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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第三章
49/63

蘭と薔薇と向こう傷

 知識なんてないんや・・・いつもお世話になってます。グーグル先生。

 大喧嘩のホールがまだ騒がしい頃、客間ではタニアと、やや緊張気味のクレアがコーヒーを飲んでいた。流石のクレアも、堂々と将軍を平手打つタニアに恐々とした態度だ。


「それで?クレア上級騎士。私に何かあるのかしら?」

「あー、何と言いますか、そのー・・・」

「はっきり仰い」

「は、はいっ。部下・・・ラウル君のことで、今後、どう守っていけばいいかと・・・思いまして」


 カップを音もたてずに降ろし、将軍の妻としての遍歴を語る。クレアが知る話もいくつかは合ったが、知らない内助の功も数えられないほど語られた。それらはあくまでも妻としての支え方だったが、部下持つ上司として聞くべき話がいくつも混ざる。話が進むにつれクレアはドルトの印象が柔らかく変わってゆくのを感じた。

 クレアは騎士の中では最上級の身分にあるが、政治、軍事高官や、官僚とは程遠い。ドルトニアンとはクレアにとって雲の上の存在だった。親しみは感じていたが、英雄や偉人としてのイメージが強かったのだ。


「将軍も、人なんですねぇ・・・」

「オウル殿であっても、人よ。クレア上級騎士。ラウル殿も、そう。そのつもりで当たりなさい」

「参考になります」


 これまでの意識が変わったと思う頃には、いつしかホールから聞こえていた大声も消えていた。最後に聞こえた声はマイアの大きな泣き声だった。

 小競り合いも、気も、そろそろ済む頃だろうか。そんな気配を察してタニアが呟く。


「次は思春期か・・・どんな面白いことになるかしらね」

「プッ!あっはっは!」

「奥様、如何いたしますか?」

「しばらく放っておきなさい。どうせ申し訳なさそうな顔で会いに来るでしょう」 


 傍に控える男の声に、まるで見てきたように言うタニア。クレアが訝し気な表情を向ける。これが母の勘なのだろうかと。しかしタニアは否定するように言う。昔のあの二人のようにねと。

 母の勘ではなく、過去の経験であるらしい。剣聖と豪槍の喧嘩ともなれば、屋敷のホールでは受け止められない物だっただろう。今回の小競り合いなど、見た目通り子供同士のじゃれ合いだと言わんばかりである。

 事実、半刻もしないうちに二人は申し訳なさそうな顔で客間のドアを開けた。悪戯を自ら報告するような年相応な表情に、クレアもタニアも苦笑した。


「イッ!く、クーちゃん、そこ結構打たれたから・・・」

「へいへい、じっとしてな。ったく」

「か、母様。私あんまり殴られなかったから大丈夫・・・ひぅ!」

「女の子が傷を放っておくんじゃありません。打ち身も痣も残りかねないのよ」


 使用人の持って来た薬箱から、軟膏や消毒の薬を子供二人に塗りたくる。騎士と言う立場が育てたものか、タニアもクレアも的確な手当てを素早く終える。

 そして三人が温かい飲み物を、マイアは少々遅い朝食を摂る。


「う~、頭ジンジンする・・・」

「ご、ごめんねマイア。あ、タニアさんも。ドルトおじさんの事、あんなこと、思ってないから」

「う、うん。私も、その、ごめんなさい」

「ふふ、分かってるわ」


 すっかり仲も直ったと大人二人は息を吐く。マイアが食べ終える頃には、大演習の反省会を兼ねて今後の訓練を現役の三人で組み立てる。タニアはそれを嬉しそうに眺めていた。

 そしてもう一人、三人を眩しそうに眺める者。アステモル家の家令を務める壮年の男。名をセブルスといった。タニアの座るソファの三歩ほど後ろに控えて立っている。


「お嬢様、今日のご予定はいかがなさいますか」

「あ、えっと・・・非番だし、どうしようかな」

「ふむ、休日ならば何か気晴らしにでも出られますかな?」

「あ!じゃあマイア!一緒に商業区に行ってみない?丁度クーちゃんと誘おうって話してたんだ」

「行く!すぐ着替えて来るから!」

 

 タニアが後ろを振り向いて目配せをするが、セブルスは畏まりましたと、会釈で躱す。タニアとしてはもう少しラウルを持て成したかったのだろうが。長くなりそうだ、とセブルスは解散を促す提案をした。

 将軍家においては本来、家令や執事は必要ない。当主は領地を持つ貴族ではないし、軍事統括の補佐官は城に複数人いる。加えて、家の使用人達も女主人としてタニアが纏めればいいだけの話である。

 にもかかわらず、家令としてセブルスがアステモル家を補佐しているのは、ひとえに当主とその妻が家を空けがちだからだ。その将軍家を一手に担うこの男の立ち姿に、ラウルは思わず声を掛けた。


「・・・おじさん、凄いね」

「ホゥ、なんのことですかな?」

「ね、おじさんも先生・・・オウル先生と勝負したことあるの?」

「いいえ。足元にも、及びませんな。無論、我が主にもです」


 澄ました顔で言い放つセブルスを、ラウルはまじまじと見る。それが本当だとしても、その佇まいは猛者のものだと感じた。クレアにもなんとなく伝わったのだろう。将軍家を訪問したのはクレアも初めてであるため、タニアにばかり気を取られていた。ラウルの声で初めてセブルスに注意を向けた。

 この男は決して弱くない。しかし強者に己を強者と悟らせない、実力を隠し通せる強さがある。獣のような嗅覚で、ラウルはそれを瞬間的に看破した。


「いつかおじさんとも手合わせ出来ないかな?」

「光栄ですな。申し遅れましたが、セブルスと申します。しかし、御眼鏡に適うかどうか」


 ピリリと緊張の走る中、タニアとクレアは眼を合わせて笑い合う。強者を求め挑む剣聖の影を、ラウルに重ねたのだろう。そんな会話が流れる中、客間へ向かってパタパタと走る足音が聞こえて来た。ドアの前でピタリと止まって、ゴソゴソと動く気配、二呼吸ほど遅れてドアが開く。

 黒革のブーツに、淡い青のマーメイドスカート、白のキャバリアブラウスと黒い襟付きのカー・コート。首には青いマフラーを巻いたマイアがラウルを急かす。


「さ!行くよラウ兄!」

「およ、様付けじゃなくなったのかい?」

「プライベートはいいの!ね!」

「う、うん、ちょ、ま、待って」


 クスクスとクレアも含み笑いで付いて行く。このくらいまでは泣いた子もすぐに笑う。タニアとセブルスに会釈だけの礼を送り。屋敷を後にした。三人が外に出た後、客間では心地よさそうにコーヒーをお代わりするタニアと、優雅にカップに注ぐセブルスの姿があった。


「まず、どこに行こう?」

「あ!白竜糖 (ハクリュウトウ)久しぶりに食べたい!」

「おいおいラウル君よぅ、さっき教えたヤツは?」

「え?あー!えーと・・・マイア可愛いよマイア!」

「!?~~~~っ!」


 青いマフラーで顔を隠し、クレアをはたく。呵々と笑いながら甘んじて受ける。先ほどまでの急かすような歩調もようやく落ち着いた。落ち着いたのは歩調だけだったが。

 まず一行はいつもの商業区入り口へ向かう。露店通りはそこにある。白竜糖 (ハクリュウトウ)の飴は最近少しだけ有名だ。屋台が開いていれば並ぶ人達を目印にすればいい。

 とはいえ、屋台であるからには場所も時間も不定期である。仕入れや仕込みによって開店が前後もするし、場所も取り合いになることもしばしば。


「でも今日って開くのかな。昨日は城壁でやってただろうし」

「いやぁ、やってるだろうね。今日は大演習参加者と家族で市場も賑わうだろうさ」


 まさしく、その通りであるらしい。商売人はそれ以外の人間の休日こそが稼ぎ時だ。子供連れに飴は良く売れる。母親の長い買い物に付き合わせるには、もってこいの代物である。

 露店通りに入るとクレアの言う通り、色々な売り文句が飛び交っていた。肉の串焼きに、果物、玩具、小物に民芸品。多少広い石畳の通りが、家族連れの客で賑わう。


「んー・・・あー、居たね」

「行こっラウ兄!」


 目敏くクレアが見つけると同時に突撃。クレアだけ苦笑しながら歩み寄る。既に数人が並ぶその飴売りにマイアとラウルも並んだ。

 子連れの親が子供と一緒に飴を選んでいる。中には顔馴染みの客も居た。ラウルがグランエストに着いた頃から竜を模った商品が巷に溢れたが、そのほとんどは土産物が多かった。今や日常品にまで竜が付く物も開発されつつあるらしい。


「おっ!どーだ、見ろ。やっぱり来ただろう?かぁちゃん」

「はいはい、ウチのとーちゃんは流石だよ」

「ラウル坊ちゃん・・・いや、昨日のを聞いたらもう坊ちゃんなんて言えねぇな。毎度っ」


 昨日も充分な売り上げを出したにも関わらず、今日も屋台を開くのはラウルを迎えるためだったららしい。飴の親父の読み通り、買い物に来たラウルを見て上機嫌に飴を細工する。売り手はその女房だ。

 どうやら売りながら作り続けなければ間に合わないらしい。


「アタシャ、ラウルちゃんから変えないよ?今日も大六つでいいのかい?」

「えーと、今日は小さいの二つと、持ち帰りに大きいの四つで・・・ってあるかな?」

「あー、ちょいと、お待ちよ。お客さんいくつだい?そっちのお客さんは?」


 まだ先に並ぶ客に希望の数を聞いて回る。どうやら足りなくなりそうだ。珍しい飴細工は子供達にとって長い買い物を過ごすに足る飴だ。並ぶ父親も母親も子に買い与えねば、店に入れないと踏んでいる。

 それをラウルは眺めながら満足そうに笑う。一つ先に並ぶ男の子が母親の陰からじっとラウルを見ていた。腰に差したシンゲツが珍しいのだろう。


「こんにちは」

「・・・ウン」

「ほら、こんにちは。だって」

「・・・ちは」


 やっと聞こえる挨拶の声を残し、サッと母親の陰に全身を隠す。笑って母親もラウルに会釈する。人見知りする年頃のようだ。隣でマイアも手をピコピコと振る。やがて順番が来たのかその子の手には白狼糖 (ハクロウトウ)が握られる。勿体無い物のように控えめに舐めながら、母親に手を引かれて人込みに入って行った。


「いやぁ~お待たせだね。ラウルちゃん。・・・ま~た違うオンナノコ連れちゃって」

「あは、クーちゃんはあっちにいるよ」

「へ~、『ま~た』なんだ、へ~」

「おっとと、ごめんよ。またっていっても、こないだは侍女さんさ。お嬢ちゃん心配いらないよ」


 ほー、ふーんとマイアはイーリスさんだろうとアタリを付ける。それを見て、飴屋の女房はいつものようにラウルの頬を突く。


「で、持ち帰りなんだけどねぇ。足りそうにないから取り置きしておくよ。小はあるけど、いいかい?」

「えーと、じゃあ大きいのを、竜2つと、狼2つ。小さいのは食べながら歩くよ。あるやつでいいです」

「はいよ!毎度っ。帰りにでも取りに来とくれ」

「おっとぉ!今日は代金は受け取れねぇぜ、ラウルぼっ・・・ちゃん。だめだ、抜けねぇや」

「えぇ?でも・・・」

「いんや、今日はタダだ。王様気分を味合わせてくれよ。騎士様にご褒美さ、今日のコイツは」

「おっ、いいこと言うじゃないか。じゃあアタシャ王妃様気分だね。ホラ、褒美を取らす、ってね」


 ラウルはマイアと顔を合わせて、ははぁ、と両手で受け取った。膝まではつかないが、恭しく受け取った。夫婦はニコニコと、そして女房がマイアにだけ渡しながら耳打ちする。マフラーに再度、マイアは顔を隠す。

 この夫婦はマイアを名前しか知らない。将軍令嬢と知れば慌てふためいたろう。いや、慌てるのは親父だけかもしれない。


「さ、さぁ行こ。ラウ兄。後ろも並んでるから」

「あ、うん。じゃあまた。おじさん、おばさん」

「おうよ、楽しんできなぁ」

「はいよ、お客さんお待たせしたねぇ」


 すぐに離れる二人から次の接客へ。ラウルとマイアはクレアの元へ戻る。ようやくラウルの服を見立てに行くのだろう。とはいえ、クレアもマイアも男物の服の店に詳しくはない。ブラブラと商業区の服飾店を飴を舐めながら見て回る。

 三件目の服飾店の前でラウルの眼と、足が止まる。その店のディスプレイには、売り物であるはずの服を人形が着こなし、その隣には良く知る人物の肖像画が並べられていた。肖像画の人物も、人形と同じ服を来たその絵をラウルは眺める。


「これって・・・先生・・・だよね?」

「あー、ここね。入ったことはないけど。みたいだねぇ」

「へぇえ。私も聞いたことない。噂になりそうな店構えなのに・・・えぇと『薔薇と梟(ロイゼンオウル)?』」


 そのオウルの絵を飾る店、外から客は見えない。鉄柵にガラスが嵌め込んだドアからにラウルは手を掛ける。ゆっくり開くとドアベルがチリンと鳴った。


「あら、いらっしゃいませ」

「あのー、ここって・・・服屋さん?」

「えぇ、その通りよ、ボウヤ・・・あらっ!ヤダちょっとテンチョーゥ!テンチョーゥ!」


 バタバタと店員が重い足取りと野太い声で(・・・・・)店の奥へ店長を呼びに走る。ラウルの後ろで女性二人は怪訝な顔を見合わせた。やがて同じく野太い声でその店長とやらが文句を言いながら出て来た。


「ちょっと、もう何なのォ?今閃いたデザインを描いてたのよ?」

「それどころじゃないわよテンチョウ!そこの子!その子見て!」

「あら可愛いボウヤ、何か服をおさ・・・が・・・しィ!?」


 服飾の店長と呼ばれる()店主はラウルをしげしげと見つめ、腰へと視線を降ろす。そして何やら驚きの声を上げた。咄嗟にクレアがラウルを連れ出そうと肩を掴むが、店長はそれよりも素早くラウルの腰元に抱き着いた。マイアが思わず腰に手を伸ばすが今日は帯剣していない。


「こっ!これは!まさかミカヅキ?!いや!違うわ!装飾が違う・・・!ぼ、ボウヤ!これ何処で手に入れたの!」


 すわラウルの貞操の危機か、と身を固めた女性二人は店長を見やる。その視線と手つきには妖しいものはあれど、厭らしいものは感じなかった。ギリギリで。

 しかし、流石は服屋の店主、形だけでなく装飾まで記憶しているらしい。シンゲツをミカヅキでないとすぐに見抜いた。


「あ、えと、それはシンゲツっていって。リケルト工房で・・・」

「テンチョウ!それもだけど、アーシ見たことあるのよ!その子!オウル様のお弟子さんよ!」

(ぬぁ)んですって!?本当!?ホントなのボウヤ!ついに・・・ついに来たのねこの日が!ワタシの熱い情熱(パトス)をぶつける日が!み、漲ってきたァ!ボウヤ!いえ、お名前はラウルよね!?そうなのよね!?」


 どうやらオウルの弟子ということも名前も、噂から伝え聞いていたらしい。ラウルのベルトを懇願するように力強く揺らすその店長は、何かを懇願するかのように視線をラウルに向ける。そうであってくれと。

 控えめに頷くラウルをみて店長は祈りを捧げるように、手を胸の前で合わせる。眼尻には涙さえ浮かべたままで。どうやらこの店主、オウルの大ファン、もしくは信者であるらしい。


「取り乱してゴメンなさいね。ワタシ達、オウル様のファンなの。ここに置いてる服は半分以上がオウルモデル(・・・・・・)なのよ」

「オウルモデル?って?」


 鸚鵡返しに尋ねるラウルへ店長は店の品を指し示す。そして店内いたる所にオウルの肖像画が飾られている。よくよく見れば、その絵の中のオウルの服装を模した商品が多かった。

 薔薇と梟(ロイゼンオウル)、ここの店長は名をネモという。どういった経緯かは知らないが、オウルに心酔しており、その魅力を飾るための服飾を日々考案している。商品の半分は肖像画や伝え聞いたオウルの服装を再現した物。もう半分は、ネモ自身がオウルに似合うはずだと、着せたいと考案したものを作り上げているのだ。


「でもまさかお弟子さんであるラウル様が来てくれるなんて・・・ウッ」

「あー、まぁちょっと立ち寄っただけなんでね。さ、行こうかラウル君」

「え、ここで服が欲しいなぁ。先生の着てた服なんて、旅用のしか知らないし」


 クレアの用意した退路をバサリと斬り捨てるラウル。興味を引かないわけがないのだ。この少年にとっても大事な人物なのだから。クレアも承知の上での提案だったが、肩を落として受け入れる。今のところは教育上よろしくないとは言い切れない。今のところは。


「さぁ見ていって頂戴!思う存分!」

「えっと・・・じゃあこれ5枚づつ下さい」


 ピキリと動きを止めるネモ。よりによって一番地味な旅用のジャケットと、革のスボンを手に取るラウル。しかも同じものを5着ときたものだ。ラウルから見て、こういったものをオウルが着ていたなぁ、と思う物を手にしたつもりだった。


「ちょっとお待ち・・・ラウル様」

「え?これ高いのだったかな・・・?」

「違うよラウ兄・・・同じのばっかりじゃなくて色々見て欲しいんだよきっと」

「日によって服は変えるモンだからさ・・・余所行き用とか式典用とか、普段着とか」

「ナルホド、頓着しないタチなのね・・・分かったわ!まずラウル様、普段着を上下合わせて三セット選びなさい!そしてお嬢ちゃん!お姉さん!アナタ達がワンセットづつ選びなさいな!ワタシも勝負服を選んだげるわ!コーディネイト勝負といこうじゃない!そしてワタシを唸らせることが出来たら。式典用を仕立ててアゲルわ!」


 クレアとマイアは面白そうだと顔を見合わせる。普段のラウルの格好は訓練服か、任務用の騎士服。それ以外は侍女達が見立てた余所行きだった。

 その時もイーリスとフェッロが中心になって見立てていたのだが。クレアは密かに羨ましがっていた。この、ややあどけなさの残る少年を、着せ替え人形に出来るのだ。鼻の古傷も疼くというもの。なんなら着替えを手伝ってもいい。しばらく店内をネモ、クレア、マイアが見回る。


「おっし!さーておいでラウル君。グフフ」

「あ、うん」

「え!早い!」

「お手並み見せて貰おうじゃあないの」


 クレアの選んだものはパーティ用の貴族服だった。何故か半ズボン。黒ジャケットに白シャツと赤い紐ネクタイ。演奏会でも想定したような、派手さはないがシックな作りのものだった。


「グフッ!や、やるわね・・・膝の裏をあえて出そうって言うのね・・・!」

「ふふん、どうだい。大人の女性にバカ受けだろ」

「えぇー?ラウ兄はもっとラフな方が・・・じゃあ次は私!」


 大人二人は何故か目線で握手でもするように見やった。そこにマイアが参戦する。

 こちらは宣言通りの少々ラフなコーディネイトである。茶革の綿入りベスト。白黒ボーダーのニットシャツ。濃紺の綿ズボン。動きやすさと見た目に重点を置いたらしい。爽やかな出で立ちにネモは溜息を吐いた。


「こちらも悪くないわ・・・。いいえ。よくモデルを見てるわね」

「んぐ、んっ!んんっ!」

「じゃあ最後はワタシね!ワタシのは・・・これよっ!」

 

 咳払いで何かを誤魔化そうとするマイアを尻目に、ネモが見立てた服を掲げる。

 鎖骨が見えるよう首元深く切り込まれた、Vネックの赤いシャツ。黒い革の膝までかかるテーラードジャケット。そして灰色のコーデュロイパンツ。季節感を感じさせるスマートな見立てだった。


「フフ!どうかしら?」

「「くっ」」


 女騎士二人は僅かに呻く。どちらも自信を持って選んだのだが本職には勝てなかったようだ。しかしすぐに諦めた。二人から見てもネモの見立ては似合っている。


「いい・・・勝負だったわ。刺激をビンビンと感じるような・・・!」

「うぅ、ラウ兄。ごめん・・・」

「クソウ、イーリスが居れば・・・」

「え、う、うん」


 予想外の熱戦だったのか、本気で悔しがる二人。ラウルにファッションのセンスなどほとんどないため、勝負の内容から、結果までほとんど理解できていなかった。

 後日、この店にはラウルの担当となりつつあるイーリスと、侍女頭であるフェッロまで巻き込む勝負になろうとは。この時のラウルには予想だにしなかった。


「いくら飾り立てようと、主役はあくまで本人なのです」

「なんてこと・・・このワタシが負けるなんて・・・ッ!」


 皆様、メリークリスマス!

ウチにはサンタは来ませんでした。代わりに来たのは仕事を抱えた上司・・・クソウ。

今回もお読みいただきありがとうございました!

三章はもうちょっと続くんじゃ・・・

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