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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第一章
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三度目の恐怖

あれ?話進まない・・・

 山の中腹に茂る森の中を二人の少女が彷徨っていた。足元に目を凝らしながら右に、左に、木陰を根掘り、茂みを葉掘り。

黒髪の少女は裾を短めに仕立てた上等な絹生地のワンピースに銀の胸当てと革の籠手と脛当てを身に着けた軽装備に毛皮の肩掛けを羽織っている。髪は馬尾のようにまとめ上げて銀のサークレットを額に頂いている。

 もう一人の金髪の少女は肩まで伸ばした髪を切り揃えており、革の額当てに黒髪の少女と同じ銀の胸当て、腕には何もつけず足は革のロングブーツ、毛皮のコートを羽織り、腰には小剣を佩き、背嚢を背負っていた。


「・・・見つかりませんね・・・サガネ草。」

「見つけるの!見つかるまで探すの!そうじゃないと・・・母上が・・・」

「・・・はい、見つけましょう。絶対に」


 少女達は会話もそこそこにサガネ草を探し続ける。疲労の影が表情と歩みに垣間見えるが、動きを止めることはなかった。懸命に薬草を探す少女達は徐々に、しかし確実に山の奥に向かって進んでゆく。冬の入りとはいえ気温は低い。体温も徐々に奪われていく自覚もなく碌に休みも取らずに進んでゆく年端もない少女達。しかし彼女達は知らない。山の恐ろしさも、山中の飢えた獣の恐ろしさも、山中にしか居所の無いような文化や常識から外れた者たちの危険性もである。


「っ・・・無い・・・マイアは・・・?」

「・・・ここです」

「もう敬語はいいの、ここにはドルトもいないし」

「・・・うん、ミリ姉様・・・フゥ」

「・・・ごめんねマイア、少し座ろう?」

「・・・うん、でも・・・ミリ姉様も疲れたよね、はいお水」


 やんわりと注意され、くだけた口調でマイアと呼ばれた少女が水の入った革袋をミリ姉、ミリアルイゼに渡す。トプン、と揺れる袋は焦るミリアルイゼの頭を少しだけ冷やす。疲れた体を木の根元に腰かけ休みながら二人して息を吐く。白い息を木漏れ日が照らし、消える。


「もう日が昇ってる、天幕を出たときはまだ暗かったけど・・・もう皆にはバレてるよね」

「・・・うん、でも山の東の森は探索が不十分って言ってた。そのうち捜索隊か、探索隊と合流出来る、と思う。」

「ドルトに何か言われても私が勝手に出て行ったから慌てて追いかけた、ってことにするのよ?」

「それでも最初は、馬鹿者!それでも騎士を目指す者か!って言うと思う」


 顔を見合わせふふ、と笑い合う。花が綻ぶような、もしくは花も恥じらうとはこのような乙女たちの笑顔だろうか、むしろ少女達にとっては恥じらわずにサガネ草に出てきて欲しいのだが。恥じらって出てきてほしくないのは危険な獣と野盗の類である。


「行こう、マイア。早く母上を助けなきゃ」

「・・・うん、ミリ姉様、足元に気を付けて、茂みは」

「木の枝を入れてから、でしょ」


 コクリと満足に頷き先に立ち上がるミリアルイゼに続くマイア。蛇の危険はこの寒さならほぼない。しかし獣が潜んでいる可能性だってある。お側役としての注意もそこそこに目当ての薬草探しに戻ろうとしたその時ガサリ、と茂みが鳴る。


「っ!・・・ミリ姉様下がって」

「うん、マイア、無茶はダメだから、すぐ逃げるからね」

「・・・大丈夫」


 小剣を鞘から払い、音を鳴らした茂みへと向ける。距離にして凡そ少女の十歩ほど。右足を前に僅かに膝と腰を落とす。左足は切っ先と垂直に左へ向けて軽く重心を預ける。瞬時に方向転換を可能とさせるための構えだ。背嚢を降ろす暇はない、小剣を真っすぐに茂みに向け呼吸を忍ばせる。年端も無い少女とは思えない堂に入った構えだった。


「・・・ミリ姉様、人じゃない。後ろも気を付けていて、あとこまめに話しかけて、ミリ姉様の位置が分からないと困るから」

「分かった、後ろは・・・分かんない、拓けてはいるけど、茂みもあるから」

「・・・獣なら木の上からもありうるから、ゆっくり木から離れて」

「うん、ゆっくりね」


 じりじりと、左足で地面を擦りながら見えない足元を確認しながら下がる。木の根を感じ、足を僅かにあげたその瞬間に茂みから黒い獣が飛び出した。


「ガァッ!」

「くぅ!」


 足は四足、前足はマイアに向かって爪を伸ばし、涎に塗れた牙を突き立てんと大きく顎を開いたまま飛びかかる黒い野犬。二足に立てば少女の肩に達する程の大きさである。


「ふッ!」


 短い呼気に気合を含め、小剣を咢に突き出す。摺り足から僅かに挙げた左足を木の根に斜めに乗せ、前方への発射台として踏みしめる。切っ先は吸い込まれるように野犬の喉へ、少女の体重などたかが知れているが相手の体重が剣の切っ先に乗るなら貫通力は跳ね上がる。


「ギャブッ」


 断末魔としては短い声を上げて喉から貫かれる野犬。突き出た小剣の切っ先は血と脳漿に塗れ赤く白く、痛みを感じられたのは刹那だろう。それが幸いか死が不幸かはさておいて。マイアはすぐに小剣を両逆手に持ち、素早く小剣を引く抜こうと野犬の喉元を蹴り付ける。一度では抜き切れず敵とはいえ何度も死体を蹴り付けてしまった。血の気が引く思いも一瞬に守る人へ顔を向ける。


「ミリ姉様っ」

「だ、大丈夫・・・ちょっと怖かったけど・・・ううん、かなり」

「私も・・・かなり・・でもまだ安心できない。ミリ姉様、野犬は群れるのが多いって父様も」

「っ!マイア前!」

「えっ」


 野犬の飛び出してきた茂みの左右からガサリと姿を現す数頭の野犬たち、群れの仲間を奪われた怒りをグルルと喉を震わせて牙を剥き、敵意を向ける。その中央に群れのボスを思わせるひと際大きな体を持つ野犬が進み出る。先ほどマイアに襲い掛かった野犬のように真っ黒の毛並み。親、だろうか。


「ミリ姉様、後ろに犬がいないなら五歩くらいゆっくり離れて、そして離れたら真っすぐ陣に逃げて」

「ダメ、絶対にダメ。母上もマイアも死んじゃ嫌よ」

「お願い、ミリ姉様」


 さらにダメ、と言いかけたミリアルイゼの口が開いた時のことだった。


「ウゥオオオオオオーーーーーンンンン」


 少し離れた森の中、岩の上に雄々しく立ち、蒼天に向かって荒々しく吠える白い獣がいた。少女達の場所から優に三十歩の距離である。急に現れた白い獣に野犬の群れが視線を向ける。少女たちに目もくれない、恨みを持っているであろう野犬のボスですら白い獣に視線を送る。岩の上を睨め付ける様に。


「別の群れの犬・・・?ミリ姉様・・・ゆっくり下がって、あっちは少しだけど離れたとこにいる」

「う、うん。でもあの白い犬・・・犬よね?」

「・・・ごめん、あっちを見れない、黒いのが来たら負けるから」


 マイアの視線は群れのボスから外せないでいた、距離的に近く、さらにはこの場で一番危険な存在だと認識している。遠くの脅威よりも身近な危険だ。彼女自身と敬愛する姫君を守るには周囲を把握する必要があっても集中力を散漫に出来ない。守り切るための経験も実力もないのは今この場で痛感している。


「グルルルルル・・・」

「フスンッ」


 威嚇の声で喉を鳴らす野犬達とは対照的に白い獣は鼻を鳴らす。泰然、綽々、堂々とタン、と岩から軽い音を立てて身を降ろしたその瞬間、白い弾丸が黒に炸裂し赤く爆ぜる。ここで初めてマイアは白い獣の全貌を視界に収めた。


「・・・えっ?」

「うそっ」


 疑問を声に出したのはマイア、否定を声にしたのはミリアルイゼ。黒に炸裂した白い弾丸が一瞬で牙立てた野犬を組み伏せる、否、噛み伏せる。直線上にいた別の野犬は弾き飛ばされ、キャンと啼く。


「ダメッ!逃げてっ!」

「きゃっ」


 さきほどの集中も余所に視線すら切ってミリアルイゼの腕を取るマイア。遠くの脅威どころではない、マイアは耳で測った距離を一瞬で潰した白い獣と対峙することを諦めた。アレが野犬の群れと戦っているうちに離れるべきと判断する。速度も威力も向こうが上なら少しでも離れて隠れるべきだ。余所に注意を向けているうちに。しかしながら半分は恐慌に陥ったのも事実だ。マイアは年齢にして、まだ13を数えたばかり。将軍という地位を持つ父親に戦場の武勇伝を、失敗談を聞かされ叩き込まれた才女であるが、それでも13歳だ、泣きわめいてもおかしくない。今まではただ麻痺していたのだろう。


「陣は・・・あっち!ミリ姉様」

「マイア!私の後ろっ!下がっちゃダメっ!貴方が襲われるっ!」


 息を弾ませながら尚も妹分を気遣うミリアルイゼ。手を取り駆け出したマイアが十分にミリアルイゼが加速したところで速度を落とそうとしたためだった。


「殿はっ騎士のっ役目だからっ」

「年下がっ生意気言っちゃダメッ」


 英才教育の賜物であろう心意気は恐怖に塗りつぶされた少女をも守り人に仕立てている。否、恐怖に塗りつぶされたからこそ、将軍である、尊敬する父の教えで奮い立たせているのかもしれない。縋りついているといってもいい程に。

 木々を抜け、右に左に走る。少女達の脚は決して速くはない。走りながらミリアルイゼは考える。先ほどの群れで空腹を満たしてくれれば白い獣は私たちを追わないだろう、野生の獣なら。野生の獣は殺しを楽しまない。生きるための闘争しかない。先ほどは多分、気まぐれで野犬の群れを狙ったのではない。縄張り争いかもしれない。多分、こっちにくる理由はないはずだ。多分、あのまま野犬同士の闘争が始まっている。多分、私たちを探している捜索隊ももう森に入っているはずだ。多分、多分、多分。


「はっ!はっ!はっ!」

「はぁっ!はぁっ!グスッ、はぁっ!はぁっ!」


 ミリアルイゼは母が生きることを望んでこの森に独断で入った。今は側役として連れてきてしまったマイアを思って後悔する。自分はいい、しかし巻き込まれて命を危険に晒している妹のように感じている彼女を思うと怖いし、情けない。母を救うための特命を受けた騎士団にも申し訳ない。

 何より、母を救うことを思ってた自分が、今は母の命よりも我が身を惜しんでいることにも腹が立つ。今頬を伝う涙はそんな涙だと彼女は自覚している。


「ミリ姉様っそこに泉っ」

「うんっ」


 どれくらい走ったか、冷静でない少女達の体感時間も、距離感も乱れに乱れている。かなり走ったようでもあるし、木々を避けた分、距離が稼げていないかもしれない。


「ついて・・・来てない・・・はぁっ」

「ごめんっ・・・ね、マイア・・はぁはぁ」


 振り返り追手がないことを確認しながら乱れた息を整える。先ほど走りながら感じた恐怖と後悔を素直に謝るミリアルイゼ。マイアは息を乱したままかぶりを振った。


「王妃様を助けたいのは・・・ミリ姉様だけじゃない」

「うん・・・ありがとう」

「少しだけ息が整ったら・・・すぐ・・・に・・・っ!」


 整いきってない呼吸のまま周りを警戒しようと泉を見渡すマイアの目に飛び込んできたのは、紫がかった草が一房。葉は鋸状に乱れ、葉裏は白い。少女達が目的とするサガネ草の特徴と一致していた。


「ミリ姉様っ!あれっ!泉の向こうの穴の近く!」

「ふぅふぅ・・・え?」


 泉の淵を指す指をミリアルイゼが目で追うと、見開かれた目に紫が映る。


「あった・・・あったよマイア!」

「・・・うん・・・うん・・・早く取って帰ろうミリ姉様!」


 互いを掻き抱く歓喜の声がほとりに響く、響いてしまった。そしてその声は冬の山の危険なモノを呼び寄せる。多くの獣は獲物を追って捕食する。獲物の少ない冬には飢えた獣が彷徨うが、獲物が減る前に栄養を獲るだけ獲って巣に春まで休眠する大物がいる。そしてその大物は水場の近くに居を構えることが多い。もう少し、あと数日で休眠していたかもしれないその大物は、少女達の声を聴いていた。のそりと薄暗い穴から巨体を揺らして光が差す泉の出口へ。


「泉に落ちないようにね」

「大丈夫、ミリ姉様は逃げてきた方を見てて、匂いをあれが追ってくるかもしれないから」

「分かった。早く取って帰りましょ、それさえあれば母上もきっと治るし、ドルトから怒られずに」

「・・・ヒッ」


 マイアの息をのむ声にどうしたの、と声を掛けようとミリアルイゼは振り向き、固まる。茶色い毛皮に丸い耳、黒い鼻に短くも太い爪。絵本や図鑑で見るよりも彼女たちには大きく感じた。


「ヴォモォオオ」


 低い唸り声は野犬の比ではない。恐怖に動けずにいるマイアはもはや瞳を閉じようとする。マイアは自分を食んでいる間にミリアルイゼだけでも逃げてほしいとさえ思った。逃げようもないほどに、近い。逃げてもミリアルイゼに熊が近づいては危険だとマイアの思考だけがグルグルと回る。逃げずにいたら守れるのでは、痛いのか、逃げる方が姫君を危険に晒すのでは、苦しいのか、どう逃げるのか、どうするのか。ちゃんとあの姫君は逃げてくれるだろうか。


「ウゥオオオオオオーーーーーンンンン」

「・・・さいあく」


 堂々巡る思考を止めたのはあの遠吠え。茶色い悪魔に白い魔物、これで前門は熊だが後門は狼。もう一人の囮では打破できない状況に、絶望が足から震えとなって全身に伝播する。


「ミリ姉様だけはゆるして・・・」


 下さいと、少女が祈りを口にする前に、涙すら頬を伝う前に太い爪が振り下ろされた、はずだった。マイアの後ろからトン、と足音が聞こえると同時に衝撃が彼女を襲う。続きブン、と鈍い音。衝撃に押されたマイアの横髪が散る。熊の爪は少女の頭蓋を抉ることなく、金の髪を散らすのみにとどまった。白い獣、今は所々赤く染まっている。先ほどの野犬の返り血だろうか。半白半赤の獣、アッシュは熊に向かい牙を剥く。


「マイア!」


 はっ、と気づくマイアは乱れた髪もそのままに駆け出した。さきほどの思考も忘れ、姉と慕う彼女の元へ。絶望の泉の淵から命からがら距離を取り、逃げ出す気力もなくへたり込む。そんなマイアを抱きしめるミリアルイゼは確信を持ってマイアに言い聞かせる。


「大丈夫、きっとあの白い犬・・・じゃないわ、多分狼は私たちを助けようとしてる」

「・・・まさか」

「突き飛ばされたでしょう?私からはよく見えたの。マイアを足で押し倒したの」

「でも、どうしてそんな」

「それは・・・分からないけど。でもさっきの野犬の群れの時は邪魔な相手は弾き飛ばしてたわ。それこそ吹き飛ぶくらいに。マイアが吹き飛ばされてないのはそういうことだと思うの」


 二頭の獣は睨み合う。獲物を横取りされると思う熊に、匂いの元の人間を殺されかけたアッシュ。アッシュは誇り高い、家族同然のラウルからのお願いを受けている、それを邪魔されては面目が立たない。狼は一途に群れる生き物であり、一匹狼などただの変わり種。元来狼はパートナーを深く愛する、アッシュもその例から漏れることはない。アッシュにとってのパートナーはラウルである。そのラウルの前で面目を潰そうとする輩はアッシュにとって全てが、獲物ではなく敵である。食うためではなく、殺すために、殺す。


「ハルルルル・・・!」

「ヴォオオ!」


 じり、とアッシュが低い体勢から四足に力を篭める音がする。対する熊は後ろ足で立ち上がり威嚇する。体を大きく見せるためだと人は考えているが、この熊に関しては、違う。体重を乗せて爪を打つことをこの熊は知っている。二足で両前足を広げたまま前のめりに倒れこむ。アッシュを押し潰すように倒れこむ熊の後ろ足、人でいう股間をアッシュは駆け抜ける、血風を伴って。


「熊の後ろ足を・・・噛み切った?」

「私見えなかったわ・・・そうなの?」

「駆け抜けながら下顎?で牙を突き立てて走りぬいたように・・・見えたけど、うそ」


 どれだけ強靭な脚と顎で、強固な牙を持つというのだろう。そのうえ知恵が無ければ出来ない芸当だ。自然界では有り得ない攻撃と言ってもいい。


「ヴォアオオオ」

「オォンっ!」


 左の後ろ足を切り裂かれた熊は痛みに悶えながらも背後へと向き直ろうとする。しかしそこには既にアッシュは居ない。振り向く死角に沿って奔り、熊の背後から首筋に牙を突き立てる。


「ヴォッオオッオ!」

「フグルルルル!!」


 喉を圧迫されてか熊の声は途切れながら絞り出される。やがてゴぎ、と鈍い音が熊の声を遮断する。頸椎と声帯を噛み潰したのだろう。


「うそ・・・いくら狼でも・・・」

「あれって・・・スノウウルフ・・・?」

「スノウウルフって何・・・?ミリ姉様」

「雪山の王者ってエルゼが言ってたわ、北の国じゃ雪山でも冬眠しない雪熊っていう熊がいるらしいんだけど、大陸で一番大きい熊なんだって」

「熊じゃなくて、狼のことを」

「だからその熊すら狩る王者がスノウウルフってことよ」

「・・・単体で狩るの?狼って群れるものじゃないの?」

「さ、さあ・・・」


 少女の困惑も余所にアッシュは熊の死体の上に飛び乗り凛々しく立つ。そして勝利を謳う


「オッオォォオオオオオオオン!オォオン!」


 数度遠吠えを上げ凱歌を上げ切ったのかトス、と飛び降りて軽やかな足取りで少女達に近づく。マイアは身を強張らせるが、ミリアルイゼは恐怖を感じていなかった。何故なら


「尻尾振るのは機嫌がいいのよね?」

「それ犬じゃないのミリ姉様?狼も一緒なの?本当?ほんとだよね?」

「オンッ」

「いひゃあっ」


 短く鳴いて鼻をマイアに擦りつける。フンスフンスと匂いを嗅ぎ、首をかしげる。そして今度はミリアルイゼに鼻を鳴らしながら擦りつけ、満足気にオンッと鳴いた。当たりを喜ぶように声が少し高い。


「な、なあに?」


 問いかけるミリアルイゼの前に犬のようにお座りをするアッシュ。どこか誇らしげに尻尾をゆったりと振る。どうやら二人とも匂いが混ざりどちらからも目当ての匂いがしていたようだ。より匂いの濃いミリアルイゼを嗅ぎ分けて満足したようだった。


「あっ!サガネ草!」

「あぁっ!」

「ォオンッ!」

「ひゅうぃ!」


 離れようとする二人に向かってアッシュは待て、と吠えかける。マイアは既にアッシュを恐怖の対象としているようで、一声啼くだけで妙な声を上げ、腰が砕けている。しかし砕けた腰はそのまま溶けるほどにへたり込むこととなる。頭上高くからゴウ、と風打つ存在によって。

 後日二人は紅茶を片手にこう言ったという。


「死神に魅入られたのは母上ではなく私だと思いました」

「私はいつでも初陣に出られる。あれ以上の恐怖なんてそうそう無いから」

投稿しては編集、編集・・・推敲って何ですか、美味しいものですか

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