-いじめからの脱出2-
……
血の味がする。いつもの日常すぎてこの味には慣れてしまった。
「たーかーなーしーくん。ほら寝てないで起きてよ。まだ俺達の授業は終わってないんだよねー。」
嫌な声が聞こえる。僕をいつも不幸にする声だ…
「早く起きろって言ってんだよ。」
「ウっ。」
僕のお腹に激痛が走る。息ができなくなる様な苦しさを感じ、つい声が出てしまった。僕の苦しむ姿を見て、周りの男たちは笑い出す。蹴った本人は人一倍笑っており、「見てみろよ、芋虫みたいだぜ」と周りと一緒に僕を指差してこの光景を笑っている。
「なぁなぁ気分はどうかな高梨くん。こんな惨めな気分は。まぁ金をくれたら今日はこれくらいで勘弁してやるよ。高梨くん。」
手を差し出されるが、決して僕を助ける手ではない。僕を苦しめるために差し出された手だ。でも、僕にはそれに抗える力はない。右手でさっき蹴られたお腹を押さえながら、左ポケットから三千円をだし渡す。
「もうないよ。これで今月の僕のお小遣いは最後なんだ。」
僕は、これで今月はもう大丈夫だと一瞬思った。しかし、それは甘い考えだったことにすぐに気づいた。
「はぁ。お前何言っちゃってんの。だったら明日から千円でも二千円でも良いから親からなんとかしてかき集めてこいよ。まぁ何円でも良いとは言っているが、最低でも千円は持ってこいよ。多いに越した事はないしな。」
「でも、親から盗むなんてそんなこと僕には。」
「……てめえ何調子こいちゃってんの。高梨くんは俺に指図できる様な人間なんですか。」
顔が近づいてくる。僕は一気に蛇に睨まれた蛙みたになってしまった。
「……指図なんてできないけど、でもそんなこと僕にはっ…かはぁっ。」
またお腹を蹴られ、今度は胃液らしきものが出てきた。口の中に鉄の味以外に苦味が加わる。
「お前良い加減にしろよ。もう一回言う。明日からはお金奪ってでも良いから持ってこい。今度逆らったら……わかってんだろうな。
「…わかった。」
こんなことなら、千円だけ渡せばよかったと後悔をしてしまった。
「ふんっ。高梨の分際で俺に意見言うなんて、身の程をわきまえるっていうんだよくそが。まっもう直ぐ休憩も終わるし、明日もよろしくな。」
そう言って男達は去っていった。
姿が見えなくなり、立ち上がった。少しフラフラする。お腹の痛みと痛みとは別の気持ちによる涙を頬に感じていた。
「くそっ犬飼の奴。あいつのせいで僕の人生は真っ暗だよ。」
僕は校舎の壁を叩いた。叩いた時の痛みはお腹の痛みの方が強く、手の痛みは感じなかった。
僕を蹴っていた男の名前は犬飼武。入学した初日に声をかけられ、お金を要求された。最初は怖かったが断った。その結果、暴力を振るわれ、こいつの友達が学年の中心的な人物であり、入学2日目にしていじめのキックオフのホイッスルがなった。
中学の時の友達は仲が良かったが、みんなと違う高校に入学した今となっては連絡がつかず、結果として唯一同じ中学から入学した友達である伊能守が、唯一の友達だった。僕と同じく漫画やアニメが大好きで、よく家に集まってはゲームをやったり、漫画やアニメについて討論をしていた。
最初は守も「大丈夫だったか。」など声をかけてくれたが、一週間程経った頃にはもう声は掛けてはくれず、連絡さへも返してくれなくなった。
友人は入学一週間程度で全ていなくなり、教師は学校でいじめが起こっているとは思いたくないらしく、見て見ぬ振りをしている。
一度助けてもらおうとした時期もあったが、一回殴られた現場を見たであろう教師がスルースキルを使って去っていった時があり、それ以降もう頼るのをやめた。
親にも言ったが…
父からは「弱いお前が悪い。」、「自分でこういうのは、切り抜けなきゃいけないんだ。」と言われ、母からは「父さんになんとかしてもらいなさい。」などと言われ、親として何もしてくれない。
「…はぁ。なんかもうどうでもよくなってきたな。」
クソみたいな人生だと心の底から思う。今まで溜めてきたお金もこの5ヶ月で犬飼にとられて底をつき、親の金に手を出さなきゃいけなくなった。
この5ヶ月間耐えたが、一転することもない。飽きを見せるどころかエスカレートしている節だってある。2ヶ月目の段階で一度自殺を考えたが、まだ死にたくないという気持ちが強かったから自殺はしなかった。まだ将来に希望を夢見ていたんだろう。
希望なんてないよ。いくら勉強して頭がよくなったとしてもね。3ヶ月目になる夏休み前のテストで上位5名に入るぐらいの点数を取った。しかし、状況は変わらない。逆にカンニング疑惑が立った。
4ヶ月目、夏休み中もなぜか学校に呼び出され、お金を渡したりサンドバックにされた。
そして今、5ヶ月目もう無理です。
「今思い返すと、なんかもう良いやって思えてきた。でも、最後は復讐して死んでやる。」
ため息と一緒に少し考えていた計画をそろそろ実行しようと僕は心に決めた。
これが自殺する2日前までの話