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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第二章
21/63

初陣を飾る翼と牙

PV1500を越えました!皆さまのお陰です!

これからもお付き合いくださいませー


 ゴドンを連れてアッシュとユキの元へ向かう一行。防寒はしているが風が冷たい、林の中ともなれば日の光がなくさらにそう感じる。ラウルを先頭にその横に付くゴドンはじっとラウルを見ている。その眼は値踏みするようなものではなく、何かを期待している眼だった。


「おぉ!あれが!」


 林の中に立てられた天幕が見えたところで、ユキの姿も見えたのだろう。ゴドンが声を上げた。そのあとでどこかの木の枝からドサリと雪が落ちる。良く響く声だ。アッシュは特に警戒することもなく視線だけ向けて灰の尻尾を振りたてる。久しぶりの自然と雪に囲まれて上機嫌だ。ユキも近くを走り回ったのか雪の道が出来ている。尻尾の跡だろう。


「スノウウルフも竜も初めて目にしますな!うむ!戦力としては問題ないだろう!」

「では、ここで見ていて男爵、皆はここで待っていなさい」


 そういいながら雪の上を一人で歩き進むミリア。腕を組んだまま髭を撫でるゴドン、ある程度は信用しているのか慌てる様子はない。アッシュはマイアに駆け寄ろうとするが、ミリアだけが歩み寄ってくるのを見てピタリと止まる。何かを察したのだろうアッシュはそのままミリアの横に付いた。普段は一人で歩くことなどほとんどないミリアの護衛を自分が担うように。

 ユキもミリアに足音を立てながら歩み寄った。顔を寄せ鼻先をミリアのお腹に押し当て喉を鳴らした。不意に山からの風が吹く。それを遮るように身を寄せ片翼で守った。その様子はゴドンにもしっかりと見える。


「うーむ、ここまでとは!危険はあるだろう、が!姫様に限ってはない!と誓えるか?!ラウル!」

「はっ!!危険があるとすれば!敵にのみです!姫様に向かい牙を剥くことはありません!」

「よかろう!次はワガハイだ!良いかラウル!?」

「はっ!!そのままお進みください!!紹介のため僕・・・私も横に付きます!!」


 ドサリドサリと雪の落ちる音を背にしてズンズンと前に進むゴドン、帯剣はしているが抜く素振りも恐れている素振りも見せずに進む。その後ろでは耳に手を当てながら苦笑するクレアとミリアが付いて行く。


「アッシュ、ユキ、おいで姫様の護衛ありがとう」

「ほおおおお、どれ!おぉ!うーむ」


 息遣いまで大きなゴドンは、ぬっと腕を差し出す。アッシュが鼻を寄せ、匂いだけ確認してユキを見やる。ユキはゴドンに興味を持たないようだ。ミリアを守るように身を寄せたまま視線だけゴドンに向けた。


「ふむ!姫様!そのユキとやらに乗っていただいても!?」

「分かったわ、ユキいいかしら?」

「ユキ、乗せてあげて」

「キュルルルッ」


 首を降ろし、雪に足を取られながらもなんとかミリア一人で跨る。そしてラウルに首を伸ばしラウルを乗せたところで首を持ち上げゴドン達から数歩離れた。そこで翼を広げる。ラウルがゴドン達との距離を確認したところでユキの首を撫でる。いつもの合図にユキは翼を打つ。そのままふわりと身を浮かす。


「・・・・・・・」

「あ、あの?ゴドン様??」

「はっ!?いや!すまぬ!いや!凄いものだな!」


 ユキの飛ぶ姿に我を忘れていたようだ、マイアに呼ばれて取り戻したらしい。不用意に声を掛けに近づいたマイアと、その横にいつの間にか付いていたアッシュが急な大声にビクッと跳ねた。充分と判断しユキを着地させてミリアの手を取り、降ろす。サクサクと二人でゴドンの元へ戻る二人にユキもズンズンと付いてきた。


「ふむ!分かり申した!いやいや!これは良い!これなら新年を迎えず首都に戻る事もできよう!ときにラウル!ワガハイも乗れるだろうか!?」

「あ・・・えっと・・・その、ゴドン様」

「なんだ!?無理か!?」

「無理だと思われます。理由は大きさと、体重です」

「ハハハハ!そうか、うむ!ならば仕方がない!」


 大きさは身体だけでなく、声も含むがそれはラウルの口からは言いにくかったのだろう。普段通りの声で申し訳なさそうに説明した。意味をぼかしたのはミリアとマイアには分かったのだろう。思わず二人で苦笑してしまった。

 本当の意味には気付かずに笑い飛ばすゴドンにユキは少しの距離を取った。騒がしいのは苦手のようだ。その離れる様子にも気づかずに、ラウル用に立てられた天幕に向かっていった。その中でもう一度方針を話し合うつもりのようだ。


「うむ!結論から言えば!ワガハイからは文句はありませんな!」

「良かったわ、では私も山の巡回に参加します。もちろん指揮に従うわ」

「では!まず姫様とラウルには山頂から裾へ向けて見回っていただきたい!」

「ええ、分かったわ。」

「こちらは村近くの山裾から押し上げて捜索し!まずは巣の特定!後に討伐の流れですな!お前たちもよいか?!」

「「はっ!」」


 大きな方針のみこの場で決定し、その後は報告や状況でゴドンが指揮を執ることとなった。グレイインプは名の通り灰色の毛が生えた種類のインプだ、その縄張りは広い。飛べることからほとんどの飛獣がそうなのだが、インプは巣を持つ習性がある。特に洞窟、洞穴、時には穴を掘ることもあるという。さらにその巣が大きければ大きいほど個体数を増やすらしい。

 これにはインプ種の習性が起因する。インプ種は肉食なのだが、腐った肉も平気で、しかも好んで食らう。そのため巣は貯蔵庫のようになっており、そこへ貯め込む量が増えるほど繁殖する。そうなると縄張りを広げ、その範囲内の獲物を求めて生き物を襲い続ける。インプ種は繁殖周期も短い。


「と!いうわけですな!」

「さすが第三騎士団、飛獣のエキスパートね」

「ハハハ!くすぐったいですな!」


 それらの情報を受けて今度はミリアからゴドンに向け自分たちの戦力としての紹介をする、特にアッシュとユキについてだ。まずアッシュの大まかな速度や攻撃力、嗅覚、聴覚などの能力を伝え、次いでユキの飛行能力や童話のようには火を吐いたりは出来ないが、代わりに冷たい息吹を吐けること、飛獣を恐れずに空戦が行えることを伝えた。全てラウルの受け売りだが。

 しかしアッシュはともかく、ユキはミリアを乗せたままでは空戦を行えない。ミリア自身が機動に耐えきれないためである。また空戦を行う場合は事故を考えると今回は行えない可能性もある。インプの巣の位置によっては村が危険である点。ミラギ山は標高もそれなりに高く、また斜面も切り立っているために雪崩などの別の災害を起こす可能性もあった。グレイインプは空を飛ぶ、対してこちらは二本の足しかない。雪崩など敵にしか利を与えない。これらを伝えるとゴドンは大きく頷いた。


「ふむ!つまり今回は偵察と!村の防衛にあてた方が効果的でしょうな!」

「そうなると思うわ、こちらは第三騎士団を中心に弓兵と弩兵になるのよね?」

「左様ですな!弓三十に、弩二十!接敵後は槍兵となりますがな!ではクレア殿!マイア殿!そしてアッシュは我らの隊へ!巣が見つかるまでは姫様、ラウル、ユキは偵察兵として扱わせていただきますぞ!」


 そして巣を見つけて討伐の段階に進んだ場合は護衛騎士三人とミリアは村の防衛を任されることとなる。もちろんゴドンの部下が何割かは防衛にも回るだろうが、それは巣の位置と規模によって適宜変更ということだ。

 雪崩の原因になりそうな声を上げながらの打ち合わせも終えて、陣に戻るゴドンを見送った。雪の積もった量からも可能性は低いだろうし、彼自身も分かっているだろう。今度は外で身内だけの作戦会議を始める四人と二頭。ユキの翼へ潜り込み、ユキは長い首を翼に向けている。天幕の中より充分に温かいそこは確かに夜を過ごしても平気そうだ。むしろ天幕よりも地面の雪さえ何とかすれば快適に思えた。


「うう、耳が痛いです・・・」

「あー、その後に静けさでまた、耳が痛くなるよ」

「面白い人でしたね、僕結構好きです」

「ふふ、悪い人じゃないのよね。裏表なくて私も好きよ・・もうちょっと声を抑えてくれれば」

「さってと、ラウル君おさらいしようかね、まず我らが騎士団の役割は」


 まず第一騎士団は近衛の役割を持っている。ラウル達は現在、この第一騎士団の所属となる。これらは土地や都市の中、つまり人的な護りが役割となる。要人警護や国民そのものを守るための警邏巡回などが主な任務であり、護衛騎士とも呼ばれ、騎士の位がない衛士はこの下に配置される。市街戦のための集団である。今回は第二騎士団はこの討伐に参加していないため、ミラギ村の防衛に回される可能性が高い。

 ちなみに第二騎士団は平時は対軍防衛を役割とし、国境や各都市の防衛に配備されることが多く、騎士の位を持たない兵士達はこの第二騎士団の下に配置される。グラント王国はバルドが王になってからは侵略戦を行っていないが、もし、出兵を行う際は彼らが中心となり派遣されることになるだろう。一般的な騎士といえば彼らだ。騎兵隊の呼び声も高い。

 最後に第三騎士団とはグラント王国軍中からの対飛獣のために選抜された騎士団である。遠距離武器と槍を同時に運用できる者で形成され、実戦経験が国内で一番多く、それゆえ飛獣の知識も当然深い者達である。有事の際は弓兵、弩兵として軍に組み込まれる。ゴドンはこの第三騎士団の所属だ。ゆえに今回は彼らが主力となり、討伐隊の中心となるため討伐騎士と呼ばれることもある。


「で、合ってますか?クレア様」

「うんうん、大分覚えたねぇ。んでもって今回我々護衛騎士は遊撃隊って形で各所のヘルプだね。さっきの話の通り、偵察、防衛の任務だ、マイアもいいね?無理はしないようにするんだよ?」

「「はっ!クレア様」」

「今回は私もいるから足を引っ張るけど・・・よろしくね?」

「「「はっ!」」」


 やや固い空気の中でこれからの流れの再確認と、マイアとミリアに向けてのアッシュのサインの再確認を行う。このサインはラウルからアッシュに仕込んだ簡単なものである、マイアとミリアが意思疎通をアッシュとユキと行うためのものだ。ラウルは鳴き声と仕草で妹達の意思を見て取るが、ミリアもマイアもまだそこまで至っていない。年季も信頼関係もまだまだ足りていないが故である、当然だが。

 マイアからアッシュにサインを送りアッシュがその通りに動いてくれることを確認する。待て、行け、救援、警護などである。特に問題もなく行えたため、女性三人は一旦陣に向かう。そろそろ昼食の時間だ。

 ラウルはその場に残り、アッシュとユキに天幕から食事を持ち出した。調味料無しの干し肉とラウル用の普通の干し肉だ。旅をしていた時のように、ユキの首に背を預け、アッシュとユキの間で食事をとる。


「ふふっ、懐かしいね。まだちょっとしか経ってないのにね」

「オンッ」

「キュルッ」


 ようやくグラント王国、その王バルドへの恩返しの一歩だ。失敗は、出来ない。さらには妹達の今後の生活も懸かっている。懐かしむ気持ちもそこそこに気を引き締める。幸いラウル達は飛獣と戦ったことも何度かある。多くはユキが仕留めたが、アッシュも、もちろんラウルも仕留めている。しかし何かを守りながらは初めてだ。これがマイアとミリアとラウルの初陣となる。

 ラウルの緊張を感じ取ったのか妹達がその身を寄せて来る。二人に大丈夫だと答える様に少し強めにグリグリと撫でた。充分に気合を入れて立ち上がる。きっとどこかで不安そうに見守っているオウルにもしっかりと伝わるように。


「先生!見ていて!格好良く、やってみせるよ!渡り鳥のオウルが弟子!ここにあり!だ!」

「オンッ!オォンッ!」

「キュルッ!キュグルルルッ!」


ラウル兄妹は強い意志を胸に、拳と、鬨を上げる。さぁ、行こう。

 意気込んだところにミリアとマイアが戻ってきた。ミリアとラウルはユキに跨り、マイアはアッシュに追従のサインを送る。ここからは別行動だ。三人で頷いて別れる。偵察飛行班は空へ、マイアはアッシュと共に陣へ戻り、その足で捜索隊として山を回る。


「マイア!無理はダメだからね!アッシュ!お願いね!」

「ミリ姉様こそお気をつけて!ユキ!ラウ兄様!頼みました!」

「オンッ!」「キュルッ!」


 手を振り合ってユキは空へ、そのまま村直上を通らない様に一旦山頂を目指して回り込む。中天の太陽から光を浴びて雪化粧のミラギ山は輝いている。ユキが上昇を続ける中、ミリアはラウルの肩へしっかりと手を添えて山肌を見渡す。切り立つ崖や稜線は今のところ何もない。鳥と飛獣を見間違わぬようしっかりと目を見開いてラウルと偵察を行う。

 まずは山頂付近へ到着、異常はないようだ。雪の降り積もる岩肌をゆっくりと見て回る。峰に沿うように飛行し、もう一往復だ。折り返してからはさらに速度を下げて確認していく。その結果山頂に異常はなく、ほっと二人で息を吐いた。


「山頂に巣がなくてよかったわ・・・」

「そうですね、討伐が厄介になりますし」


 まず最悪は村のすぐ近くに巣がある場合だ。攻撃と防衛に人員を割く羽目になる。次に悪いのは山頂だ。ミラギ山は切り立っているため広い位置取りをとる事が出来ない。弓や弩は敵に対する面を広げた方が効果的だ。さらに山頂までの行軍からの戦闘となる。不利が大きい。高所の戦闘ともなれば滑落、気圧変化、その他の諸々人間には制約も多い。一応それ等は避けられたようで何よりだ。

 ラウルはユキに次の指示を出した。山頂を中心にぐるりと渦を逆巻く様に山を調査する。崖の段差や、洞穴などがあれば、インプにとって良い立地だ。上昇中にも見回した部分もあるが、より近い距離で見ていない部分もしっかりと観察する。


「ううん・・・マイアくらい眼が良ければ良かったなぁ・・・」

「あは、大丈夫、僕もユキも眼が良いですから」

「でも早く見つけてあげたいんだもの」

「そうですね・・・今のところ、村側の崖は、大丈夫そうですね」

「じゃあ次は裏側ね」


 頂上を半周したところで山を挟んで村の反対の崖を同じくチェックする。それらしい段差や穴は見つからず徐々に山の中腹まで高度を下げつつ山肌から距離を置いて偵察はまだ続く。 


 その頃、麓の村近くの森ではゴドン率いる捜索隊が徒歩で巣を探すべく展開していた。その数三十名、これに加えてクレア、マイア、アッシュの三名だ。森の中をお互いがカバーできる間隔を保ちながら巣を探す。森に入る前に畑が荒らされていた場所にアッシュを連れて行き、インプの臭いを探させたが、雪が邪魔しているようで臭いは無かったようだ。アッシュも鼻でなく、脚と眼と耳で気配を探っている。


「こう常緑樹が多いんじゃ、寒いし見通しも悪いねぇ」

「はは、なら俺が温めるか?」

「遠慮しとくさ、ドルト将軍に追い回されたくないなら、そのテの冗談は後にしときなよ?」

「なはは、済まねぇな、マイア嬢。ホレ気を付けろ。第三はお前みたいなのがいるからガラが悪いって言われんだぞ」

「はは、悪いな。お嬢」

「あー、えぇ。大丈夫です。でも先輩方、マイアと呼び捨てでお願いします。下っ端ですから。それに、この子の方が温かいからお気遣い無用です」


 違い無ぇ!とアッシュを見て笑う討伐騎士達。基本的に第三騎士団は気が荒いか、粗野な者が多いというイメージで見られがちだ。中には狩人から抜擢されたりする者が多いことが、そのイメージを作る原因である。単純に騎士の位を持つまでの軍務期間が短い者が多いからだ。しかしその一方で人気は高い、騎士と一般民衆と両方の価値観を持つ者が多いし、堅苦しい考え方をする人間が少ない。何より飛獣から護ってくれる身近なヒーローだ。

 そんなヒーロー達は冗談をいいながら周囲を見回す、そろそろ森を抜けるかと言うところで、皆息を吐く。この森には巣がないようだ。しかしまだまだ未探索の場所も多い、森の切れ目で小休止を挟みつつ気合を入れ直す。とりあえずは村の近くには巣が出来ていない。


「ふぅ、やっぱり実践だと思うと、少し怖いですね」

「フフン、ま、初陣で入れ込むよりいいさ。ちったぁビビりなって、先輩のいいとこ見たいだろ?」

「ふふ、えぇ、頼りにしてますわぷっ、もちろんアッシュもですってば」


 緊張をアッシュに舐めとられ、クレアに解されたところで小休止も終わる。ここからは少し開けた山肌を行く。雪で重くなる足をしっかり振り上げ周囲を警戒しながら進んだ。普段のアッシュなら喜び駆け回るところだが、今は尻尾を立てて振り回すことなくゆっくりとマイアに付いていた。

 アッシュも何かの臭い自体は感じているようで、時折足を止めて宙に向け鼻を鳴らす。空を飛ぶ者の臭いを追うには風から臭うものでしか判別できない。しかし山風も強く、他方向から渦巻く臭いにはっきりとは方向を特定できていなかった。しかし、そう遠くは感じていない。だからだろう、警戒を解かないのは。


「フス、フスンッ」

「ふふ、アッシュも頑張ってます!私も手伝いますからね」

「その意気だ、こう言っちゃなんだけど、馬を使わない任務でよかったねぇ」

「えぇ、アッシュとユキに最大限のフォローを貰えますからね。ちゃんとお返ししないと!フンッ」


 アッシュのように鼻を鳴らしたその時だった。一瞬マイアの頭上に影が通り過ぎたのは。はっとマイアは腰に手をやり見上げる。大き目の猿ほどの身長、濃い灰色の毛並みに蝙蝠の羽根。目は赤く、手足には長い爪、下顎の犬歯が口元から飛び出すほどに長い。グレイインプ、その数は三つ。槍が届く高さと距離ではない。


「抜きなマイア!」

「はいっ!」

「ハルルルル!オンッオォン!」


 アッシュの吠える声に討伐騎士達もインプを視認し、弓を番え、弩を構える。インプの動きを待つことなく弓持ちの騎士が矢を放つ。インプは急降下から飛びつき、空中に引き上げた獲物に噛みつき、爪を立て、巣に持ち去る。今この場で危険なのは、持ち去りやすい小柄なマイアだ。子供一人くらいなら持ち去るには二匹でも充分である。

 牽制の矢を飛び躱しながら、狙いを定める様にマイアから一定距離を離れない。見えない紐でマイアと繋がっているのではと思えるほど正確に距離を保つ。そのうち一匹が距離を急速に詰める。マイアは左脚を膝程の高さに振り上げ、思い切り強く地面を踏み鳴らした。


「てあっ!」


 速度に合わせたつもりの斬り払いは飛びつきを阻止するが、すんでのところで躱された。そのまま通り過ぎ、離脱を図ろうと高度を上げる瞬間を狙い。


「そうは!いかんな!」


 ゴドンが二語の区切りに気合を込め一息に強弓から矢が二本。風を裂き、唸りを上げるまま左右の羽根を貫いた。


「ギギィ!」


 雪に埋まる勢いで地面に落ちるインプ、それを見てマイアは残る二匹へと視線を戻す。落ちたインプは先輩に任せた。クレアは落ちたインプからマイアが挟み討たれることのないよう、マイアの背後に立つ。正面をこなせと。

 残る二匹はまだ距離を保ち宙を飛び回る。次の瞬間、二匹同時にマイアに突進する。一匹は真正面から一直線、もう一匹はマイアの左から回り込むように曲線を描いて。しかしマイアに動揺はない、一匹に狙いを絞る。もう一匹の爪も牙も自分に届くことはないと確信している。既にサインは終えている。


「えええぁぁっ!」


 高く鋭い気合を声と剣に乗せ真っ向からインプを斬り下す。ズンッと鈍い手応えが手首を抜け、肩まで響く。少女の眼にはしっかりとインプの切り裂かれた腕が見えた。が


「グギギギァガッ!」


 喉から濁った物を絞り出すような声を上げながら一瞬で離脱した。まだ死んでいないそれからマイアは視線を切ることなく睨み付ける。左から回り込んだインプは曲線を描く突進を行った分、数瞬遅れて飛び込んで来る。

 そこは牙の間合いとも知らずに。雪山の王者も知らずに。白い弾丸の恐ろしさも知らずに、飛び込んで、今まさに、散る。


「グガルルルァッ!」

「ギッ!」


 マイアの視界の外で血が舞った、雪面を朱く染め溶かす。それを見て傷ついたインプは即座に離脱した。斬りつけられた反動で宙でふらつくのも束の間だった。獲物に出来ないと判断した獣の判断は早い。

 そして距離が離れたと振り向くことなく判断したクレアが、両翼を貫かれたインプにとどめを刺しに飛び出した足音を聞く。背を向け飛び去るインプからようやく視線を外し、マイアは剣を納めた。そして自分を守った牙を震えながらも優しく撫でた。


「アッシュ、信じてました!」

「オゥンッ!」


 アッシュの返事とクレアの止めは同時だった。翼を傷めたインプが雪の柔らかさにもがく内に、その首を正確に斬りつけた。完璧なお互いのカバー、そして流れる連携だったと言える。それぞれがそれぞれの危険を視界に収め、自身と仲間を守り切った。周りの討伐騎士達からも感嘆の声が漏れるほどだった。

 ゴドンは逃げるインプに弓を構えていたが、やがて腕を降ろした。彼の強弓でも届かない距離まで抜けたのだろう。飛んで行く方向を見定め、周囲を改めて見渡した。他の脅威はここにはないようだ。


「ハハハ!うむ!見事!第一におるのが勿体無いくらいよ!おい!負けておれんぞ!」

「「「おうよっ!」」」

「密集隊形!調べろ!他は方位警戒!」


 短い勝鬨を上げた捜索隊は、一度全員が距離を縮め密集隊形を取り。改めて倒したインプ達を検分を始めた。個体の大きさなどを確認し、解体し、インプの状態を調べる様だ。その間クレアとマイアは討伐騎士の一人に言われて緊張を解いた。肩を叩かれ褒められる。


「マイア、よくやったよ。怖かったろ?」

「少しは・・・アッシュに初めて助けられたときほどじゃなかったです、クレア様もいましたし」

「オンッ」


 あの時の戦慄を覚えた牙が、今は背中を守ってくれるのだ。恐ろしさも半分以下だ。それでも恐怖心と緊張を解すべく。マイアはアッシュの耳を撫でた。もう震えはない。大丈夫だ、私はきっとこれからもこうして背中を預けていくのだと、そしてアッシュの背中もいつか、私が預かるのだと伝えるように優しく撫でつけた。

 その信頼関係を目の当たりにしたゴドンは年の瀬の宴会で語る。


「ハハハ!将軍!第三は!いつでも!マイア嬢を受け入れますぞ!!」

「娘はやらん!やらんぞ!」


ヒートアップする前に、乾いた平手打ちの音が響いたという。

一応意識して世界観は徐々に広げていくつもりなのですが・・・ラウル君の知識に合わせて

しかし伏線が下手過ぎて、後出し表現にしかなってないのが悔しいです。

精進します!

それと今後の予定ですがペースが落ちていくことになると思います!

申し訳ありません!リアルの都合とストックの関係でございますー!

それでは今回もお読みいただきありがとうございました!

ではまた次回~


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