89:共犯者たち
「さぁて、診察も済んだしぃ、ご飯もないみだいだからぁ、もう戻るわねぇ」
答えることは答えたと、リリスは椅子から立ち上がり足早に出て行く。
「うん、じゃあまた明日。おやすみ」
「はぁい、それじゃあねぇ」
そしてそれを追うようにアリシアも扉へと歩き出した。
「では、私も失礼いたします。もうそれなりに遅い時間ですので、御主人様もお休みになられたほうがよいかと。おやすみなさいませ」
「それならウチも戻ろうかな。おやすみー」
狐々乃月も賛同して退室していった。
「2人ともおやすみ。また明日ね」
「はい、また明日の朝食の時間にお伺いいたします」
4人が一斉に出て行き扉が閉められると、さきほどまでとは打って変わって部屋の中が静かになった。
ずっと人の声や気配があったのに、急にそれがなくなるとやたら寂しく感じる。
「まぁまた明日会えるしね」
気を取り直して枕元にあった読みかけの本を手に取って広げた。
「ちょっと本でも読んで落ち着いてから寝ようかな」
晩ご飯食べたばっかりでまだお腹もこなれてないしね。
静まり返った室内で、カサリと本をめくる音だけが耳に届いた。
* * * * * * * * * *
扉1枚を隔てた向こう、そこでアリシアが殺意すらこめられてそうな目つきでリリスを睨んでいた。
しかし、その目にはたっぷりと涙が溜まっていた。
「あらぁ、そんなに睨まないでちょおだいなぁ。事前に決めてあったことでしょう?」
「それは……そうですが!」
それでも納得いかない目でアリシアはリリスを睨み続ける。
「ならぁ、落ち着いてねぇ」
「そんなんアリシアに出来ひんの分かってるやろ」
「あらぁ?」
「理由はどうあれ、アイツを騙すような真似はアリシアには我慢出来ることちゃう。むしろ、さっきアイツの目の前で平静を保ってたほうを褒めたいくらいやわ」
「まぁねぇ」
「ウチらも共犯者や。けど、主犯はアンタや。睨まれるくらい我慢し。アリシアの我慢に比べたら大したことないんやし」
「そう言われるとぉ、こちらも返す言葉がないわねぇ」
「アリシアも、仕方ないことやって割り切らんと、これからやっていけへんで」
「……うん、ごめんねココノツ」
「ええよ。もし口に出したい弱音とか愚痴とかあるならウチなら聞くし、溜め込まんようにしーや」
「でも、ココノツだって平気ってわけじゃないでしょ?」
「気にせんでいい。見た目は幼女でも、中身は大人やからな」
「うん、ありがとね」
溜まっていた涙が溢れて頬を伝い、落ちた。
それでも微笑もうとするアリシアの頭を狐々乃月はそっと撫でる。
「そうやってるとぉ、見た目のせいでほんとちぐはぐねぇ」
「ちゃかさんといてくれるか。それに見た目とちぐはぐなんはアンタもやろ」
「あらあらぁ、また言い返せなくなっちゃったわねぇ」
「はっ、ホンマ虫の好かんやつや」
「んー、これ以上ここにいたら苛められそうだしぃ、行くわねぇ」
「さっさと行ってまい」
しっしと手で追い払う。
「はいはぁい。じゃあ、おやすみなさいねぇ」
リリスは返事を待つことなく、踵を返して歩き去っていった。
その背中を睨むことなく、むしろ憐れんだ表情で狐々乃月は見送った。
「はぁ、なんかココノツに迷惑かけてばっかりだね」
「だから気にせんでいいって。ウチはアリシアのそういうところも好きやからな」
「うん、私もココノツのこと好きだよ」
「そうやって面と向かって好き言われると照れるわ」
「ふふ、ココノツが先に言ったくせに」
「自分で言うのと、他人に言われんのはまた別やん」
アリシアは楽しそうに笑うと、持たれかかるように狐々乃月に抱きついた。
「今日は一緒に寝よっか」
「また? まぁええけど」
狐々乃月は苦笑いしながらも、少し嬉しそうに了承すると抱きつかれたまま部屋へと歩き出した。




