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Hollow cathedral  作者: 林檎亭
第1章 目覚め
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81:押してダメなら更に押せ

 狐々乃月に怒られた後は大人しく3人で本を読んで過ごしていたのだけれど、途中でふいにアリシアが顔を上げた。


「どうかしたの?」


「はい。そろそろ夕食の準備の時間ですので、私は1度失礼しますね」


「え、もう? 早くない?」


「自分では気付いてへんかもしれんけど、アンタかなり長い時間ウチの耳触ってたからな」


「そうだっけ?」


「そうですね。少なくとも1時間以上は触っていたでしょう」


「そんなになんだ……」


 自分ではたかだか5分くらいだと思ってたんだけど、まさかそれの10倍以上とは。

 狐々乃月の耳(と尻尾)は人を駄目にするな。


「読書を始めてからもそれなりの時間が経過してますので、もう外は夕方くらいではないでしょうか」


「夕方……そういえばこの部屋時計ないよね。時間分かるの?」


 というか、時計をこの病院内でみたことがない気がする。

 それはありなのだろうか。


「時計は確かリリスが持っていましたが、それ以外は見たことないですね。私は体内時計に自信があるので問題ありませんが」


「体内時計って、ズレたりしないの?」


「たまにリリスに時間を確認してますが、今のところ大したズレはないですね」


「そうなんだ」


 凄いな。時計並みに正確な体内時計って聞いたことないよ。


「狐々乃月も時間分かるの?」


「ウチはそのへんサッパリやな。5分も計れへんよ」


「だよね、普通そんなもんだよね」


「そうやな。アリシアは特別やろな。個人の特技と呼んでいいものかは別やけど」


「変な言い方するね」


「そ? 気にしんとき」


 うーん、また何か隠されてるような気がする。


「そういうことですので、しばらく離れています。しかしお呼びいただければすぐに駆けつけますので、何かあれば遠慮なくお呼び下さい」


「うん、分かった。けど出来るだけ呼ばないようにはするよ」


「はい、かしこまりました」


 アリシアは最後に一礼すると、綺麗な動作で部屋を出て行った。


「行った、かな?」


 そろっと扉に近付いて外を窺ってみるが、すでにアリシアの姿はなかった。

 速過ぎるだろ。


「なんや自分、そんなこそこそして」


 よっぽど挙動が怪しかったんだろう、狐々乃月が訝しげな目つきで聞いてきた。


「うん、ちょっと狐々乃月と2人きりになりたくて」


「はあ!?」


 何故か狐々乃月の顔が真っ赤になった。


「どうしても確かめたいことがあって。でも、アリシアがいるとちょっとね」


 そう言いながら、シャツのボタンを外していく。


「なななな、何してんねん自分! アカン、アカンで。ウチはっまだそんなっ」


 狐々乃月がやたら挙動不審な動きをしている。

 なにしてるんだろ?

 とりあえずシャツを脱いで上半身裸になる。


「よく、見て欲しいんだ」


 ベッドに座る狐々乃月に近付いていく。


「み、見てって言われても! いきなりはちょっと」


「駄目かな?」


「だっ、駄目っていうわけちゃうけど……やっぱこーゆうんは段階踏んで……それに雰囲気とか……」


 狐々乃月は何を言っているんだろう?

 段階とか雰囲気?

 まぁとりあえず嫌そうではないから、一押ししたらいけそうかな。


「お願いだから、見てほしいんだ」


「お願いされても、でも、やっぱウチとしてはまずちゃんと言葉で表して欲しいし……」


 なんか会話噛み合ってない気がする。


「た、確かにウチも興味はあるし……でもいきなりいうんは……心の準備が」


 もはやもごもごしていて何を言っているかも分からなくなってきた。

 全然こっちを見てくれようともしないし。

 うーん、じれったいな。ちょっと強めに言ってみようか。


「いいから、見てくれないか」


「ふぇっ」


 狐々乃月の頭から湯気が見える気がするけど、構わず切り出す。


「痣がないかどうか」


「へ、痣?」


「うん、今日イデアと格闘の訓練をしてその時に散々投げ飛ばされたんだけど、何処にも痣らしきものがないんだ。何十回も地面に叩きつけられたのに、1つも痣がないなんておかしいと思わない?」


「……(ぱくぱく)」


 狐々乃月は顔を赤くしたまま金魚のように口を開けっぱなしにしている。

 やっぱり彼女もおかしいと思ってるのか。


「これについて聞きたいんだけど……って狐々乃月?」


 いつの間にか、狐々乃月の表情に怒りが満ちてきているような。


「こ、狐々乃月?」


 おそるおそる声を掛けると、彼女は震えた声で言った。


「痣?」


「う、うん、あざ」


 今度は身体全体がぷるぷる震えている。


「ま……」


「ま?」


「紛らわしいんじゃボケェー!」


 繰り出された拳は見事顎に入り、衝撃は脳天をつきぬけ、上半身裸のまま地面に倒れた。

 そして顎にはくっきりと痣が出来ていた。

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