第7話 幻獣の森 ~2~
「頭痛ェー……」
「大丈夫ですか?」
翌日、僕はラインボルトさんと一緒に修行の為に外に出ていた。
ラインボルトさんは今朝から顔色が真っ青で、身体が右へ左へ、足取りもおぼづかない。体調が悪いのは一目瞭然。だが、これは病気ではない。ただの二日酔いだ。
昨夜、ラインボルトさんはカイザーさんと遅くまで飲んでいたらしい。そのせいで朝から絶好調に二日酔い。一方のカイザーさんはケロッとしていて、朝日が昇る前から食材となる魔物を狩りに出かけていた。ラインボルトさん曰く、カイザーさんの二日酔いどころか酔っている姿も見たことが無いそうだ。
「そう言えば、アンタのナイフなんだけど」
「はい」
「しばらく没収だ」
「……どうしてですか」
ナイフはマナミアから貰った、チート転生者に対抗できる唯一の武器。他の人の手に渡るのは気が進まない。例え師匠であるラインボルトさんであってもそうだ。
「その武器があまりにも危険だからだよ。それ"神器"だろ」
神器という言葉に目をパチクリ。するとラインボルトさんがハァ……と溜息を吐いた。
「知らずに神器を持ち歩いてたのかよ。……とりあえず、そこの木に向かってナイフを思いっきり振ってみろ」
言われた通り大樹に向かってナイフを構える。
ナイフでこんな太い木が切れるわけがない。切れるどころか切れ込みが入るのでさえ怪しい。
そう思いながらもナイフを思いっきり振る。
すると木は紙のように真っ二つに切れた。しかも後ろにあった木まで真っ二つ。
さすがに苦笑いしか出てこない。
初めてラインボルトさんに会った時、僕はこのナイフを使って男の首を狙った。もしもあの時止めてくれなかったら、僕は一般市民も巻き込んだ大量殺人犯となっていた。
「あの……ラインボルトさん」
「ん?」
「初めて会った日、僕を止めてくれてありがとうございました」
「ああ。礼なら後でな」
「沢山のお酒を用意しておきます。お礼はそれで」
「追い打ちはやめてくれ。しばらく酒は見たくない」
でしょうね。
「まーでも、神器は確かに強力で危険な武器だが、使いこなせば面白いことができるぞ」
「もしかして神器を持ってるんですか?」
「これがそうだよ」
それはラインボルトさんがいつも腰に差している剣だった。見た目普通の剣だ。これが僕のナイフみたいに異常な切れ味を持っているのか。竜を素手で倒せる男が神器を持っているなんて、もしかしたらこの人なら本当に魔王を倒せたかもしれないなと思った。
「面白いことってどんなことができるんですか?」
「それはおいおいな」
結局、はぐらかされったきり教えてくれなかった。
そして強力な武器を使うには、まず武器に負けない肉体を手に入れろと言うことで、ナイフは没収され、代わりに普通のナイフを渡された。僕のナイフはラインボルトさんの影の中だ。僕がラインボルトさんの影に触っても何も起きなかったから、取り返すのは不可能。
「さて、さっそく修行開始だ。とりあえずあそこにいる猪を倒してみよう」
猪?
まあ、猪ぐらいなら……。
そう思い、指差された方をを見たら
「!?」
巨大な猪が鼻息を荒くしながら前足で地面を蹴り、今にもこちらにむかって突進してきそうな姿。ゾクッと本能的に強く恐怖を感じる。
「ちょっ……これは」
無理だと言おうとして振り返ると、そこにはすでにラインボルトさんの姿は無く、いつの間にか木の上にいて、気怠そうに横になっている。
「あ゛~……気持ち悪ィー……」
そんな言葉が聞こえてくる。
尊敬される師匠になるって言ってたのに、これじゃ僕の中の尊敬度は下がりっぱなしだ。
危険になったら本当に助けてくれるんでしょうね……。
ナイフを正面に構えた瞬間、猪が突っ込んでくる。その猪のスピードが僕が想像していたよりも遥かに早くて、僕は避けきれずに真正面から吹っ飛ばされた。