96:立ちはだかる壁(実物)
迷路の途中にあった扉は特に仕掛けなどがあるわけでなはく、ノブを回したら普通に開いた。
けど、その先に合ったのは普通のものじゃなかった。
「なにこれ、壁?」
そこは1つの大きな部屋になっていて、出口っぽい扉が反対側の壁に見える。
ただし10mくらい上に。
扉と扉を隔てるように、間に垂直にそびえ立つやたら凹凸のある坂がある。
「なんていうんだっけこれ。フリークライミング?」
室内で壁を登る競技があったような。
「ボルダリングっていうのよぉ」
ここにきて久々のリリスの登場である。
「若い子達の間で流行りつつあるみたいなのよぉ。ナウイでしょぉ?」
その言葉遣いがもうナウくない。
「りりす様、今時ノ子ハなういハ使イマセン。セメテなうデス」
いや、それもどうよ。
「あら、そうなのぉ? ナウでしょぉ?」
しかも間違ってる。
「其レデハ使イ方トシテ正シクアリマセン」
「えっ? えぇと……へぇ……ふぅん」
イデアが教えているのか、マイクの向こうからリリスの相槌が聞こえてくる。
いまやることじゃないよね、それ。
そうして数分が経過した。
「もう無視して登り始めてもいいのかな」
とりあえずここを進むので間違いはないと思う。
ここまで全ての分岐を間違えてきたのだ。
だからこそ他に道がないことは自信を持って言い切れる。
「なんて嫌な自信だよ」
自分で考えて自分でツッコミを入れた。
そうでもしてテンション上げていかないと道を全部間違えた過去に膝を折りそうだったから。
「こういうのってコース取りとかあるんだろうけど、よく分かんないし適当に登るかぁ」
下でウダウダしてても仕方ないので、踏ん切りをつけて登り始める。
「よっ」
「あぁん、もう登り始めてるじゃなぁい。イデア、もういいわぁ」
こっちがアクションを起こしたことでリリスの目が再び向いたらしい。
まさか本当に今までイデアにレッスンを受けていたのか。
もしかしてリリスって見た目以上に年上なんだろうか。
そういえば狐々乃月ががリリスをBBA扱いしてたな。
でも狐々乃月って確か300歳以上……え、まさか。
「なにか失礼なこと考えてなぁい?」
「いぃぃや! なにも! 考えてないよ?」
ズバリ考えていただけに焦りがモロに口に出てしまった。
「あらぁ? 何を考えていたのかしらぁ?」
声がスッと冷たくなる。
「いや、な、何も考えてないヨー」
「モノ凄ク棒読ミデスネ」
棒台詞のやつに棒読みって言われてしまった。
「ほんとに何も考えてないって」
「ほんとにぃ?」
「ほんとほんと」
嘘だけど。
「そぉ? ならいいけどぉ」
ふぅ、助かった。
「いまあからさまにほっとしなかったぁ?」
「うぇえ!? してない、してないよ!」
なんでそんなとこまで見てんのさ!
「あやしぃわねぇ」
「こ、こんなに素直な男を捕まえて怪しいなんて、何を言ってるのさ」
乾いた笑いがこぼれた。
「ふぅん」
「ハハ……ハ」
なにこの妙なプレッシャー。
変な汗かいてきたんだけど。
「まぁいいわぁ。無駄なことに割いてる時間がもったいないものぉ」
よかった、と思いつつも反省を生かして表情を必死でキープする。
「それでぇ、このボルダリング用の壁なんだけどねぇ」
よし、今回は上手く流せたみたいだ。




