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Prototype:Evil  作者: 鎖 相一
第一章 機械仕掛の悪魔 -dEvil on Clockworks-
2/2

今日が始まる

カンカンカンカン!!!

「マロンさま!朝ですよ〜!!朝ごはん!アタシの!!」

「ぅん・・・うるさい・・・」

 作業に区切りがついたので寝ることが出来たのだが、これでも2時間しか寝ていない。まぁいい方か。コレを作るのには時間が掛かりそうだったから。

「こうやって叫んだりフライパン叩いたりするのもバッテリー食うんですよ〜!」

「ん・・・もうわかった!わかったから!今行く!」

 眠い目をこすって、カーテン一枚の仕切りをくぐる。アルが朝食をつくって待っていてくれる。アルは、なかなかあれで料理はイイ腕をしているのだ。


「で・・・なんでトースト1枚なの」

「ジャムも付いてますけド」

「そういう問題じゃないでしょ」

「だーかーらー 昨晩バッテリー交換してくれなかったデしょ〜!ヘトヘトなんですよ〜」

「ああ・・・ウン。忘れてた」

 昨日はどうしても作業を進めておきたかったのだ。

「まぁでも、このアルルーン、ゴハン作るのは忘れませんヨ。命の」

「恩人ですから、でしょ?」

「あ〜セリフ取らないでクださいよ〜」


 アルルーン、通称アルは初期型インターフェイスなので、色々とジェネレーションギャップ、というか欠陥が多い。バッテリーが取り外し式で、ウチには換えが2つしかなく、アル自身には交換できないのだ。

 アルとの出会いは2年前だ。ガレージに打ち捨てられていたのを私が拾ったのがハジマリなのだ。当時はココがゴミ集積所のような風貌に見えていたからだろう、それこそポンコツの状態で捨てられていたのだ。しかし幸い、AI部であるエモ・システムは生きていたし、なんとか直せる状態だったのでリペアしたところ、恩返しだなんだと言ってガレージに一緒に住むことになったのだ。付き合いが面倒だが、私の手の届かない事をやってくれるのは感謝している。

 アル自身はオートマータではなくインターフェイスだ。通常の姿はタブレット端末に脚が付いているようなものだが、私がアームを作ってやると、嬉々として装着して(いちいち「合体〜」と叫ぶのにはうんざりだが)いろいろ手伝ってくれる。アルの知識量だけは評価に値するのだ。

「もうおナカすいて朽ち果てますよォ〜はやくはやくはやく〜!!」

 もう一度言うが、付き合いが面倒だが。


 存外重いバッテリーを取り替えると、仕方なくトーストをかじった。

「完成しマしたか?オートマータ。」

「いーや。まぁ開発状況40%ってとこ」

「アレ?でも、この間見た時腕がない、ってくらいだったと思うんですけド」

 ため息ひとつ。

「ガワは出来てるのよ。問題はナカミ。残りの50%がそれだわ」

「あー、『エモ』でスね」

「そ」


 現代では高度なロボティクス技術により、あらゆるモノが機械化を超えた超ロボット化になっている。

 しかし、長い間ロボットに「人の魂」を宿すことは出来なかった。十数年前まではAIも相当なレベルまで発達していたが、それもただのヒトの作ったハリボテ、プログラムでしかなかったのだ。

 だがある時、ある研究チームがその「魂」の開発に成功した。それが「エモ」。エモーションクロックワークと名付けられたそれは、あらゆるシステムに使われることとなる。

 「エモ」の画期的だったところは、「適材適所」がある程度分かる、ということだ。エモは発色する、という特徴を持っているのだ。要するに魂の色である。それはほぼ極色で現れ、ある程度色だけで特徴分けされることが分かったのだ。

 「エモ」は、繊細な作業に重宝される。普通、工業製品とかのルーチンワークには使われない。余計な雑念が入るよりもただ効率が優先されるためだ。人とのコミュニケーションが求められたり、人的なセンスを利用したりする仕事が多い。

 アルもエモを持っている。彼女の色は「緑」だ。どちらかというと黄緑っぽいが。だが私は完璧な特徴分けではないのではないかと思っている。「緑」はたいてい穏やかで柔和だと言われているのだが。アレである。まぁ、血液型占いくらいの胡散臭さはあるんじゃないのかな。

 しかし、「エモ」に関しては一切がブラックボックスである。通常は、専門のショップで卸されるものを使用する。機械いじりが好きな私も、完全にこの部分はお手上げであった。わかりやすく言えば、器が出来ても入れ方がわからない、という感じだろうか。


「プログラム入れれば動くんじゃないんでスか?」

「それだとただのオートマータ。私が作りたいのは「『エモ・オートマータ』。でもどうしてもわからないのよね・・・コアの構造が」

「エモ売ってますヨね。中心街まで行けば」

「あのねー・・・。ウチが儲かってたら、それも考えるのよ。わかる?アンタの維持費だってバカにならないのよ」

「ハイスイマセン」

「急にロボット喋りになるなっ」


 ここ、アゼットジャンクガレージは、廃品回収、及びジャンクパーツの売買を生業としている。あとは家電製品とか、機械モノの修理などを引き受けている。私の一日といえば、ジャンクの品別け、パーツのチューンナップ、出張修理でほぼ終わってしまう。本当はオートマータなんて作っている暇はないのだが。

 それに「エモ」は半端じゃなく高い。アルを拾えたのも奇跡とも言えるだろう。普通、こんな高価なものを捨てたりしない。元の持ち主がよっぽど知識がなかったのか、それとも余程の金持ちなのか・・・。アルには元の持ち主の記憶が無いようで、彼女から聞き出す事は出来なかった。アルには、勝手に命の恩人に認定されている。


「で、今日の予定は?」

「本日10月23日は、午前中の約束で、マルタ氏に工業用アームの納品デス。それと」

 何故か一呼吸置いた。

「マロンサマのお誕生日でス!!」

 コンソールにクラッカーが映ると、パン!という音とともに”Happy Birthday!!”の文字。

「あ〜・・・よく覚えてたわね」

「そりゃあもう、マロンサマのことはなーんでも!スリーサイズも聞かれればお答えできますヨっ!」

「アンタね・・・口外したらスクラップにするわよ」

「ワァー!ご勘弁ヲ〜」


 こうして、私の一日は始まった。でも、今日はただの誕生日じゃなかった。あんなことが起きるとは、思いもしなかったのだから。

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