときゃいい。何かあったらその都度アタシが指示するからね」


 謁見など、そうそうあるものではない。ミリアの初陣の際は特別な計らいだった。部下の謁見にクレアも胸が高鳴る。今回は、ユキのお陰でもなく、ミリアのおまけとしてでもなく、ラウル自身が勝ち取ったものだ。正式なものとしては初といっていい。

 鎧を身に着けて、二人は兵舎で待機する。十の刻に城門広場へ集合とのことだった。準備を終えて、もう間もなく。身嗜みを何度もチェックしながら兵舎を出た。第一兵舎からはラウルとクレアを含め七人。広場に着くとデルクの姿もある。他に貴族の姿もあった。


「よう、ったくギリギリじゃねぇか・・・」

「あー、今日は言い争いしてる場合じゃないわ。ラウル君のチェックしとくれよ」

「おう。・・・ん。・・・うん。あぁ。良し。いいだろよ」


 ほっと一息ついて二人は脚を肩幅に開き、皆のように兜を左脇で挟む。休めの姿勢のまま城の前で待つ。刻限になればここに集まった者が隊列を組んで、入城。謁見の間へ向かう。少し待つとマイアもクレアの後ろに休めの姿勢を取って並ぶ。今ここで無駄口を叩くわけにはいかないのだろう、無言のままだ。

 さらに待つことしばし。衛兵が隊列を城門の前で組み、一人がラッパを鳴らす。入城の合図だ。

 衛兵達が槍を集合した騎士、貴族達へ掲げる。その間をラウル達は静かに通り過ぎる。城門をくぐる際は右手を左胸に当てながら歩く。前と横を歩く騎士の真似をなんとかこなしつつ、ラウルも神妙な顔のまま城を歩く。自分達の足音以外は聞こえなかった。規則正しく鳴る足音が謁見の間の扉を開く。

 扉の奥にも衛兵が両端に並び、その奥には玉座に着くバルドの姿があった。右にはシャルローゼ、左にはミリアの姿。

 玉座まで伸びる階段の下ではドルトが式典用の鎧で立っていた。獅子の紋章の入ったマントを肩から流し、受勲者達が前に進むのを待つ。視線はクレアの後ろに釘付けだったが。


「これより!大演習の叙勲式を始める!」


 無言のまま功労者たちは右膝を付く。それを見てバルドはゆっくりと玉座を立った。今回の招集は大演習に置いて大きな戦功を挙げた者達。その功労へ向け、国王から直に言葉が掛かる。今後の働きにも期待すると言う大仰な挨拶だった。

 次いでドルトが羊皮紙を手に取り、一人一人の名前を読み上げていく。名前の後には今回の詳しい戦功の内容を添えて。重要な拠点、地点を守り抜いた者、多くの相手を討ち倒した者、作戦立案において見事な献策を納めた者。それぞれがそれぞれの勲功と褒美を述べられる。

 やがてラウルと、マイアの名も読み上げられる。


「次に、ラウル、マイアスイル・ラツ・アステモル、両騎士見習い」

「「はっ!」」

「貴君等の指揮官を討ち取った働きは見事なものである。混戦の中(・・・・)よくぞやり遂げた。これを表彰し、両名を従騎士に任命す。報奨金と共に受け取るべし」

「「ははっ!」」

「加えて、ラウル従騎士(・・・)、貴君にはこの昇進に当たり諸注意がある。これは後程説明する。しばらく城にて待機せよ」

「は・・・はっ!」


 マイア、クレアを含め跪く皆が怪訝な顔を俯いたまま隠す。この場で昇進や、新領地の任命、税の免除などを褒美として口頭で受け取る。この後はそれを示す書状を受け取って終わりのはずだった。例年通りであれば。

 一時は妙なドルトの指示に空気が変わった謁見の間。しかしすぐに緊張感が帳のように降りてくる。その緊張感を保ったまま、つつがなく叙勲式は終わりを告げた。


「今回の大演習も見事な内容だった。諸君らの今後の研鑽が以降の演習を盛り上げることだろう!期待する!」


 ドルトの締めの言葉を以て閉会となる。跪いていた功労者達は一斉に立ち上がり、右拳を左胸へ、そして深く首を王へ垂れる。そして回れ右、謁見の間を後にした。

 そして城門まで全員が出たところで、第二騎士団長アインズ・ヴァイ・ドラウィが待ち構えていた。この男の号令を受け、功労者達は略礼を返し解散となる。


「・・・ふぅ」

「お疲れ、緊張したろ?ラウル君よ」

「ちょっとだけ、でも城にもう一度戻るんですよね?」

「みたいだねぇ・・・まぁ、多分、何かの確認とかだと思うけど」


 一人二人と城を後にする中、ラウルとクレアはその場に残っていた。その二人へデルク、マイアが駆け寄る。デルクはいつもの表情にやや緊張が見え、マイアはことさらに明るい笑顔だった。


「おう、ラウル従騎士、おめでとさん」

「おやぁ、デルク士爵。この度は昇進オメデトウ。姓はどうすんだい?」

「ウルセェ、これから考える。・・・なぁ、諸注意ってな、何だ?」

「それがさっぱりだねぇ・・・」


 今回の叙勲として騎士爵を賜ったデルク。彼は姓を持たないため、今回の爵位を受けたことで新しい姓を作らねばならない。デルクを家長として『家』がグラントに生まれることとなった。貴族の入り口に立ったということになる。

 しかしデルク本人もそれは後のことで良しとした。今はラウルの事が優先と見える。今回の叙勲式にロフォカルの姿は無かった。辞退することは可能だが、その権利を行使する者はほぼいない。


「む、四人とも残ったか・・・まぁ、良い。ついてまいれ」

「ドラウィ団長?」

「急ぐぞ、陛下がお待ちだ」


 有無を言わせず、一人アインズは城へ入る。四人は慌ててその後を追った。ズンズンと長身の大股に付いて回る。痩身だがアインズは身の丈が高く、歩く速度が速い。マイアは小走りになるほどだ。

 デルクは慣れているのか、腑に落ちない顔をしながら後を追う。城の奥、サロンへ辿り着く。


「入れ」

「っと、団長は・・・?」

「拙の案内はここまで、入れ。デルク、拙に恥をかかすなよ。まぁヌシなら大丈夫だろうが・・・ではな」


 口数もそこそこにアインズは踵を返す。サロンに呼ばれることはこれまでも何度かあったが、今回はどうやら様子が違う。わざわざ第二騎士団長の案内で通すなど、これまでにない。特にデルクは初めてのことだった。

 控えめにノックを送り、部屋の反応を待つ。少し遅れて、中からフェッロが音もたてずにサロンの扉を開いた。


「失礼します。デルク上級・・・失礼、デルク士爵、クレア上級騎士、ラウル、マイア従騎士二名。参上しました」

「うむ、入るといい」


 髭のネクタイを撫でながらソファに腰掛けるバルド。座ったままで入室を許す。四人は静かにドアをくぐる。そしてバルドの手の勧めるままに向かいのソファと、椅子に腰かけた。


「まぁまずは、楽にすると良い。茶でも飲みたまえ」

「「「「はっ」」」」


 紅茶が運ばれる頃にはドルトも入室し、王の背後へ。叙勲式の件をここで話すのだろうかと四人は身構える。が、何故かドルトは難しい顔のまま口を噤む。やや重い空気に四人がカップに手を伸ばしかねていると、またもサロンのドアが叩かれた。

 フェッロが再現するようにドアを開くと、シャルローゼがミリアを伴って入室する。


「お待たせしたわね。あ、そうそうデルク士爵?今回の大演習の結果に不満はあるかしら?」

「は?・・・いえ。・・・私には、何も。強いて挙げるなら・・・配置に不満があったくらいなもので」

「そう、盾で殴り殺されず(・・・・・・・・)に済みそうね」

「は・・・はっ!?」


 肝を急速に冷やすデルクにシャルローゼはころころと笑う。隣ではバルドも蝶ネクタイと肩を揺らしていた。ドルトだけが溜息を密かに漏らす。

 申し訳なさそうにソファに座るミリアもデルクに目線だけで詫びる。母がごめんなさいと。クレアとマイア、ラウルは話に付いていけていない。


「はっは!うむ、このような悪戯は久しいな」

「うふ、実はね。白軍の指揮を執っていたのよ?」

「はぁ!?」「えぇ?!」「へぇ!」


 事情を知らぬ三人は三様に驚く。本陣にまで向かうことは結局なかったが、指揮から配置に至るまでの采配の妙は感じていた。驚きが大きかったのは言うまでも無く、デルクだ。仮面の下を察した彼は狼狽を隠せない。

 それを見てドルトは大きな咳払いをする。なんとか四人を宥め、落ち着かせた。


「ゴホン!まぁ、そういうことだ。皆落ち着け、話はそれだけではない」

「・・・と、いいますと・・・」

「うむ、ラウルのこと・・・というよりも妹達の事だな」

「えっと、アッシュ達が何か、しましたか?」


 兄として、妹が何か迷惑を掛けたのだろうかとラウルは問いかける。ここのところは大人しくしていたはずだと思い返しながら。

 今回の議題はそうではなかった。ラウルがバルドへ、グラント王国へオウルの恩を返すにあたり。軍人として籍を置くことが本決まりとなった今日。アッシュとユキの扱いも軍の一部として扱うかどうかの最終確認だった。つまりは、ラウルの個人の力の一部としてグラント王国の編入させるか、否か。


「あぁ、確かに・・・今後の扱いを客分で貫くか、客将とするかということですね」


 デルクが客分と客将の違いを細かくラウルに説明する。要約すれば、用心棒と傭兵のような違いかなとラウルは理解する。しかしそれならばいっそ、アッシュとユキを軍部に組み込めばいいのではないかとも考える。


「あの、二人を完全に、僕みたいに騎士のようにはしないんですか?」

「それはお主と、妹達次第だ、ラウル」


 応えたのはドルトだ。国の軍部を総括する者として、スノウウルフと竜など、おいそれと編入できない。責任の問題と本人、否、本狼と本竜の意思の問題がある。

 現状アッシュもユキもラウルの指示しか通らない。となれば何かしらの問題があれば、ラウルの責任となる。アッシュはともかく、ユキの起こす問題など甚大な被害を起こしかねない。それはラウルだろうと、ドルトだろうと簡単に負える責任ではないというのが軍、そして各上層部の見解だ。


「それにね、ラウルさん。あの子達をヒトの戦に巻き込むのは、可哀想だとも思うの」

「うぅ、ん・・・」

「今までのように、旅の途中で火の粉を払うのとは、話が変わってくる。戦とはそういう物なのだよラウル」


 狩りと、戦は根本は似ている、しかし大きく違う物だ。ラウルもそう思う。出来るだけヒトと争わせたくないと言う気持ちも、ある。特に、ユキに関しては。

 そこで、と前置いてバルドが今後のアッシュとユキの運用を提案してきた。アッシュに関しては、護衛騎士として、ラウルの部下として補佐のみに徹すること。これはグラント王国の話ではないが、大陸のとある国では軍用犬を用いる国があると言う。これに倣い、狼をその任に就けるという方針。殺傷においては最低限を心掛け、臭いによる追跡、探索を主としたラウルの補佐につけるというものだった。


「ヒズーリのようにですか?」

「ほう、ヒズーリ連合国を知っていたか。うむ、その通りだ」

「成程、それなら・・・」


 デルクは王の提案に思案顔で頷く。次いで、ユキに関しての運用を説明した。

 ユキに関しては、地上での運用は基本的に行わない事。巡回や、連絡、輸送に留めるとのことだった。地上においての護衛任務や移動は破壊や殺傷の被害があれば付け込まれやすい。そこを危惧して空中のみの任務を申し渡すことにする、と。


「これら任せるには責任が大きいが、どうかね?ラウル」

「その仕事なら、二人とも問題ないと、思います。でも飛獣が出た時は?」

「そこでも、ユキは戦闘命令は出さない。自衛のためのみ許可を出そうと思うのだ」


 バルドの問いに、うぅん、と顎に手を当ててラウルは考える。恐らく問題はないだろう、と。もう一度強く頷いた。それを見て王家の三人も将軍も頷いて返す。

 そして王妃は申し訳なさそうに口を開いた。


「ごめんなさいね、ラウルさん。そうでもして、実績を早めに積んでおかないと他国に申し開きが立たないと思うのよ」

「あーナルホド。そういうポーズってことですね?」

「そうなの。クレア上級騎士にも多少の責を負って貰うことになるわ」

「・・・母上、本音も伝えておかなくていいのですか?」

「こうすれば、ユキちゃんもアッシュちゃんも堂々と散歩出来るようになるわ!」


 グっと両拳を握る王妃にデルクは肩を落としそうになる。しかしなんとか堪えた。運用は間違っていないのだ。有用なのだ。空を制した国など、この大陸にはかつてない。その大きな一歩を先んじることは決してデメリットだけではない。そう、考えることでデルクはなんとか堪えた。

 しかしこの考えが、デルクの将来を大きく左右することになる。それを知ったデルクは机の前でこう零したという。


「どうしてこうなった・・・?」

グラント王国モフモフ計画が徐々に・・・

今回もお読みいただきありがとうございました!

また次回!

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