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竜のツノと狼の尻尾  作者: 日向守 梅乃進
第一章
10/63

侍女とおねぇちゃんはお世話好き

進むのが遅いのは分かってるけどアレも書きたいコレも入れたいで悩みますね。

グラント城客間の浴室でラウルは侍女の奉仕を受ける。バスタブからお湯を頭から受け、何度も匂い付きの石鹸でこすられた。


「やはり旅の汚れはしつこいですね」

「水浴びはしてたんだけど・・・」

「えぇ、思ったほどではございませんが、問題は髪で御座いますね。はい、お湯を掛けますね」

「わぷ」


髪を濡らされ、泡立てられる。シャンプーと言うらしいが、なかなか汚れの所為か泡立たない髪に侍女は四苦八苦していた。何度も流し、泡立てる。バスタブに溜められた湯も半分程が掛け湯になってしまっている。掛け湯のほとんどは汚れに染まりながら、流れていく。髪の汚れも落ち、本来の色であろう黒ずんだ茶色から赤みがかった茶色を取り戻す。かなりの長旅だったのだ。


「これ、凄いね。アッシュにしてあげたいな。いい匂いだし」

「アッシュ様とは・・・どのような方で?」

「僕の妹だよ、白い狼。スノウウルフって言うんだって」

「あぁ、あの・・・しかし獣は、失礼。狼であれば水などは嫌がるのでは?」

「そうなの?アッシュは水浴び大好きだよ、水掛け遊びとかするし。拭いてあげると喜ぶんだ」

「そうなのですか」

「うん、ふふっ」

「どうされましたか?くすぐったかったでしょうか?」


 ううん、と頭から背中を流されながら。生前の先生、つまりオウルとも何度か水を浴びながら体を清めていたらしい。その時は男同士、ガシガシと体を笑いながら擦り合い。時にはそのまま川や湖で水練がてらの競争などもしていたらしい。


「懐かしいな」

「・・・その時もアッシュ様もおられたのですか?」

「そう、もっとちっちゃい時の。ユキはまだいなかったけど」

「寂しいですか?」

「え?うーん・・・先生に会うまで、山で一人でいたから・・・その時みたいかなぁ」

「その、失礼ですが。ラウル様はまだ14を数える程とか。グラントでは18で成人、大人の仲間入りをします。ラウル様はもっと寂しがってもいいのですよ?話を聞くと、そのオウル様をお父様のように思われているのでは?剣の師であり、人生、生き方を教えてくれた方なのでは?」

「お父様って、マイアのドルトニアンおじさんや、姫様の陛下みたいな?」

「・・・左様です。お父さん、父親、親父なんて言い方もありますね」


 またしてもううん、と考え込む。実際にオウルに子がいれば、14歳の子がいてもおかしくはない。事実オウルはラウルを弟子としてというよりも家族として迎えていた。何らかの形で孤児となったラウルに自分の愛称にちなんだ名を与え、最初は山での生活や旅の知識を中心に教えていた。剣や刀はおまけの自衛の知識としてであったが、以外な才能と、ラウル本人の意向もあり、鍛錬に力を注いでいた。そのオウルの方針や考えの全てを知る前に、彼は逝ってしまった。今となっては八年連れ添ったラウルであっても彼の真意は定かではない。


「お父さん・・・って、呼んでみたかったな。父上とか、お父様っていうのは嫌がりそうかも」

「・・っ、いいのではないでしょうか?今からオウル様を父と思っても、無論ワタクシが決められることではございませんが、心の中でそう、呼び慕うくらいは」

「頭の中ではお父さんだったよ、強くて、優しくて。かっこいいけど、ちょっとだらしなくて、お馬鹿だったけど。遊び方なんかも、たくさん教えてくれたし。夜は一緒に寝たりしてた」

「では・・・なぜ先生と?一度くらいお父さんと呼んでも良かったのでは」

「最初はオウルさんって呼んでた。刀術を教わりたいなら先生って呼べって、厳しく教えないと危ないからって言ってた」


 それは、と侍女が言葉を選ぶように考える。ラウルの腕や足を磨きながら考える。オウル自身はやはり父親のように接していたのではないだろうか、と。侍女は武術の心得を多少、自衛のために学んだが、それもある程度厳しいものだった。だがオウルをかなり真っ直ぐに慕うラウルからの話ではオウルの方から師として、父の情を絶ったのではないかと。侍女の知るオウルは、かなり情に厚い人間だったのも、その考えに至らせた。


「ワタクシは、オウル様に何度かお会いしたことがありますが・・・」

「そうなの?」

「はい、ワタクシの知るオウル様であれば。お優しい方でしたし、それに」

「それに?」

「・・・いえ、ワタクシの口からは、これ以上は。申し訳ありません。鉄の美女から聞いてみるといいでしょう」

「その人と知り合いなの?!」


 はい、と急に振り返った裸のままのラウルをじっと見返す侍女。強い意志を感じさせる眼は、普段あまり感情を見せることは無いが、この時だけは少しの悲しい光が宿っていた。その理由はラウルには分からない。


「どんな人!?必ずその人にだけは逆らうな、恐ろしい奴だって」

「まぁ・・・非道い方ですね。鉄の美女なんて言い方も、非道うございます。確かに厳しい方ですが」

「そうなの?でも怖い人じゃないのは何となく分かるんだ」

「あら・・・どうしてですか?」

「その人のこと話すときは、先生、嬉しそうだったから」


 侍女はすっと眼を細め、そのまま首やラウルの以外に厚い胸板を擦る。所々細かい傷や大きめのものが残っている。万感を込めるように侍女は優しくラウルの体を洗い流した。


「大分綺麗になりましたね。これならば・・・きっと・・女性が、その・・格好いいと、放って、えぇ、おかないでしょう」


 綺麗になったラウルを改めて全身見回しながら言う。赤茶けた髪に、旅垢でボサついていた髪を上げると、深い臙脂色のやや大きい瞳。鼻筋も通り、あまり表情の無い顔付きだが冷たさを感じることは無い。急に侍女の言葉を受け、そうだといいな、とふにゃりと微笑み眼を細める様は、あどけない年相応の少年だった。侍女にしてみれば先ほどの悲しい内容の会話も相まって保護欲を感じさせた。


「えぇ、きっと。あとはゆっくり湯船にお漬かり下さい」

「これ?」

「はい、水に沈むように腰かけると温まりますよ」

「うん、ありがとう侍女お姉さん」

「とんでもございません、長々とお喋りをして、失礼しました。ワタクシは外におりますので」


 うん、と返事を受けながら侍女は浴室を出る。そのまま客室の扉を出た。そこでゆっくりと長く息を吐く。日も落ちて、気温の下がった夜では燭台に照らされて白い溜息が長く漏れる。そこに顔に傷を持つ女騎士が近づく。


「で、どんな感じよ。僕ちゃんは」

「・・・ホゥ」

「その溜息は、白いけど桃色なのはなんで?」

「・・・フゥ」

「おいコラ、務めがあんだろーよ。害はあるのか、ないのか。姫様に近づけても問題なさそうかい?」

「今のところありませんが、毒はありそうです」

「あちゃ、そうなのかい?」

「女性にとっての毒です、あの子は・・・将来、数多く泣かせそうですね」

「あー、まぁマイアはもう多分ほら、気にはしてるだろーねぇ。まぁアタシからみてもこう・・・グッとくる反応してるしねぇ、小汚かったけど」

「今、お風呂に入れて来ました」


 ぐっとクレアが顔を侍女に寄せる、鼻息が侍女の頬をくすぐるが、お互い気にしない。


「詳しく聞こうじゃないか、まだ上がってきてないんだろ」

「まず、かなり鍛えこんでいるのではないでしょうか。筋肉も年相応以上でしたし、傷痕も全身細かいものから、それなりの大きさまで残る程です」

「フンフン」

「小汚いというのも失礼ですが。かなり長い間旅をされていたのでしょう、すっかり洗い落としました。見違えますよ」

「ホゥホゥ」

「後はまぁ貴方が気にしてる下半身ですが・・・」

「フッフッ」

「そろそろ上がりそうですね、部屋に戻ります」

「そうしよう、あの子は剣士だ、念のためアタシも」


 すぱん、とクレアの頭をはたき、客間に戻る。その際に騎士に重要な件だけ伝えた。


「可哀想な境遇の純朴な少年というだけですね、権力や、お金に興味すら持ってません。恐らく性的なことも、理解してませんね」

「りょーかい、ヤな仕事だね、お互い」


 えぇ、と呟きながら再びイヤな仕事に戻る。ラウル相手になら普通に侍女として仕事にあたりたいと思いつつ。客間に戻るとラウルの姿はまだなかった。浴室で初めてのお風呂を楽しんでいるのかもしれない。浴室の前から声を掛けた。


「ラウル様?お湯の加減は、暑かったり冷めていたりしませんか?」

「うん、大丈夫」


 反響にくぐもる声が聞こえてきた。問題ないようだ。その間に着替えとタオルの用意をする。ほどなくラウルから声が掛かる。湯は堪能できたようだ。


「このまま出ていいの?」

「少々お待ちくださいね、失礼します」

 

 浴室にタオルを持ち、ラウルの身体を拭こうとすると。濡れるからいいよと断られるが、既に先ほどの洗体で侍女服もエプロンも多少水を含んでいる。そのことを伝え、構わずラウルの体の水気を拭きとった。


「ありがたきしあわ」

「ラウル様、今後も侍女からどのようなことをされても感謝の言葉は必要ありません」

「え?んんん・・・」

「侍女の仕事は奉仕、つまり、人のお世話ですから」

「でも、嬉しいことされたときは、ありがとうだよ」

「・・・そういうときは、どうしても感謝をいいたいときには、ご苦労、の一言で」

「おうさま、じゃない陛下や姫様みたいに?」

「はい」


 少し考え込むが、やはりありがとうと述べるラウル。侍女は苦笑を抑えつつ、いいえ、とだけ呟いた。絹の寝間着に着替えさせ、少し早い時間だがベッドへ案内する。ラウルにとっても今日は色々とあった。疲れは表情からは感じさせないが、やはり多くの人と接したことによる気疲れもあったのだろう、欠伸が漏れる。頭を振りながらミカヅキを今日も抱く。


「ミカヅキを持ったままですか?」

「うん、寝るときはいつもだよ。大事なものだし、安心できるし」

「そうなのですね・・・ふふ、もっと安心できるよう、お伽噺でもいたしますか?」


 14の少年には子ども扱いが過ぎるが、ラウルは実際、傍目に見て精神的に成長が遅い。オウルに出会ったのがおそらく4つか5つ、それから八年過ごしているのだが、恐らくそこから人間的な成長を経たのだろう。言葉知らずな様も相まって、精神年齢的に10歳くらいに幼く感じる。


「姫様も言ってたんだけど、オトギバナシって何?ドウアとかも言ってた」

「あら・・・オウル様から・・・いえ、あの方はあまりしそうにありませんんね」

「うん、先生からは聞いてない」

「なんといいますか・・・子供にする物語などですね、寝る前にお話ししながら語るものです」

「ふーん、あ、じゃあ竜の話って、ある?」

「竜ですか?たくさんありますよ」

「じゃあ、それがいい。皆が竜をどう思ってるか知りたいし」

「・・・そうですね。悪い竜の話が多いですが、それでも?」


 うん、と頷くのを見て。昔々と前置いて、侍女は竜を語る。とある村に恋仲の男女がいた。その男女は将来を誓い、子を生すが、男はある日、病に侵される。その病を治すため、女は八方に手を尽くすが、男の病は少しも癒えることは無い。このままではと悩む女は一つの噂を聞きつける。遠くの谷に住む竜の血はどんな病もたちどころに癒すという。その血を求め、女は身重の身体で谷に向かう。竜に頭を下げ、竜の青い血を分けて貰い、男に与えると、病は消え去る。

 しかし徐々に体が鱗に覆われてゆく。気味悪がった村の人々は男を村から追放してしまう。悲しみに暮れた女は再び竜を訪ねると、笑う竜は追放された男の服を見せて言う。竜は竜を喰う、血を与えられ、半分竜になった男はまずまずの味だった、と。女は自分の行いが竜の腹を満たす為だけのものだったと絶望する。悲しみに暮れ、村に戻った女は男の子を産んだ。その子は将来、父の非業の死を知る。仲間を集め、知恵を蓄え、苦難の末に竜を打ち倒すというものであった。


「うわぁ、酷い話だね・・・ユキを怖がる人が多いのが分かったよ」

「えぇ、この噺は、悪い知恵を持った大きな力を持つ者に注意しなさい、という教えと、大きな苦難には自分以外の助けと、知恵を学びなさいと言うお話ですね」

「ふーん、でもユキの血を舐めたことあるけど、ふぁ、鱗なんて生えないよ」

「えぇっ!な、舐めたのですか?!」

「ユキが怪我したところをアッシュと舐めたことあるよ、赤いし、うろこは、はえなかったな・・」


 徐々に夢の世界に落ちながら答えるラウルを驚きの表情で眺めながら、侍女は寝息を確認したところで客間を後にした。珍しく驚き、大声も上げてしまったが誰もいない場所で良かったと思いつつも、少年の様子を彼女の主観の元、各所に伝える。これで彼女のイヤな仕事は終わり、侍女として普段通りの務めに戻ったのだった。形見を抱いて、安心した笑みを浮かべて眠る少年の寝姿が、その後も務めを果たす彼女の胸を少しだけ締め付けた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 兄さんがいない久しぶりの夜、なんとか妹を寝かしつけて。アタシは星を見る。兄さんはあの城で無事だろうか?あの城ではあまりいい匂いはしなかった。疑いと警戒と少しの緊張の汗の臭い。人里には何度かしか入ったことしかないけれど、あんまり好きじゃない。兄さんみたいに安心している匂いは兄さんとお師匠さんからしか匂ったことが無いし。


「フォウフ」


 欠伸でちゃった、そろそろ寝ようかな。結局アカもこなかったし、しょうがない。ユキを見た奴は大抵こうだものね。驚いて逃げるか、たまーにユキが何かわからずに近づいて来るのもいるけど。まぁ小鳥くらいか。あら?


「姐さんっ姐さんっいるかっ?」

「アカじゃない・・・ホントに来たのね」

「しっ!竜が起きちまう・・・」

「あー、大丈夫よ。一度寝たらなかなか起きないわ」


 ユキが寝るのを待って、暗がりに近づいてきたのかしら。まぁ堂々と来れる奴なんて兄さんくらいか。にしても良く来たわね。以外に度胸が・・・いや、尻尾はしっかり股の中ね。まぁ評価してやりましょう。


「ふーん、来ないかと思ったわ」

「なっ!来いって言ったのは姐さんだろ!?」

「っていうか名乗ったんだから、アッシュでいいわよ」

「いや、姐さんはもう、姐さんだ。年下だろうが、もう名は呼べねぇ」


 ほー、流石は元群れの幹部。徹底してるのね。悪くない、兄さんさえ良ければ群れに入れてもいい。足は速いらしいし、忠誠心も高そう。臆病なのもいいわね、生き延びれるヤツは野生じゃ貴重だし。


「で?話を続けに来たのね?こっちに来れば?」

「い、いや、ここでいい。ちょっとしか考えてねぇが、俺は群れには入れねぇ」

「あら、残念」

「姐さんは、群れのメスなんだろう?ボスじゃなく」

「そうね、ボスは兄さんよ」

「はっ!?その竜じゃないのか!?」


 何をいってるんだコイツは、アタシが妹のユキの下?あぁ、竜だからか。確かにユキは強い、んだろう。喧嘩も小さい時にしかしていないからね。今やれば・・・どちらかが怪我をするかも。それじゃ済まないか。


「ボスは兄さんよ」

「兄さん?番いの旦那かと思ったぜ、どんなんだ?」

「兄さんは強くて、格好良くて、優しくて、格好いいのよ」

「カッコイイが二回も付くのか・・・まぁ、その兄さんには着けねぇ」

「オ゛ォ゛ウ?!」

「ヒッ待て待て、俺はあくまで、姐さんの下に着きてぇんだ、勿論その兄さんには従うぜ」


 ふむ・・・つまりまだ見ぬ兄さんは信用できないと。まぁ、野生の奴らからしたらそうか。うーん、アタシは群れを作るつもりはないしなぁ。でもあの大きい町から割と近いここで縄張りを作るのは悪くないわね。


「まっいいわよ。それで」

「そうか、ただ、俺一匹だがいいか?他の奴らはもう、群れてるしな」

「そりゃ構わないけど、アカは一匹でこの山で生活できるの?」

「言ったろ?俺はこの山一番の足を持ってる、狩りもまぁ、そこそこだ」

「面倒は見れないわよ、アタシはボスじゃない。兄さんは今離れてるだけで、呼ばれたら戻るし」

「いつか会ってみたいがね、構わねぇ、俺は姐さんの犬だ、好きにしてくれていい」 


 アカがそれでいいなら、まぁ、いいか。明日はこの山を案内してもらおうかな。他の群れにも会っておきたい。しっかりマウントしておかないとね。


「そういえば、キバ一党はもう無いんでしょ?この山の次のボスは誰になりそう?」

「それが、だなツメ一党になりそうだな」 

「ふぅん?強いの?」

「強い、数はいねぇが・・・それに」

「それに?」

「虎だ」


 虎?あぁ、あの大きい猫か。ここの所見なかったわね。今のアタシより少し大きいくらいの、爪が鋭いヤツだ。一度兄さんが連れてきたっけ。怪我したヤツ、そういえばアイツの怪我治ったのかしら。


「やっぱり、姐さんでも、虎は無理か。」

「ハァン?」

「いや、確かに虎は強ぇよ、デカいし、何より迅い(はや )、けどその竜なら大丈夫じゃないか?」

「ユキに喧嘩なんかさせないわよ。この子は優しいんだから」

「いやいや、いくら姐さんでも俺と二匹じゃ無理だろう。キバ様・・・キバだって多対一で撃退してたんだ、犠牲はかなり出たけどな」


 やりそうね、アイツなら。ひょっとしてハーレム作ってたのも自分に従順な兵隊を作らせてたのかもね、下種が。ムカムカしてきた。群れを盾にしやがって、下の者をなんだと思ってやがる。


「まぁいいわ、で、そのツメってのはどんなやつなの?」

「確か家族で群れてたな、俺が知ってるのは4、ツメ自体はデカい虎のメスだ」

「ふーん」

「いつもは森の中で狩りしてるな、ここからは結構離れてる。この山の裏手の森だ」

「森かぁ」

「森は苦手か?姐さんは」

「うーん、走りにくいとこは面倒なのよね」


 草原とか、雪原とか、見晴らし良くて涼しいところがいいのよね。まぁ勝負に場所を選ぶのは人間だけか。獣同士の勝負なんて出会ったところが決戦地だし。


「じゃあ、やっぱりそのユキ嬢ちゃんに頼もうぜ、森の虎は、ヤベェ」

「ダメだってば、ユキは。それに木登りくらいアタシにもできるわ」

「マジかよ?!狼って木に登れるのか!?」

「小さい木は無理、アタシの身体も大きくなってきたし、猿じゃないんだから。飛び乗るくらいなら一息よ」

「はー、すげぇな。爪じゃなくて脚で飛び乗るのか・・・俺にも出来るかな・・・」


 んー、難しそうね。かなりの脚力無いと。まぁ牙の使い方くらいは教えてもいいかもね。というかもうちょいこっちに来てくれないかしら。いくらユキがねぼすけって言っても、こう離れて大きな声で話してたら起きるかもしれないわね。かといって離れたらむずがるし・・・


「それはいいから、ちょっとこっち来なさい」

「え゛、い、いや・・・その・・・」

「いいから」

「や、その竜がこえぇし・・・」

「オ゛ォ゛ン?!ウチの可愛いユキが怖いだとゴラ」

「ヒッ!い、いや!可愛らしい嬢ちゃんだと思う!ぱっちり・・・おメメも・・・開いて、る?」

「え?」

「おねぇちゃんそれだれー?」

「キャンッ!」

「あー、ごめんねユキー?うるさかったのよね?」

「ふぁー、んーん・・・しらないにおいした」


 あー、アカの臭いで起きちゃったのか、ごめんごめん。ホラぺろぺろー。良い子良い子。もうおねむの時間だし、そのまま寝ていいのよー?んー?


「ほ、本当に妹扱いなんだな・・・」

「扱いとはなんだコラ、この子はアタシ達の可愛い可愛い妹なんだよ。口には気を付けろ」

「す、すまねぇ姐さん。その、仲が良いんだって言いたかったんだ」

「フスンッ」

「おじちゃんだれ?」

「んー?このおじちゃんはね、この山に住んでる山犬よ、おねぇちゃんの友達、アカっていうの」

「友・・・姐さん・・・くぅん」

「おじちゃんないてるよ?」


 そうだねー、どうしたのかなー?ペロペロペロー。オイゴラ、ユキを不安にさせんじゃねーよ。もしユキが釣られ泣きでもしてみろ。その股に仕舞った尻尾を引き抜くぞ。


「ユキ嬢ちゃんって・・・呼んでいいか」

「いいよー、おじちゃんなんでないてるの?」

「くっ、くぅ、これは汗だ。姐さんに友達って言ってもらえたからじゃねぇんだ。くぅん」

「ふーん、アカおじちゃんないてるのにね」

「ねー、これだから雄は強がりなのよねー、ユキは素直だもんねー?」

「うん、ユキいいこだよー」


 あぁ、ユキはなんて可愛いんだろ。ほぅらぺろぺろー。ここが気持ちいいんだもんねー、ぐりぐりー。やだ、ちょっとユキの白い鱗が汚れてる。明日は絶対水浴びさせなきゃ。クッソキバの野郎、あいつのせいだ。自分の毛づくろいもちょっとしか出来なかったし、ユキの水浴びも出来なかったろうが。ムッカー、今更腹立ってきた。


「ユキー?明日は水浴びしようね、おねぇちゃんが洗ったげるからねー」

「えー、やだぁ。ユキみずあびきらいー」

「え、明日はツメんところに・・・」

「だーめ、兄さんに嫌われちゃうんだからね。きれいきれいしようねー」

「うー、とうさまはユキのこときらいじゃないー」

「裏手の森に・・・その、ツメがですね」

「兄さんだってば、きれいなユキの方が兄さんもっと好き好きしてくれるわよー?」

「うー、んんぅー」

「姐さん?ツメがですね、多分その、キバもいなくなって、動き出すんじゃねーかと」

「ちょっと黙ってろ」

「ハイ」


 もう一押しなんだよ。兄さん引き合いに出さなきゃユキは水浴びしてくれないんだから。テメェ水浴びする前に兄さんに呼び戻されでもしてみろ。可愛いユキが汚れたまんま飛び帰るじゃねーか。兄さんに、可愛い可愛いユキが汚れたまんまで再会すんだろうが。可哀想だろうが。オトメはいつも綺麗なまんまでいなきゃいけねーんだよ、雄に、その苦労が分かってんのかコラ。


 この何日か後にアタシ達と兄さんは再会する、そのとき兄さんはユキとアタシを優しく撫でながらこう言った。


「ユキが綺麗になってる。アッシュが水浴びさせてくれたの?」

「オゥンッ!」(おねぇちゃんだからね!)

「お姉ちゃんだもんね、ありがとね」


 フスッ!やっぱり兄さんは最高だ。

個人的にアッシュの性格は大好きですが、ラウルに声が届くことはありません。

まぁ彼はアッシュとユキの心情をほぼ理解できてるようですが

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