88:回復力のメカニズム
「ふぅん、具体的にはぁ?」
「うーん、殴られて出来た痣が10秒と経たないで消えたり、火傷も同じようにすぐ治ったりかな」
「切り傷はぁ?」
「それはまだ分からない。これに気付いてから今までに切ったりしてないし」
「試すわけにもいかないし?」
「うん、さすがに進んで切り傷は作りたくないかなぁ」
「なるほどねぇ」
「それで、この事について何か分からないかな?」
「それは、もう誰かに相談したのかしらぁ?」
「さっき狐々乃月には聞いたけど、よく分からないからリリスに聞いたらいいんじゃないかって」
「ウチじゃ判断つかんことも多いしな。もし勝手に答えて、超回復力の代償にとんでもないもん失ってもうたら取り返しつかへんくなるし」
「そういうわけで、リリスに聞いてみたんだ」
「そぉねぇ」
リリスは唇に指を当てたまま記憶を探すように視線を彷徨わせ始めた。
さすがに邪魔するといけないと思ったのか、全員が黙り込む。
リリスの答えを待つ時間が妙に長く感じる。
おそらくまだ数分も経ってないんだろうけど、妙に思い空気のせいで感覚が狂う。
「私も断言出来るわけじゃないんだけどぉ」
「うん」
「貴方は確かに超常的な回復力の持ち主よぉ。それは記憶を喪う以前からのことだものぉ」
「っ!」
昔の自分の話が出たことで心臓が大きく跳ねた。
思わなかったことではないけど、いざ面と向かって断言されるとやはり動揺する。
「貴方はぁ、普通なら死ぬほどの怪我を負ってこの病院にやってきたのぉ。でもぉ、その能力のおかげで一命を取り留めてぇ、こうして目を覚ましたのよぉ。記憶を喪ったのはぁ、怪我の後遺症みたいなものねぇ」
「そう……だったのか」
「ちなみぃ、寝たきりだった貴方が目を覚ましてすぐに行動できるだけの筋力があったのもぉ、その能力の副産物みたいなものねぇ。もちろん私のほうでも筋力維持のための医学的処置は行ったけどねぇ」
疑問が一気に氷解したかのような説明内容だった。
むしろなんでもっと早く教えてくれなかったんだと思うくらいだ。
「それはぁ、前にも言ったけどぉ、記憶を喪った貴方に一気に説明して負担をかけたくなかったからよぉ」
「えっ?」
「あらぁ、心なんて読んでないわよぉ。だってぇ、顔に書いてあるんだものぉ」
「えぇ!?」
反射的に顔を手で隠してしまう。
まぁ普通に考えれば、感心と不満が表情として出てたってことなんだけど、びっくりしてたのでついやってしまったのだ。
「それにねぇ、目を覚ましていきなり全部説明したらぁ、それは他人の物語を読むような気分になっちゃうと思うのよねぇ。自分で疑問に感じてぇ、自分で考えてぇ、それで自分を紐解いていく。そうすることがぁ、貴方が1番自分のことに納得出来ると思うのよぉ」
思った以上に考えられた行動を聞かされて、喉に引っかかっていた文句とか愚痴が引っ込む。
そんなことを言われて言い返してしまっては、こっちが聞き分けのない子どもみたいじゃないか。
「分かってくれたかしらぁ?」
「うん、よく分かった」
「よしよし、いい子は好きよぉ。それでぇ、最初の質問に戻るんだけどぉ」
最初の質問?
「貴方の回復力の正体は驚異的な再生力よぉ。細胞が傷ついたり死んだりした傍から分裂して欠損した分を補填するのぉ。代償といえばぁ、その分お腹減ることかしらねぇ。無から再生してるわけじゃないからぁ、いっぱい栄養を必要とするのよねぇ」
それくらいの代償ならあんまり気をつける必要はないかな。
「だからってぇ、あんまりその回復力に頼らないことねぇ。栄養が足りないなら回復しないしぃ、腕や足が生えてくるわけでもないわぁ。もちろん回復する間もないほどに即死級の致命傷を負えば死ぬわよぉ」
「うっ」
またしても心を読まれたかの言われようにギクリとしてしまう。
同時に楽観的になりそうだった思考がしっかりと締められた。
「ふぅ。こんなところでいいかしらぁ?」
「うん、ありがとう。かなり助かったよ」
というか思った以上に詳しく聞けた。
狐々乃月が言ったリリスの博識ぶりが証明された。




