-王都ポセインに入国1-
近くづくにつれて、城門はかなりの大きさだという事を改めて実感した。
城門は、大きな扉式になっており、どうやら今は開いている様だ。扉にはドラゴンの様な模様が描いており、感嘆してしまうほどであった。城門の上には管制塔の様なものがあり、守護兵と思わしき人が2人ずつ配置されており、城門の前には門番が1人ずつ城門の両端に立っていた。
門の前にはかなりの人や馬車が列をなしており、馬車は40台程度、人は50人程並んでいる様に見える。列は門番の前で終わっており、門番と何かやり取りをした後、馬車や人が門を通っている様子が見える。
「ここが正門だな。基本的にはここしか開かない様になっている。緊急事態とかそう言うとき以外は、出入りは正門だけになるな。どうだ、でかいだろう。」
リーゼンは、フフンと自慢そうに腕を組んでいた。
「めっちゃすごいですね。こんなに集まるもんなんですね。」
僕は、本物の馬車やこんなに人が並ぶというのが見た事がないため、素直に驚いてしまった。
「そうだろう。そうだろう。なんて言ったって、五つの王都の中心で、色々な人や物が行き交う場所だからな。」
そんな様子を見て、一段とフフンとリーゼンは自慢そうにしている。背中を反っている様にさえ見えるぐらいだ。
おじさん自分の住んでる国どんだけ好きなんだよ。僕は日本にそんなに誇りはなかったぞ。
僕がそんな事を思っている事を知る事も無いリーゼンは、まだ城門についての説明を続けてくれていた。
「いいか。まぁ今はこの門が開いているけど、モンスターが活発化する夜はこの門は閉じなければいけない。だから、日没には閉まるから注意しろよ。閉まる前には3回鐘がなる。これを聞いたら王都の中に直ぐ戻れ。わかったな。」
リーゼンは、さっきまでフフンと自慢げにしていた姿から、一気に真面目な姿になっていた。
なんだこのテンションの違い。僕は、リーゼンのキャラはあまりつかめないなと思った。
列に並ぼうとした時、リーゼンは僕を見て何かに気付いたそぶりを見せ、列に加わるのを辞めた。
えっ。なんでリーゼン並ばないの。
「リーゼンさん。いきなり列から外れてどうしたんですか。」
「まずいな……。こいつの格好絶対門番に聞かれるよな。俺単体ならまだしも……。うーんめんどくさいことになった。どうするのが1番いいか……。」
どうやら僕の声は聞こえていないらしい。ぶつぶつリーゼンは独り言を喋り始めた。
それから数秒して、 「よしっ。決めた。」とリーゼンは僕の方に向いた。
「お前はここらへんで待っていてくれ。少しのお前の服を持ってくる。」
リーゼンはそう言うと、「ごめんよ。ごめんよ」と言って、長蛇の列をかき分けて中に入って行った。少しするともうリーゼンは人や馬車に埋もれてしまい、姿は見えなくなっていた。
馬車の御者や割り込まれた人から怒られると思いきや、「まじか、リーゼンだよ。」、「リーゼンなら通してやれ。」と怒ることはなく、周りはざわざわしているだけだった。
確かにリーゼンは自分で名前は知れてるって言ってたけど、本当に結構すごい人なんじゃないかもしかして。そんな人にはあんまり見えないんだけどな。
そう言えば、1人になってしまった時ってよく絡まれたりとかするけど、僕大丈夫かな。周りを見渡した。皆しっかりとした服を着ているなー。まぁ冒険するから、鎧を着てたりしててもおかしくないよな。
…
……
………僕の格好超恥ずかしいんだけど。1人になった瞬間にこの格好の恥ずかしさを自覚した。
何一枚の布って、ターザ◯の生まれ変わりか僕。あーリーゼン早く早く戻ってこい。
列から少しずれているものの、見られてるらしく視線を感じる。自分の貧相な体を見て、布一枚だということに相乗して恥ずかしさを感じた。咄嗟に、なんとかしようと見つからないように体育座りをし、列から背を向けた。
それから、僕には永遠に時が止まっている様に感じる時間が過ぎた。そして、遠くの方から「ごめんよ。ごめんよ」、「ありがとね」などという声が聞こえた。
僕が体育座りのままに振り向くと、リーゼンが列をかき分けて僕の方に向かってきた。
そして僕に近づくと、「何やってんだ。寂しくていじけたのか。ガハハ。」
リーゼンは僕のこの惨めな姿を見て笑いやがった。正直イラっとした。しかし、リーゼンの手に持たれていたのは服であり、それを見てイライラは吹っ飛んだ。
「早く服を着て中に入るぞ、俺もそろそろ行かなきゃ行けん場所があるからな。」リーゼンはそう言うと服を渡してくれた。
白色で肌触りが布のような生地で、若干ごわつきがあるTシャツのようなものとなぜかニッカポッカのようなズボンだった。
…なぜにニッカポッカ。
「もうちょい良い服と思ったんだが、お前の体型に合うのは、これぐらいしかなくてな。まぁ俺の子どもの時の服なんだがな。」ガハハとリーゼンはまた笑っている。このおじさんは、僕のことバカにしすぎだろうと思い始めた。
でも命の恩や服の恩といい、リーゼンにはいろいろ貸しを作ってしまったので、何も言い返せない。
お礼を言い、服を着替えると、なんとジャストサイズだった。……何歳の時だったかは聞かないようにしておこう。きっと鬱になる答えが返ってくるはずだから。
そんなこんなで着替えた僕とリーゼンは列に並び始めた。長蛇の割には以外と早く、1時間くらいで門の入り口に着いた。
近場に来ると、遠目で見てたよりもずっと門は大きく、自分がいかに小さいかわかるくらいである。そして、扉に描かれた ドラゴンは金色で細部にまで力が入っており一種の芸術に近いのではないかと思うぐらいであった。門にこんなに力を入れる必要性があったのかと心の底では思ってしまった。
「それでは、通行許可書を見せてもらっていいですか。」と、門番は僕たちに渋い声で話しかけてきた。
その門番は、片手に180cmほどの槍を持っており、中世のヨーロッパに出てくるような甲冑を着ていた。いかにも屈強そうな男が中に入っていると思わせる体型をしている。
「さっきも通ったんだからよくね。」と、リーゼンは門番に言うが、「決まり事ですので。」と門番に言われ、面倒くさそうに対応していた。
「先ほど連れていませんでしたが、そちらは。」門番がそう聞くと、リーゼンは「俺の弟子だ。」と言った。
んっ。と僕は思ったが、「そうですか。リーゼンさんの弟子とはまた……。わかりました。どうぞお通り下さい。」と、門番は通してくれた。
うーん。どうやらいつの間にか弟子になっていたようだ。
「まぁ通る時には何かしらの理由が必要だからな。まぁ今回はそういうことにしといてくれ。」
ガハハとリーゼンは僕の背中を叩きながら笑っていた。
まぁ自分としては別に被害が無いから良けどね。
王都の中に入ると、多くの建物が建っており、露店などが活気よく商売していた。リーゼンは少し歩いたところで足を止めた。
「よし。それじゃあ俺の案内はここまでだ。さぁここからは自分の冒険だ。頑張れ坊主。」
リーゼンはどこかに行こうと歩きだした。僕は、今まで無いぐらい強い力で引き止めた。
ふざけんな。何の説明もなしに、こんな場所に一人置いたら死んでしまうだろうが。
「リーゼンさん、それは無いです。もう少し俺に情報をください。じゃなきゃ寝とまりさえできないです。お願いします。」
僕はそう言うと、土下座する勢いで頭を下げた。この世界に来て早くも二回目である。
「だから、そう簡単に頭をさげるな。全くお前は……。」
リーゼンは呆れた風に言うと、2枚の紙と鉛筆のような物を取り出し、一枚には住所が書かれており、もう一枚には汚い字で“こいつをよろしく頼む”という言葉と、リーゼンの名前が書かれた紙を渡された。
「これはギルドの住所だ。ギルドに俺の親友がいる。受付にリーゼンに紹介されて来たことと、ウィリアムに会わせて欲しいと言え。で、ウィリアムが来たらこの紙を見せろ。色々助けてくれるだろうよ。俺は、これから重要な仕事があるからもう構うことができん。だから、悪いがこれで勘弁してくれ。」
リーゼンはそう言うと、俺が追いつけないスピードで走って行った。
あいつ完全に最後は逃げる気だったな。すげー早かったし。
……僕はまた、見知らぬ土地で1人になりました。