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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第三章
39/63

山間からの帰還

GW!書き溜めるぞー!

 雪の降る山の中、そこに木剣を振るう三人の姿があった。寒さを堪えながらも体を動かし続ける。城を出てから四日が経つ。大演習に向けての特訓も今日で最終日として、総仕上げの乱取りとなった。


「マイア、先に!」

「はい!」


 マイアがクレアの前に滑り込み、二人に対するラウルへ斬り込む。クレアはラウルの側面へと回り込んだ。木剣でラウルの足元を狙い、鞘が躱す方向を絞る。まだまだ粗い連携だが、思わずラウルは顔を顰める。制限されたスペースを嫌ってクレアとは逆へ身を躱す。二対一の条件では、木刀で木剣を受けるには分が悪い。デルクのように盾があるなら話は別だが、一本の木刀では一人の攻撃しか受けきれない。

 故に足元へ斬り込まれた木剣を交わして、鞘を木刀で弾く。ラウルの木刀は子供とは思えないほど重い。充分な弧を描くそれは腕力以上の力が乗せられている。そして次に来るであろう木剣に意識を向ける。


「えやぁっ!」

「でぁ!」


 足元へ斬り込んだ木剣が雪の中へ差し込まれたのを見て更に後ろへ下がる。初日に見せられた姑息な手段、それを真似るように剣先で雪を巻き上げる。そして巻き上げた勢いのまま斬り上げようというのが透けて見えた。ラウルはさらに距離を取ろうと後ろへ数歩、足を送る。小剣の間合いは充分に外したはずだ。

 次いで来るのは鞘だろう、そう考えてクレアへ意識を戻す。騎士として訓練を積んできた二人である。ラウルも分が悪い。防ぐだけで手一杯である。しかし守るだけでは相手を調子付かせるだけだ。ここはあえて攻勢に出る。


「ふぅっ!」

「!?」


 退いた分の距離で助走を付けてクレアへ斬り下した。意表は突かれたものの、追い足を止めずにクレアも鞘で迎え撃つ。力比べはクレア相手なら勝つ見込みもある。鍔迫り合いの駆け引きによっては力を割かずとも体勢を崩しうる。

 クレアの思考通りの鍔迫り合い、しかし押し勝つ必要は無い。ラウルの木刀を止めればマイアが一本を取れる。体重を掛け過ぎないよう木刀へ鞘を押し込んだ。そのまま片手を離し木刀の柄へ手を伸ばす。木刀を抑え込もうと伸ばしたその手にラウルの手が添えられた。


「へっ?」

「ごめんねっ!」


 親指を握られた、そうクレアが感じた瞬間に視界が回転した。身体の外へ捻られた腕に折られないように体を寄せたところへラウルの脚がクレアを払う。嘘のように背中から雪の上へ飛び込んだ。しまったと思った頃にはクレアの首に木刀が当てられる。


「嘘っ」

「まだマイアは斬られてないよっ。そのまま続行!」

「「はいっ」」


 雪の上に寝ころんだまま二人に檄を飛ばす。マイアの集中が途切れる前にクレアの声が間に合った。死体役は大演習でも周りの戦闘が落ち着くまで動いてはならない。首だけもたげてみると、マイアの追撃は無かったようだ。投げた瞬間ならまだ間に合ったかもしれないが、クレアの身体を盾に逃れたようだ。

 したたかな防御手段にチャンスを逃したマイア、位置を変えようと死体役のクレアを回り込む。二人の間に横たわれては斬り込めない。


「ふぅーっ」

「・・・」


 軽く息を整えるラウルにじりじりと回り込むマイア。あと数歩の位置というところでラウルが木刀を左手だけで上段に構える。クレアにはその意図が見えた、距離を開けているがゆえに。

 マイアが上段の木刀へと視線を向けた瞬間、右の頬を小石が掠める。思わず右目だけが反射的に閉じる。ミスディレクションに釣られたマイアに向けてラウルの飛轢が襲う。


「せぁっ!」

「くぅっ!」


 真向上段から、木刀が迫る。片目で速度に霞む木刀を窺うマイア。距離感は勘だけで掴んだ。木剣を両手で握り、辛くも防ぐ。横一文字に受けた木剣を、スルリと縦に、受けたのは両手。

 ラウルはまだ片手で木刀を握り込んでいる。鍔を合わせるように木剣を押し当て前に出る。遅れてラウルが両手で木刀を握る、その瞬間に離れ際に胴を打つ。その胴薙ぎに被せるように上段の斬り下しを続行するラウル。ピタリと木刀が頭部へ、木剣が胴に止まった。


「ふぅううう」

「はぁっはぁっ、はぁああああ」


 眼が良すぎるのも考え物だとマイアは息を吐いた。見たものには反応できる自信があったが相手の意図までは見抜けない。今後の課題と心に決めたマイアだった。


「相打ち、そこまで。ったく引き出しの多いコト」

「クーちゃんが手を伸ばしてきて良かった。押し合いになったら、いなすしかなかったから」

「欲張っちまったねぇ。ごめんよマイア」

「いえ、私も昨日の今日なのに無警戒でした・・・二対一で引き分けだなんて」


 しかしラウルは良い試合運びをしたと言える。もちろん分の悪い勝負から巻き返しを狙ったのもそうだが。それ以上に飛轢の使いどころをマイアに教えることが出来た。純粋な剣技勝負だけに絞れば、ラウルに余裕があったようにも見える。

 飛轢を見せるためにあえて片手に構えたのが良い証拠だ。飛轢を引き出した、というよりは敢えて見せたという内容だった。しかし大演習に向けての特訓としては良い試合運びだ。


「あー、残念だよぉ。飛轢の使い道は分かったけどぉ」

「今度は刀術だけで手合わせしようね」

「うんっ」


 気落ちはしているものの他の部分で手応えを感じているのだろう。拗ねたような言い方もフリだけだ。マイアは負けには悔しがっても腐ることはない。今回に関しても、ラウルから刀術以外を引き出したと満足したのかもしれない。

 二人が乱取りの内容にあれこれ反省点を上げだしたところでクレアは二人の背を押した。焚き火に当たりながらでもないと身体を冷やす。


「ほら、まずは汗をしっかり拭いなよ。大演習前に風邪引いたら大変だ」

「「はーい」」


 ますます子供の世話をする母親の台詞のようだが、気にしていても体を冷やすだけだ。手拭いで体を拭いて火に当たる。乱取り中脱いでいたコートをそれぞれ羽織り、獣達に身を寄せた。降り続く雪も翼で遮って貰う。


「よーし、まずは特訓、お疲れさま。二人とも明日まで非番だね?」

「「はいっ」」

「じゃあ明日はゆっくり休む事。明後日からは任務もあるしね。んで疲れが抜けてきたら城でまた訓練だ。いいね?それまでは隊列訓練や分隊行動の練習だ」

「「はいっ」」

「よしっ、じゃあ昼食取ったら街道までユキに乗って、狼煙台まで移動だね」


 今後の予定と帰りの予定を確認しながら昼食を取る。明日の休みを一日残して午後から城へ戻るのだ。特訓した疲れで任務が滞っては意味がない。クレアは平気だがマイアも乙女的に限界そうだった。寒さはユキのお陰で凌げたのだが、野宿の汚れを気にしていた。

 思春期ともなれば当然だ。泉で濡らした手拭いで寒さを堪えながら拭いてはいたが、やはり汚れが落ちた気がしないのだろう。


「お風呂に入りたい~」

「そうだねぇ、サッパリしたいね」

「あー、忘れてた」


 ラウルにとっては野宿で汚れを気にすることが無かったため、今思い出したようだ。第一兵舎では城務めの者が多いため、共同ではあるが浴場が備え付けられている。それ以外の兵舎に住むものは公衆浴場を利用する。マイアは自宅にあるが。

 帰ったらああしよう、こうしようと言い合う傍で、獣たちは三人には伝わらない会話をしていた。


(んー、お城に帰るみたいね)

(寂しくなるッスー)

(また来るんだろ?姐さん)

(まーね、何かあったら遠吠えで呼びなさい)

(うー、もうちょっといたかったなー)

(帰っても兄さんは遊んでくれるわよ。ミリアさんにも会いたいでしょ?)


 しばしの別れを告げて互いに首を擦り合う。もはや群れとして形を成しつつある。しばしの別れ、寂しそうに微かに鼻を鳴らし合う。その様子を見た三人は、しばしの間雪原を獣たちと駆け回る。逃げる獣たちに雪玉をに投げたり、雪の上で転ばされたりと笑いながら楽しんだ。

 そして満足した後、ユキの背に三人が跨った。見送りはアカとクロエだけだ。手の代わりに尻尾を大きく振っていた。


「じゃあね!また来るからね!アカ!クロ!」

「あーあー、結局名前付けちゃって」

「あは、またね。アカ、クロ」


 振り回す尻尾に負けないように手を振ってラウルはユキの首を撫でる。まずは狼煙台へと向かう。それまでは低空を飛ぶ。クレアはまだ少し体を強張らせていたが徐々に慣れてきたようだ。頭の中で地図と景色を照らし合わせながらラウルに指示を出す。

 そしてラウルはその指示の通りにユキを誘導した。しばらくすると狼煙台が見えて来る。まだ国内すべての街道に配置されているわけではないが、それも時間の問題だろう。近くに降り立ち、グランエストへ向けた狼煙を上げて貰う。ようやく城への帰還準備が整った。配備された兵士達も、初めて間近でみる竜に及び腰だったがしっかりと任務を果たす。


「ん、向こうの狼煙も上がったみたいだね」


 リレーのように狼煙がグランエストへと続く。こうして城へと伝令が走るよりも早く報せを伝えることが出来た。ユキに跨りなおしてグランエストへ飛ぶ。狼煙台にそのまま残る兵士達は羨望の眼差しをユキへと向けていた。


「慣れると気分がいいね!」

「でしょう!あぁ、早く巡回飛行が出来るようにならないかなー!」


 ユキの背で大声を上げる二人にユキも上機嫌だ。翼を力強く打ち、喉を高く鳴らす。狼煙台の配備も着々と進んでいる。その進行に合わせて承認も降りるだろう。それがマイアには楽しみだった。無論、ラウルも、ユキもである。

 グラント王国に来るまではラウル達も気ままに飛ぶことは稀だった。人に見つかれば厄介だと予見していたからだ。小さいアッシュを連れている時ですら人里で追われることもあったのだ。


「早くそうなるといいな!見えてきたよ!」


 馬車で半日以上掛けた道程もユキの翼にかかれば二刻も掛からなかった。狼煙の準備を含めてそれである。戦闘速度を出せばさらに短縮できただろう。今は遊覧飛行のように緩やかに飛んでいる。

 外門の上では狼煙が二本登り立つ。そのまま進入許可の合図である。外門を軽々と超えてグラント城へ向かう。兵舎横のねぐらは地上から40ミートルの高さなら充分見ることが出来た。


「ラウ兄様!」

「うん?」

「おかえり!」


 キョトンとした顔でマイアを見るが徐々に相好を崩す。馬車に揺られた数日前の淡い切なさを思い出して、マイアの一言にふにゃりと微笑んだ。オウルもこの国に帰ったときはこのような気分だったのだろう。雪の降る空で風に晒されながらも、その胸の内は温かい。


「ただいま!」


 兄妹で家に帰って来たと、空の上からそうマイアに返した。これからもこの温かさが続くと思うとラウルは嬉しくてしょうがなかった。が、すぐに胸の下の肝が冷えるのを感じた。

 ねぐらがしっかりと見えたのだ。誰かが腰に手を当てて厚着姿で仁王立ちしている。雪化粧の城の中でも目立つ黒髪は風に靡いている。その隣には大柄な男が腕を組んで佇んでいるのも見えた。


「まぁ、狼煙で先に知られちゃってるよねー・・・」

「忘れてた・・・」

「あれ?母様は?あれ!?なんで父様だけ!?」


 背中の三人の心境も知らず、ユキはねぐらへ直行する。風のように舞い降りて、ズン、と岩のような重さを地面で音立てた。アッシュは飛び降りてミリアの元へ走って行く。何かの報告でもするかのようにミリアの前で座り込む。一声吠えてミリアに撫でられながら尻尾を振った。


「うふふ、おかえり。アッシュ、ただいまの挨拶よね?」

「オンッ!」

「うむ、良く戻ったな。さて、他の者の挨拶がないようだが・・・?」


 ユキからのろのろと降りて二人の前に立つ。ユキもただいまと言うように、ミリアへと首を伸ばして鼻を押し当てる。三人の放蕩騎士はゆっくりと荷物を降ろし、胸に手を当て敬礼を二人へ送る。

 ミリアはゆっくりと頷いて三人を見回した。ゆっくりと口を開き、非常ににこやかに鈴鳴るような声がした。


「お・か・え・り・な・さ・い」

「「「ただいま戻りましたっ!」」」

「うむ。帰還、待ち望んでおったとも・・・まずはゆっくり湯にあたると良かろう・・・サロンで待つ・・・」


 響くような通る低い声で帰還を労うドルト。口角は上がっているが眼は笑っていなかった。三人は短く、はい、とだけ告げ駆け足で兵舎へ入る。その勢いのまま共同風呂へと飛び込んだ。クレアだけが、何でアタシまで、と思うが今は旅の垢を落とすのが先決だ。

 ラウルは一人でわたわたと更衣室で服を脱ぎ、体を洗う。客間の風呂のような上等な石鹸は無いが、それでも清潔を保つには充分なものが置いてある。しっかりと汚れを落として湯船で冷えた肝を暖め直した。女風呂の二人も同じような気持ちだろう。


「ただいまかぁ・・・んふ」


 心配を掛けたのだろうかと肝を冷やしたが、やはり帰って来たと思うと頬が緩む。バシャバシャと顔を湯船で洗い、体が温まった所で風呂を出た。少しだけ待つとクレアとマイアも出て来る。

 山の中では緊張もあったのか、風呂上りの心地よさに弛緩した顔のまま出てきた。


「あ゛ー・・・気持ちよかった」

「ここのお風呂初めて入りました、広くていいなぁー・・・」


 それぞれの感想を口にしながら出口へ向かう。湯冷めしないよう、もう一度顔や髪を拭い直して城へと三人で走る。そのままサロンへ入るとミリアとドルトが居る。何故かシャルローゼも居た。

 帰還の報告を再度、敬礼を以て伝える。そうするとシャルローゼから楽にせよとの返事があった。


「さて・・・マイア?ラウル?」

「「はい・・・」」

「何か、言う事は無い?」

「「ご、ごめんなさい?」」


 この一言かなと探りながら謝った。ふぅ、と一息漏らして、ようやくミリアの口からおかえりなさいが聞こえた。もう、普段通りの調子である。先ほどのねぐらでのような険のある声ではない。そして静かに、次は私も誘うように、と付け加えられた。


「クレア上級騎士、まずは娘が苦労を掛けた」

「はっ、とんでもありません!」

「エンスリオ山では何事も無かったか?」

「は、大演習に向けての心構えと、少々の訓練を・・・」

「非番ということだったが、痛み入る。儂の権限で非番を一日だけ伸ばした、休むと良い」


 クレアは小言を覚悟していたが、ほっと息を吐く。そして増えた休日に内心で両拳を握る。実際疲れはあった。なんといっても保護者同然の立場だったのだ。見習い軍属とは言え、余所の子供を四日も預かるのは責任が大きい。寝まくってやると心に決めた。

 隣ではマイアが意外に冷静なドルトを訝しんでいた。もっと揉みくちゃにされるか、怒鳴られるかと思っていたからだ。やはりタニアにしっかりと許可を取ったからだろうと思い直す。何かしら一言言ってくれていたに違いない。


「マイアには後で話がある」

「うぇっ!?あう・・・はい・・・」


 甘かったかと返事をしながら項垂れる。まぁ親に心配を掛けたのだからと甘んじて説教を受けることにした。


「あ、あの僕は・・・」

「む・・・うむ、なんだ。ラウルにも何事も無かったか?」

「あ、はい。特訓、楽しかった、です。はい」

「まぁ、強引に付いて行ったのだろうと、タニアと話していた。お前には特に説教はないが・・」

「はい」

「次からは、お前自身でもしっかりと親に許可を取れ、馬鹿者。以上だ。特訓の成果は後日見る」


 はいっ、と元気に返事して頭を下げる。それを見ながらシャルローゼはニコニコと紅茶を飲んでいた。悪戯を反省する子供を見守るような、そんな母の眼差しだった。子供達の萎縮っぷりが微笑ましくてしょうがないような、そんな母の余裕。

 ぽん、と手を合わせてシャルローゼが場を取り成す。


「はい、じゃあもういいわね?」

「フゥ・・・妃殿下もわざわざ見に来られなくとも・・・」

「あら、いいじゃない将軍。こんな面白い光景、久しぶり。独り占めはズルいわ」

「もう母上・・・」

「昔は将軍も、オウルと一緒に怒られてたのを思い出したわ」


 苦笑するドルトにラウルが目を輝かせる。いつか絶対に聞こうと。その視線から顔を隠す様にドルトはラウルにシッシッと手を振った。恥ずかしい過去なのだろう。

 そしてシャルローゼから勧められて、ようやく帰還した三人はソファに腰を降ろした。温かい飲み物に一息ついた。山の中には無い文明の味に体が自然と緩む。無論妃殿下と姫君、加えて将軍の前である。だらしなく姿勢を崩すことはない。


「明日は私もユキやアッシュと遊ぶからね、ラウル」

「あ、う、うん。じゃないや、はい」

「私もお邪魔するわね、ラウルさん」

「はい」

「では土産話を聞かせて貰おうか」


 雪山での特訓と、出会いをマイアが浮かれたように話す。執務があったのか、それとも休憩がてらなのか。遅れてサロンを訪れたバルドもその茶話会に参加した。時折、クレアからユキの背中からみた街道の話にもなった。

 一国の王ともなれば、空からみた街道の整備が気になるのだろう。特に今の季節の往来の状況や感想は貴重な資料と成り得る。クレアのような大人の視点から出る意見は価値がある。今回は初めての飛行ということもあり、クレア自身目を見張らせていたわけではない。しかし行きがけの馬車での街道の往来や、狼煙台の改良点などを主観と騎士の視点を交えて伝える。今後の整備の意見として取り入れるようだ。

 一介の騎士の意見であってもこの王は真摯に受け止める。当然だが王族や貴族だけが利用するものではないからだ。しかしこういう態度が取れない王も多い。バルドが遣り手と言われるのはこういった柔軟な態度と、懐の広さが理由の一つだろう。


「という感じで、冬の街道は交易馬車しか見かけませんでした」

「うむ、となると冬はユキの巡回も意味が大きい物となるな。各都市への連絡も伝令兵では人手も時間も掛かるだろう」


 各都市の状況を伝えるために兵を走らせていては、災害や飢饉に間に合わないこともある。特に予測が難しい飛獣災害などがそうだ。そういった場面でユキの翼は国にとっても心強い。そのためにクリアせねばならない問題は多いが。

 真面目な話も交えつつ、横ではミリアの土産話も続く。もはや普段通りの口調で。


「とか、他にもラウ兄様の旅の話とかして」

「えぇ!ラウル、アールヴに会ったことがあるの!?」

「あ、うん。他にも・・・」


 やがて談笑も大きくなり、日が完全に落ちたところで茶話会はお開きとなった。バルドはクレアの意見をまとめると言う。マイアはドルトと自宅へ帰る。家でゆっくりと説教があるのかもしれない。サロンでの談笑で大分ドルトの機嫌も直ったようだったが。

 クレアとラウルは第一兵舎へと戻る。しばらくぶりのベッドだ。今日は雪も降っている。ラウルも自室で眠るだろう。サクサクと雪を踏みながらねぐらへ近づくと、妹達は身を丸めて既に夢の中だった。

 兵舎へと入る二人。入ってすぐのラウルの部屋は扉が開かれていた。灯りもついていた。


「ありゃ?開けっ放しで来たのかい?」

「あれ?閉めたと思ったけど・・・」


 中を覗くとイーリスが部屋の掃除をしながら待っていた。何故か部屋の中には見知らぬ木箱が置かれている。戻った二人に気が付くとイーリスは手を止める。ハタキを持ったままふわりと微笑んだ。しかし目の周りには隈が浮かんでいる。


「おかえりなさい」

「ほー、いつからラウル君付きの侍女になったんだい?ただいま、そんでラウル君お邪魔」

「ただいま、イーリス・・・どうしたの?寝てないの?また心配掛けたのかな・・・」


 矢継ぎ早に問いかけるラウルに、いいえとかぶりを振って木箱へと手を引くイーリス。開けろというのだろう。頑丈そうな木箱にラウルも首を捻る。蓋を開けると緩衝材の縛られた藁が詰められていた。さらにそれを掻き分けると中からは鎧が出て来る。

 クレアがそれを木箱を覗き込んで口笛を鳴らした。妙に蛇腹の多いフリューテッドアーマー。下地は目の細かい帷子を鉄の蛇腹が隠す。兜は狼を模したような造形となっている。面の部分は狼の口のように開く。鎧は白地に赤い装飾が施されており、胴の背中にはユキの翼のような紋様が赤く彩られていた。


「え?これ・・・どうしたの?イーリス」

「リケルト工房で、注文したの。事情を話したら、寝ずに仕上げると聞かなくて・・・私も泊まり込みで食事の差し入れを」

「泊まり込みって・・・アンタ寝てないみたいだけど」

「リケルトさんが寝ずに造るものだから、それならワタクシも寝られないと思ったのよ」


 他の職人達もいたため炊き出しのような忙しさだったという。皆が嬉々として作業を続けたらしい。

 どの騎士団でも支給される鎧があるが、あくまで間に合わせである。鎧は使用する材料の量も、鍛冶師の技術もあって高価である。よって国が負担して支給している。それをどのように使おうと問題は無いし、事実ラウルも任務では胴以外を装着していた。胴は背丈が合わなかったからだ。

 また支給された鎧しか装備してはいけないという規律も無い。個人資金で装備を整えるなら国としては願ったりである。クレアは蓄えはあるが、酒代にしたいがために支給品の鎧を改良しつつ使い続けている。上級騎士ともなれば高給の者が多く、個人で鎧を拵えたりもするのだが。


「おぉー!いいねぇ!アッシュが喜びそうじゃないか」

「うん!あれ?これって・・・」

「工夫がしてあるの、身長が伸びても着られるように」


 帷子の上に取り付けられた鉄の蛇腹が伸びるようになっている。リケルト曰く、下地の帷子から取り外し、交換すれば身の丈に合わせることが出来るそうだ。まだまだ成長期にあるラウルにはありがたい。兜も面はそのままに頭部から外すことが出来た。これも交換して使い続けられるようになっているのだろう。


「ありがとうイーリス!大事にする!」


 感激のままにイーリスに抱き着いた。たじろぎながらラウルの髪を撫でるイーリス。徹夜明けの顔色にわずかに朱が差す。そしてクレアを見てラウルの後ろに片手を回して親指を立てる。クレアが負けじとこう言った。


「特訓したアタシにはー?ラウル君よぅ」

「あ、そっか!クーちゃんもありがとう!」


 両手を広げてラウルを受け止める。ついでに顔に胸を押し当てて勝ち誇りながら親指を上へ。やや憮然としながらも、まぁそういうことならとイーリスも溜息を漏らす。

 次の日の朝、体中を擦りながらラウルが兵舎の食堂へ顔を見せたという。クレアが調子を崩したのかと聞くとこう言った。


「・・・鎧のまま寝ちゃって・・・」

日本の甲冑ってすごく重いんですよね。

アレ着て動くとかマジ?と思ったものです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

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