-王都ポセインに入国3-
うふふと笑う受付の女性の顔には、敵意ひとつない顔が見られていた。
やっぱり綺麗だなこの人と、あの形相を見てからも改めて思うぐらいの綺麗さである。
「私の名前は、アリス。ここのギルドの管理者をやっているわ。得意なことは歌うことで、好きなタイプはリーゼンみたいな漢らしい人。あの腕で抱かれた……うふふふ。……あっまぁそんな感じかしら。あなたは誰なの。」
若干自己紹介の途中に狂気じみた笑顔が見えたのは気のせいだろう。アリスが自己紹介しない僕に、アリスはどうかしたのと言うような顔で見ていたため、慌てて自己紹介を行った。今までの経緯も含めて。すると、アリスは僕のことを抱きしめて、「可哀想に。」と頭を撫でてくれた。
女性に抱きつかれたのは初めてであり、とてもいい匂いがした。僕は若干初めてのことにドキドキとしてしまった。
少しして、アリスが離れたので惜しい気持ちがありながらも、リーゼンとの関係性が気になったので聞くことにした。
「アリスさんは、リーゼンさんとどのような関係なんですか。リーゼンさんからはなにも聞いてなかったんですけど。」僕はそういうと、アリスは不思議そうな顔をして、「でも、リーゼンはこのギルドにあなたを頼むって言ったのよね。」と聞き返してきた。
聞き返されて、僕はハッとした。
そうだ。ウィリアムに会いたいって言わなきゃいけなかったんだ。
「すいません。ウィリアムに会いたいって言えって言われたの忘れました。それもギルドじゃなくてウィリアムっていう人に渡せって……。」
そう言った瞬間、空気が凍るのを感じた。例えるなら、敵意を持った虎がじっとこちらを見ているような感覚である。実際はあったことないが……。
「ねぇ。あなた、樹くんと言ったかしら。今ウィリアムって言ったかしら。」
先ほどまで笑顔で天使の様な心地よいアリスの声が、鬼の様な顔と声に変わっていた。最初に見せたあの鬼の形相より怖い。
僕は声が出ず、頷く事しかできなかった。アリスは歩き出し、入り口から出ようとしていた。僕の横を通り過ぎた時にリーゼン殺すと聞こえていた。僕は、リーゼンに恩があり、今どこかに行かれると自分が困ってしまうため、どうにかならないかと考えた。
…
……
………
うーん。一か八か。
僕は、アリスに向かって、「待ってください。この話には続きがあります。」と叫んだ。すると、扉に手をついて今にも外に出そうな体が、こっちに向いた。
僕は改めて冷感を感じたが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「僕にリーゼンは、ウィリアムにあわせて欲しいと言えって言ったのは、ウィリアムって言ったほうが伝わると思ったからだと思います。リーゼンはあなたのこと、すごく素敵な人だから、こいつに任せておけば大丈夫。こんなに頼りになるやつはいない。」って言っていました。
…
……
………
少しの沈黙がすごく長く感じる。何回目だ沈黙が長く感じるのって。僕はもう今日何回生死を彷徨ってるんだろう。
「なんだそうなら、早く言ってよ。」
もうすでにニコニコになっていた。でも、ホッとした反面なんでウィリアムって言ったらあんなに怒ったか気になった。しかし、さっきの今聞けるわけもないので、黙ってるとアリスはしょうがないかという顔で、近づいてきて説明を始めた。
「改めて自己紹介するわ。私の名前は、ウィリアム・バード。アリスは愛称っていうか、新しい名前っていうか。まぁアリスって呼んで欲しいの。
大体今の説明で分かったと思うけど、ニューハーフって奴よ。心は女よ。っていうか、見た目も女に見えるでしょ。だから、ウィリアムって言われると少しイラッとしちゃうのよね。
でも、頼りにしている。素敵な人。うふふふ……もうリーゼンったら。素直に私と一緒になっちゃえばいいのに。」
アリサは、ニヤニヤし出している。情緒不安定なやつしかいないのかこの世界は。
そんなアリスの情緒不安定な反応を見て、一命を取り留めてホッとした反面、僕は今までにない衝撃を受けていた。
ニューハーフだと……。僕はテレビでしか見たことないからあれだけど。えっ女の人じゃないの。あんなに美人で、いい香りして。
抱きしめられてドキドキしたのも、近づかれてドキドキしたのも……卒倒しそうになった。
別にニューハーフがどうとかではないが、初めての体験に僕はどうしようもない気持ちになった。
まだニヤニヤが止まらないアリスを横目に、今まで会った人は変な人ばかりすぎて、改めてこの世界はそんな人しかいないのではないかと、僕は不安になってしまった。