79:お山と原っぱ
スイマセン、ちゃんと女性版もあります。
色気のある内容ではないですが。
「アリシア、何してんの?」
彼を見送った後、微動だにしない友人を不思議に思った狐々乃月が声をかけた。
「えぇ、ちょっとすることが……もういいかな」
何か間を計っていたのか、アリシアは男湯の扉横についているコンソールを操作し始めた。
「あぁ、他のやつが入らへんようにか?」
「うん、いまの御主人様をみんなに会わせる訳にはいかないから」
「確かにな」
狐々乃月は納得して頷くと女風呂の扉を開けて中に入って行き、アリシアもすぐに操作を終えてその後を追った。
玄関で何十にも紐を結んだブーツを脱いでいるアリシアに狐々乃月が声を掛ける。
「リリスの言う事を聞くみたいになるんは嫌やけど、会わせる人間を選別するのはウチも賛成やからな」
「そうね。特にネーレイには絶対会わせられないわ」
「あん子はウチも反対や。なんなら一生会わせたないわ。あとはヴォルフやエリザもかなり怪しいやろな」
「ええ。少しでも御主人様に危害が及ぶ可能性があるのなら、私は断固として会うのを拒否するわ」
それには狐々乃月も同意らしく、強く頷いた。
実際、彼女たちの言うとおり――引いては前日にリリスが言ったとおり――会うなりすぐに彼に危害を加えかねない者はいる。
いま名前が挙がった面々はその可能性が非常に高い者達だ。
「まぁ言うてもリリスが管理してんのやったら大丈夫やろ」
「うん、あの女は嫌いだけど、そういった所は忌々しいほどに信用できるもんね」
嫌い、ねぇと狐々乃月は顔を伏せて苦笑いを浮かべる。
アリシアが口で言うほどリリスを嫌っていないのは彼女と仲が良い者達の間では常識だ。
「ま、そんな話はもうええやん。とりあえず風呂入ろーや」
表情を切り替えて顔を上げた狐々乃月は、手早く服を脱いでいく。
見た目は幼女でも、そこはさすがに300歳。
可愛らしい脱ぎ様などなにもない。
あっと言う間にすっぽんぽんだ。
服も脱ぎ散らかすことなく、綺麗に畳んで籠に入れてある。
一方アリシアは、メイド服がよっぽど脱ぎづらいのだろう。手間取っているわけではないのだが、時間が掛かっている。
「相変わらず仰々しいというか、めんどい服やなぁ。もっと動きやすい服にいたらええのに。特にドロワーズなんてやめーや」
「うん、でもやっぱり勇気でないの。ココノツみたいに綺麗な肌だったらいいんだけど」
「そーか、ウチは気にしすぎやと思うけどなぁ。でもこれはアリシアがどう思うかやからな。同じものを持たんウチじゃ何言っても説得力ないしな」
「そんなことないよ、有難う」
柔らかく微笑むアリシアの顔を直視できず、狐々乃月が顔を背ける。
アリシアは自己評価が非常に低いのだが、狐々乃月はよく思っていた。
この笑顔の破壊力を知らぬは本人ばかり、そんでそれがたまに不意打ちで来るんがタチ悪い、と。
視線を彷徨わせた狐々乃月は服を脱ぎきったアリシアの一部を見て、誤魔化すように妬みの言葉をぶつけた。
「ウチからしたら、その胸のほうがよっぽどせこいけどな」
アリシアの胸部には厚すぎる装甲が備わっていた。
胸部の凹凸がぽっち2つのみという狐々乃月からすれば羨ましい以外の言葉が出ない代物だ。
「うーん、御主人様の好みがどうかによるのよね。貧乳派なら本当にそぎ落とそうかと思うもの」
「怖いわ!」
「私からすればココノツみたいに綺麗な肌のほうが羨ましいけどな」
「肌ばっか綺麗でもなぁ、女として大事なもん足りてへんからなぁ」
「ふふ、お互いないものねだりになっちゃうね」
「はは、そうやな」
笑いあう2人の間にほのぼのとした空気が流れる。
「ちゅーか、いつまでも裸で喋ってたら風邪引いてまうわ。早よ入ろーや」
「そうね、そうしよう」
2人は浴場に入ると気持ちを切り替えて、また万が一隣の浴場にいる彼に妙な話を聞かれないよう努めてただの雑談を交わしながら、お風呂での時間を過ごした。
しかしそこはやはり女性というべきか、彼と彼女達が合流したのはこれから90分後、彼が40分ほど待ちぼうけを食らった後だった。




