表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔王と◯◯シリーズ

こんな魔王は倒せない。

作者: 望月つき香

____こんな魔王、私に倒せるわけないじゃない。


現役高校生として、何の変哲もない日を過ごしていた私は、ある日突然、勇者として異世界に召喚されてしまった。

特に驚きがあったわけではなく、小説なんかでは、よく聞く話だなと冷静に判断するぐらいの余裕が私にはあった。

私を召喚した王国の人間たちは、魔王さえ倒せば、すぐに元の世界に返してくれると言った。

その態度がなんだか偉そうで上から目線だったため、イラッとしたのは、しょうがないだろう。

正直、面倒くさいと思ったが、魔王を倒さなきゃ元の世界に返してくれなさそうなので、しょうがなくであったが、魔王退治をすることにした。


王国が準備した人間と一緒に旅をして、目の前に立ち塞がる数々の魔物どもを倒した私は、勇者として召喚されただけあってそれなりに強くなった。私チートだわと思いながら旅を続けた。


そんな私たち、勇者御一行は魔王城に乗り込んで、魔物どもを蹴散らして、やっと魔王がいる奥の部屋までやってきたのだった。

そして現在、私の目の前に魔王いる。

私は確信してしまった。私には目の前にいる魔王が倒せないと。

思わず手に構えていた聖剣を落としてしまった。

がしゃんっ、という突然の音に魔王の部屋にいる全ての者が私を見た。

全ての者といっても魔王城にいた魔物はあらかた片付けてしまったので、ここに残っているのは、私たち勇者御一行の数人と数匹の魔物、それから魔王だけだったが。


「ゆ、勇者殿! ッち、血が、血が出ております!」


勇者御一行の一人が悲鳴に近い声を上げた。

はぁ? こいつは何を言うんだと思ったら、私の足元にポツリとポツリと何処からか赤い血が垂れて、魔王城の石畳みの床を染めた。

不意に鼻の近くに手をもっていくと大量の血で手が真っ赤に染まった。私は鼻血で、大量の血を流していた。


「勇者殿! いきなりどうなさられたのですか!?」

「魔法使い、神官。早く、回復魔法を勇者様に!」

「きっと、あの忌々しい魔王がやったんだろ、あんな奴、早く倒してしまおう」


勇者御一行がうるさく、ガヤガヤしている間、私は、ただただ、一心に魔王を見つめていた。

魔王も勇者であるお前になど負けるものかという風に睨み返してきた。


「勇者殿! 私があの魔王倒しましょう!」


しばらく、私と魔王の睨み合いが続いたが、勇者御一行Aが痺れを切らしたらしく魔王に斬りかかった。

カキーンッとともに火花が散る。

私は、勇者御一行Aの剣を咄嗟に床に落ちた剣を拾って受け止めた。


「勇者殿何をするのですか! 退いてください」


私には退けるわけなかった。


「誰が魔王に斬りかかれと言ったの? 私は頼んでないんだけど」


あからさまに不機嫌そうな低い声でそう聞くと、勇者御一行Aは狼狽えながら、必死に言い訳を述べた。


「勇者殿をお助けしたくて……。しかし、なぜ悪しき魔王を庇っておられるのですか! そいつは魔王ですよ!」


____「私、勇者辞めるから」


魔王の部屋は敵味方、双方ともにどういうことか理解できず、誰もが唖然とし、行動を止めたため沈黙に包まれた。魔王までもが意味が分からん一体どういう策略なのかと、注意深く私を見ていた。


「勇者殿、一体どうなさられたのですか!? 勇者を辞める? 貴女は我が王国が召喚した勇者なのですよ! 我が王国のために勇者としての仕事を早くこなしてください!」


やっと、私の言葉を理解してくれたのか勝手なことを大声でほざいてくれた。

だいぶカチンッときた。

勝手に召喚して、勇者、勇者って私、別に勇者なんかになりたくないんですけど。別に魔王にだって恨みないから倒す理由、私ないし。


私は、手に持っていた聖剣を捨てて、魔王のもとまでゆっくりと歩く。

魔王は、剣を構えて私を警戒した。

私は魔王の目の前まで来ると、床に膝まずいた。


「魔王様、私を魔王軍に入れてください。そして、私に貴方を愛でさせて下さい!」


魔王の部屋を再び沈黙が支配した。


「何を言っているんだ……?」


魔王は訳が分からんという感じで呟いた。

そこへ邪魔な奴も口を挟んでくる。


「勇者殿! ふ、ふざけないで下さい! 魔王を早く倒しなさい」


勝手な物言いについに怒りが爆発した。


「こんなかわいい魔王、私は倒せないんだよ! っていうかこんな子に寄ってたかって可哀想じゃない。見なさいよ、涙目になってる」


そう、魔王はとても可愛らしし男の子だった。

ふわふわして柔らかそうな金色の猫っ毛な髪、色白な肌、長いまつ毛がついている目元には勇者の言った通り、うっすらと涙が浮かんでいた。


「こんな、2.5次元美少年、私が放っておける訳無いじゃない! ってことでよろしく、魔王さま」


私は、そう言って隣にいた魔王に微笑みかけた。

魔王はまだ、訳が分からないという感じだったが、「よ、よろしく?」と困ったように上目づかいで微笑み返してくれた。

それを見て、止まりかけていた私の鼻血は再び、勢いよく吹き出したのだった。




それから、それほど時間がたたないうちにこの世界は魔王によって支配されました。

そこには、元勇者が一役かったとかかってないとか。

とにかく、魔王と元勇者は仲良く暮らしましたとさ。


おしまい。

感想が頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 おかわり欲しいです。
[一言] 最後のオチが…勇者()はショタ娘だったとわ
[一言] はじめまして、斜志野九星と申します。 タイトルから、魔王がチートすぎるのかなと思ったら、まさかのショタだったとは…… 意表を突いた展開がとても面白かったです。 あえて、指摘するとすれば、一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ