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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第一章
12/63

刀に酔う男

いつのまにかPV500を超えている・・・?

そんなにこの小説が読まれていることに驚きで、今後も誤字が増えそうですー(棒

いつも読んで下さる皆さま、ありがとうございます!

ミカヅキを街中で見られないよう、みすぼらしい布ではなく、用意された革の袋に入れ、背負ったラウル。私服姿のマイアとクレアを伴って、グラント城門から城下町へ繰り出した。冬の晴天が眩しい。日差しは充分高くなっている。


「ウチの城はちょっと特殊でね、兵舎と繋がってるんだ」

「ふーん?」

「兵士さん達の住む家が城の隣にあるの、第一兵舎って呼んでるんだよ」

「第一?第二もあるってこと?」

「そ、街の区画に併せていくつか設置されてるのさ、そいで数が小さい程、城に近くて、偉い兵士が住むことになってるって訳」

「安全のため?」

「そう」


 首都グランエストは代々拡張されてきた。グラント城を中心として六角形に、放射状の大通りがクモの巣上に道造り。石造りの城壁を外縁として、拡張されながら三つの防壁が築かれている。第四の防壁はまだ建設途中である。そして北から時計回りに三つに分けられ、工業区、商業区、居住区、それぞれに兵舎が備えられている街並みとなっている。


「これって飛獣に対して備えてるの?」

「そうさ、たまーに、飛んで来るときがある」

「ホントにたまにだね、三年前くらいにハーピスの群れが来たくらい」

「大物も何度か来たことがあるみたいだけど、まぁ竜は初めてだったねぇ」

「そっかぁ、まずどこからいくの?」

「まずは工業区って言われるとこさ。職人にミカヅキを見てもらおうかと思ってね」

「うん、分かった。でもいいの?宝刀なのに」


 工業区には鍛屋、石工、木工などの職人が固まって店や工房を開いている。その中の鍛冶屋で王城ご用達の店もいくつかあった。


「どこでもって訳には流石に行かないね、今から行くのは御用達、あー、特別にお城から注文をする腕のいいところさ、色々とそこは特別でね」

「ごようたし、っていうんだ」

「リケルト工房ですか?!私初めてです!」

「そ、まぁアタシも何度かしか行ったことないけど、今日は先に触れも出してる、モノがモノだし」


 興奮気味のマイアとあまり理解が及んでいないラウルを見ながら、首都一の工房へと連れ歩く。その間も街並みの特殊な物や施設の説明を受けながらラウルは頷きながら付いていく。初めて見る街並みに徐々にラウルの相槌も増え、視線も落ち着かない。そうなる頃には人混みの中を歩くようになっていた。


「っとまぁ、こんな歴史もありつつの街並みなのさ」

「凄いんだね・・・石造りの街って遠くからは見たことあるけど、実際中から見るといろいろ大変なんだね」

「村や集落には入ったことあるのラウ兄様?」

「うん、先生と。旅の途中だったり、良く行く村もあったよ」

「その時、ユキやアッシュはどうしてたの?」

「先生といたときはアッシュも一緒だった、まだ小さかったし。ユキは、先生が・・・えーっと」

「わ、別れてからにしよう、ラウ兄様」

「あ、うん、先生と、別れてから出会ったから。そうだね、ユキと一緒になってからはほとんど山の中を歩いてたなぁ」


 大分久しぶりに歩く人混みの中、それでもラウルは慌てることは無く、すいすいと歩みを進めるクレアに難なく付いて回る。マイアは少し遅れ気味だ。工業区なだけあって徒弟や職人たちが慌ただしい。そこにラウルは、ん、と手を差し出した。おずおずと手を繋ぎ、クレアに二人で付いて行く。工業区を歩くにしては格調高めの服に街行く人の何人かは眼を向けるが、すぐにすれ違って行く。


「悪いねぇ、この辺りはいつもこんなもんでね。っと、へー」

「な、なんですか、クレア様」

「べっつにー、いいなー、へー」

「じゃあクーちゃんも繋ぐ?マイアにはちょっと早いみたい」

「じゃあ、ンヘヘ、そうしようか、うん、はぐれると不味いからね、クフフ」


 ここでの指信号は必要ないのか、クレアは、さっとマイアの腕を取る。年の離れた姉妹と弟に見えなくも、ない。ギリギリ。にやにやと笑みを浮かべながら、職人たちの喧噪の中を流れるように歩く。道はごった返してはいるが、広めなこともあってぶつかる程ではない。材料、資材を運ぶ人たちが多いために人の流れが一定でないのが、慣れないマイアにとって歩き辛いくらいである。


「さて、着いた。ここが我らがグラント城、御用達のリケルト工房さ」

「・・・わぁ」

「へぇ~、いっぱいあるんだね」


 ガラスの奥に飾られた剣、槍、鎧に盾、槌までも揃えられていた。どれもが磨き上げられ、丹念に鍛えられた物だと見る者が見れば分かる。ドアをくぐると、外とは違う種類の喧噪が広がっていた。


「さってと・・・リケルト代表はっと・・・」

「グラント城の人かい?」

「あぁ、代表さんはいるかい?使いが来たはずだが」

「奥で待ってるよ、どうぞ」


 徒弟の一人が目敏く三人に気付き、工房の奥へと案内する。工房の手前は棚に武器が陳列していただけだったが、ある程度進むと、頑丈そうな仕切りの奥がそのまま鍛冶場となっていた。金属音と熱気が三人を迎える。


「この辺で待っててください、親方を呼んできます」

「すっごい熱気だね・・・」

「普通は店と工房分けてやってるんだけどね。ここは売るだけじゃなく、持ち込みの調整やら打ち直しやらもするからこんな間取りにしてるんだと、別の場所にもっとデカい鍛冶場も持ってるんだとさ」

「・・・うわぁ」


 ラウルとマイアが目を回す様に鍛冶場を見回していると、ひょろ長い身長の、眼鏡をかけた作業着を来た壮年の男が近づいてきた。厚手の手袋にエプロン、手には金槌を持ったままだ。


「ど、どど、どうも、この工房の、だ、代表り、リケルトです」

「あぁ、久しぶりだね代表」

「く、クレアじょ、上級騎士様でした、か、お久し、ぶ、ぶりです」

「ラウルです。こんにちは」

「マイア、騎士見習い、です。初めまして」


 どもりながら挨拶をしてくるリケルト代表に二人は挨拶を返す。挙動不審気味に眼鏡の奥で充血した眼でギョロ、と子供二人を見比べて、どうも、とだけどもりながら返した。


「相変わらず寝ずに打ってるのかい?」

「て、鉄の不思議は、ね、寝る間も、お、惜しまねば、分かりません、から」

「そうかい、で、良ければどこか、人目のない部屋はないかい?」

「こ、こちらへ」


 そう案内された部屋はごちゃごちゃとしていた。羊皮紙が転がり、棚から本が溢れ、食べ掛けのサンドイッチが放置してある。リケルト代表の部屋だった。道具類だけがピカピカに磨かれ、放置されることなく並べられている。その部屋に入るや否や。


「さ、さぁ!見せてください!あるんでしょう!?ミカヅキ!ミカヅキです!あの流れる刃紋の月と見紛うミカヅキです!に、偽物だったらしょ、承知、しません、か、からね!?」


 ドアが閉まるのも待たず、リケルト代表はクレアを見やる。誰にでもこのような態度を見せるのだろうか。職人には変わり者が多いとマイアも聞いていたが、その異常にも思える言動に少し引き気味だ。


「本物だと思うよ、先生から、えっと預かってきてるんだ」

「き、君には聞いて、ない!どこの貴族の子弟か、し、知らないが・・・おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 言いながら革袋からミカヅキを取り出すと、雄叫びを上げながら引っ手繰ろうとする。国の宝刀に対してあまりといえば、あまりにもな行動にラウルも慌ててミカヅキを守る。


「大丈夫だよ、ラウル君。こんなだけどね、変な扱い方はしないさ」

「あ、あ、当たり前です!さぁ、君、い、良い子だから、それを、わ、ワタシなさい」


 そう言われてラウルはおずおずとミカヅキを渡した。やはりリケルト代表はミカヅキを引っ手繰るとそのまま部屋のソファに座る。机に広がる羊皮紙や本を手で払い飛ばして鞘から払うなり、充血した眼をうっとりと細めた。


「おぉ・・・久しぶりに会えましたね・・・もう、10年にはなるでしょうか・・・」


 夢中になってミカヅキに語り掛けるリケルト代表の向かいのソファに腰かける三人。マイアだけ座るのを躊躇ったが、少し狭いソファにゆっくり腰かけた。


「邪魔する様で悪いけど、状態はどうだい?」

「まず、研ぎは及第点です。しかし脂が酷い・・・動物を斬ってますね、拭いが足りていません。錆びていないのが不思議なほどです、全く、こんな美女を汚れたままにしているなど、何を考えているのか、金属に水気も動物の血も脂も放置は厳禁です。手入れに使う油は精練された不純物の無いもので刀身を保護しなければ。あと、鞘はもうダメです。こんな状態のまま鞘に収まっていたのでは鞘の中にも血や、脂や、湿気も含んだままになっているでしょう。複製するしかありませんね。幸い鞘はそう難しい材質の物ではありませんから、すぐに出来ます」


 一息に震える声で捲し立てる。どもりもなく流暢な言葉だが、端々に哀しみと怒りと興奮が感じられた。


「ご、ごめんね・・・大切にしてたつもりだったんだけど・・」

「な、なぜ、君が謝るのです?あ、預かっているだけでしょう?」

「あ、ううん、手入れは、その・・・僕が二年くらい前からしてる・・・」

「ふ、ふむ・・・ミカヅキを見るに・・・それ以上前からの痛みです。ではこの研ぎは君が?」

「あ、うん」

「ふむ・・・ふむ・・・いいでしょう、弟子にしても構いません。初めてミカヅキを見たときはオウル様を斬りつけるところでした、それは酷い有様でしたからね、今日のミカヅキはそれに比べれば雲泥の差です、文句はいくつでもありますが」


 この様子なら、本当にオウルに斬り掛かっていてもおかしくないほどの狂気を感じさせるリケルト代表。いきなりの言いようにクレアは苦笑する。


「あー、弟子入りに来たわけじゃあないさ、代表。実はミカヅキをみて、必要であれば補修を頼みたいと思ってきたんだ。この子は既にオウル様の弟子だしね」

「何ですって!?預かってもいいのですか!?こんな美女と夜を共にするなど・・・!分かりました、お引き取りを」

「待ちなって、持ち主の、あー、預かり主の意向を聞いてからにしてくれ。どうだい?ラウル君」

「ら、ら、ラウル君といったね。安心しなさい、ミカヅキは生まれ変わる。安心して預けなさい」

「えっと、でもお金がいるんじゃ・・・」

「それは城から出るさ」

「ラウル君、いやラウル様!大切に預かりましょう!任せなさい!きっとあなたが満足する仕上げをして見せますとも!さぁ、早くワタシに任せて行きなさい!」


 どうしても一人、リケルト代表にとっては二人きりになりたい様で、物言う毎に三人を追い立てる。もはやマイアは口を挟めない。


「そ、そうだ!どうだねラウル様、なにか、注文はある、かね!?ワタシに任せてくれるなら!この工房にあるものなら何でもいい、持って行くと、いい。なければ新たにこ、この!ワタシが打っても!いいのだよ!?その分に関しては、か、金もい、いらん!」

「えぇ!?」


 何もそこまでとマイアが驚きの声を上げる。リケルト工房の武具といえばこの国でも間違いなく三本の指に入る。王城御用達になっているのも、その腕と、頑固なまでの仕上げを買ってのことである。 


「え、えっと・・・」

「さぁ!頼みたまえ!ラウル様!大丈夫だ!仕上がればちゃんと返すとも!飾られてではなく、武具とは使われてこそだ!信用したまえ!」

「じゃあ、その、う、うん」

「よし!よしよしよし!良い子だ!良い子だラウル様!さぁ、何が欲しい!?」

「あ、あの、リケルトおじさん、えと代表?ここで刀って、打てる?」


 疑わし気に問い返すラウルに充血した瞳が、すっと細められる。


「な、な、なん、なんだって?」

「えっと、ミカヅキとは別の刀があればなって思ってたんだ、もし刀があるなら練習用に欲しいなって・・・」

「つまり、ミカヅキに代わるモノ、刀を打って欲しいと。そう言うんだね?君は」

「あ、駄目なら・・・その・・・」


 充血した瞳がラウルとミカヅキを交互に見やる。やがて感極まったように。


「素晴らしい、つまり、つまりつまり!ワタシとミカヅキの子が欲しいと!?」

「えぇ!?」

「驚くのも無理はない!そうか、そうかね!いい、良いぞ気に入った!このミカヅキを預かろう!きっと絶世の美女に生まれ変わらせて見せる!そしてその娘を打とう!楽しみにしていたまえ!アハ!アハハハ!」


 陶酔、いや刀酔 (とうすい)したリケルト代表は勝手に話を進める。やや不安は残るがラウルにとっては良い話だった。事務的な話をクレアからリケルト代表へ、しかし金額や時間的な話となると急にどもり出し、興味のないような受け答えしか返ってこなかった。これはもうだめだとクレアも判断し、顔見知りのリケルト工房の高弟と細々とした話を通して工房を後にした。


「凄い人だったね・・・ラウ兄様・・・私ちょっと怖かった・・・」

「んー、でも嘘は付けない人に見えたけど、ちょっと怖かったね」

「悪い人じゃあ無いさ、まぁ好きすぎてるんだろうね、金物を。武具だけじゃなく」

「でも、美女って・・・娘って・・・」

「グラント王国の大人の人って皆が仕事で出来たものを家族みたいに思ってるの?」

「ガースルトさんも、リケルト代表も、特別だよ、ラウ兄様、たぶん」

「あっはっは!ラウル君も人並みに怖がるんだねぇ、ちょっと安心したよ、うん」


 さて、と子供二人の気を取り直させるように声を掛けて商業区へ足を向けるクレア。次は特に目的もなく、観光案内のつもりでクレアは二人を連れ回す。工業区を抜け、踏み入れた商業区。色とりどりの織物や、工芸品、食べ物などが並ぶ通りに差し掛かる。道行く人は多く、飛び交う売り文句は活気を乗せたものだった。


「うわー、バザー?だっけ?をやってるの?」

「ふふん、これはいつもだよ、ラウ兄様!」

「グランエストは首都だからね、色んな物が集まってくるのさ。バザーをするときはこんなもんじゃないよ?」

「へえぇ・・・」


 工業区よりも雑多な人波にさらに目を回しながら歩く。今度はラウルが遅れ気味だった。その手を今度はマイアが引く。工業区では見慣れないものが多すぎたために、何を見ればいいか焦点が合わないものが多かった。しかしここ商業区には見慣れたものや、城の中でも目にしたような衣服、家具、食べ物が多く、理解が及ぶがゆえに視線がグルグルと回る。


「おら!どうだい!竜の刺繍入り帽子だ!」

「こっちにもあるぜ!竜の飴細工だ!見てってくれ!!」

「え!?」


 商魂たくましいグランエストの商人達は早くもユキを象った商品を通りに向かって捲し立てる。たった一日でユキに利を見出した彼らは既に自分たちの商品を名物に押し上げようとやっきになっているようだった。


「竜って・・・ユキのことかな?」

「多分そーさ、びっくりしたろ。昨日の夜にはもうあの飴細工はあったね」

「凄い・・もうこんなに・・・」

「でもなんで?昨日イーリスにお伽噺を聞いたんだ、怖がられてると思った」

「ま、打算、っていうか、あー、儲けたいって思いも勿論あるだろうさ。けど、朝の段階で、あの竜が本当に城に薬草を届けたってお触れが回ったのさ」

「それだけで?」

「それだけじゃあないと思うよ、けどね。グランバルド陛下、シャルローゼ王妃を竜が救いに来たとあっちゃ、ここの国民は大抵が喜んじまう。騒ぎに怒ってた奴もいたけどね、ほんの少しさ」


 それだけ王家の威光が強いということだろう。加えてこの国は他国どころか、大陸に響く剣聖を輩出した国でもある。それらを慕う人達にとってあの竜は好意的に受け入れられつつあるということだ。竜翼教の教えが急速に広がることも考えられる。


「ちっとは、安心できたかい?」

「うん、でも、陛下や王妃様や・・・先生のお陰だね」

「ったく、ラウル君は堅いねぇ。俺達のお陰だ!つって舞い上がってもいいのにさ」


 グリグリと頭を撫でつける、イーリスが整えた髪が乱れるがラウルは気にしない。マイアだけ少し残念そうにしていた。


「ま、でもね。姫様は皆に謝るつもりみたいだね」

「やっぱり・・・そうですよね、王族が騒ぎを起こしたとなれば。何の切っ掛けになるか分かりませんし」

「?そうなの?」

「うん、しかも竜に乗ってともなれば、妙な疑いや、邪な考えを持ちかける悪い考えの人も出て来る、と思う。ラウ兄様は嫌だろうけど」


 マイアの説明の半分もラウルは理解できないが、なんとなく嫌なことはマイアの表情からも読み取った。グラント王国は王制を敷いているが、領地を分割している部分もある。貴族や武官、その中に政敵は潜んでいるし、今までの味方であっても離反に傾く者もいるかもしれない。それほどに竜は人間社会では異分子である。それをどう、槍玉にあげるかは前例がないだけに、想像が付かない。


「ユキは・・・悪い子じゃないんだけどな・・・」


 ラウルとアッシュ、ユキの絆の一端を知るマイアはその一言と表情に胸が締め付けられる。しかし繋いだ手をしっかりと握りしめた。


「大丈夫!私もちゃんと説明するから!」

「あらぁ~ん、いいねぇ。護衛が必要なけりゃあアタシはお暇するとこだけどぉ」

「クレア様!」

「・・・クレア様」

「とと、ラウル君、意地悪じゃないってばさ。ま、姫様もそうお考えみたいだし、二人も、ちょっとは考えておきな」


 賑やかな商業区をゆっくりと見て回りながら、ラウルもマイアも自分の行いの責任を考える。良かれと思った行動でもあるが、それが全ての人にとっての是となるか、非となるかは、これからの子供三人の行動と、何より、ユキにもアッシュにも掛かってくる。


「さて、折角だし、あの飴細工。買ってみるかい?心配なさんな、ちゃーんとお金も預かってきてる」

「えっと、じゃあ、食べてみたい」

「わ、私もいいですか?!」

「あいよ、ちょうど人もはけたみたいだね。あ、まだあんた達が乗ってたとかは言うんじゃないよ」


 少しだけ表情の陰る二人を励ます様に、文字通りの飴を与えるクレア。露天商の飴細工に近寄りながら大人ながらに楽しそうだ。


「おっ?坊ちゃん、こいつが気になるかい?こいつはなぁ、昨日城に飛び込んだ竜に似せた飴さ」

「うん、へー。凄い綺麗だね」

「だろう?まぁ味はいつも売ってるのと同じだがね、白竜糖 (ハクリュウトウ)って呼んでくれや」

「じゃあその、ハクリュウトウ三つ」

「え、アタシもかい?」

「おっと、お姉さんよ、大人だって買ってくぜ?気にしなさんなって」

「ま、偶にはいいか。じゃ貰ってくよ」

「おじさん、ありがと。・・・あ、角は五本だよ、耳みたいな角の奥に三本生えてるんだ」

「何っ!?あちゃー、大きい二本しか付けてなかったな、あんがとよ!坊ちゃん!」

「ううん・・・あ、その、眼が良いのが自慢なんだ」


 そうかい!と飴を手渡しながら代金を受け取る。拳よりも少し小さいくらいの棒差し飴を見つめながら遠ざかるラウルを見送った後。露天商の親父は、お客に向けて振る手をはた、と止めた。


「そんな後頭部が見えるような高さだったかな・・・?おっと、らっしゃい!こいつかい?こいつは・・・」


 考え込むのもそこそこに新たなお客の応対を始める露天商の親父。売れ行きは良いようだ。そんな露店から足早に離れながらラウルは二人に謝った。


「ご、ごめん、つい」

「まぁ、昨日あれだけの人が目にしてたんだ。大丈夫だろうさ」

「人を集めて事情を説明することになるだろうし、大丈夫だよラウ兄様、その時は私も一緒に謝ることになりそうだし」

「う、うん」

「でも、こうして見てもかなり似てるね。色は牛の乳で付けてあるのかな・・・うん!甘いっ!」

「ほー、アタシャ遠くでちらっと見ただけだからね、うへ、あっま・・・」

「爪とか角の数は違うけど、似てると思うよ。へー、こんな味、初めてだ」


 ラウルは飴自体食べたことはない。砂糖は少々高い、この白竜糖も一般人が少し悩むくらいの値段がした。オウルとの旅で色んな場所に訪れた時も、砂糖よりも塩が必須であったがため、質が悪い砂糖を固めた飴くらいしか食べたことが無かった。それもオウルに余裕がある時であり、極々稀だった。


「あー、食べるとユキが溶けるぅ・・・」

「飴だしねぇ」

「クスッ別にユキも怒らないよ、むしろ見せてみたいな」


 ぐにゃりと溶けるユキに申し訳なさそうに舐めるマイア。それを見てラウルは笑う、飴を手に持つせいで今はもうマイアとしか手を繋いでいない。その繋がれた手を見て、周りでは口元を隠しきゃきゃあと騒ぐ年頃の娘たちがいたが、ラウルにはそれが商業区の賑わいの一つだとしか思えていなかった。

 後日、ラウル達は再び工業区にあるリケルト工房にミカヅキを受け取りに訪れるのだが、そこでリケルト代表は刀を片手にこう叫んだ。


「だ、大事にしてくださいね!ミカヅキと、我が娘を、よろしく、くれぐれも、うぅぅ!お願いしますからね!」


 娘を嫁に送り出す父親のようだった。

登場人物をちゃんとまとめておかないと・・・!

かぶりそうで怖い!

モブの使い方と表現が今後の課題ですね!

それではまた、次回!

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