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Hollow cathedral  作者: 林檎亭
第1章 目覚め
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78:入浴シーン

 さすがにそれぞれの部屋にお風呂はないらしい。

 病院なんだから当たり前だ。

 むしろお風呂があること自体がおかしいのだけれど。

 部屋を出て右、トイレや狐々乃月の部屋とは逆方向――つまりイデアの部屋の方向へと歩き出す。


「お風呂ってどんなの? シャワーだけとかだったり?」


「いいえ、ちゃんと湯船もありますよ。そうですね、小さめの銭湯と言えばイメージがしやすいかもしれません」


「そうやな。そんな感じやわ」


「へぇ、それは楽しみだなぁ」


 やはり日本人なんだろう。

 湯船に浸かれるというだけでテンションが上がってくる。

 けれど、大量のお湯をイメージしたことで不安が1つ芽生えた。


「あ、でも急に入ることになって、お湯張ってあるの?」


「ええ大丈夫ですよ。夜中を除けばお湯はずっと貯めてありますから」


「へぇ、そうなんだ。結構コストかかりそうだけど、そんなに利用者いるの?」


「入院している方は多くないとはいえ、それなりの人数がいますから。割とひっきりなしに誰か入ってますね。幸い、いまは誰も入っていませんが」


「え、いつの間に確認してきたの?」


「各部屋にお風呂の使用状況を知らせてくれる機器が設置してありますので。利用者がいるかどうかしか分かりませんが、少なくともいまは誰も使ってないようです。1人でのんびり入りたい場合は入室禁止にも出来ます」


「そんなものがあるんだ? 全然気が付かなかったな」


「では、お風呂から上がったらお教えいたしますね」


「うん、よろしく」


 まだまだ分からないことが多いな。

 というか、あの部屋が多機能過ぎるんだとは思う。

 普通、病室にあんな飛び出す家具みたいな仕掛けはないだろう。


「ほら、着いたで」


「あ、随分と近いね」


 ここからだと自分の部屋の扉が見える。

 こんな近いところにあったのか。

 イデアの部屋はここからさらに倍くらい歩いたところにあったはず。


「御主人様、どうぞこちらが入浴セットです。一通りは揃えていますが、もし不足があれば大声でお呼び下さい。普通の声ですと聞こえませんが、大声ならば女湯にも声が届きますので」


「え、そうなの!?」


 もしかして、本当の銭湯みたいに天井付近が繋がってる構造なのだろうか。


「じゃあ行こか。また後でな」


「え、あぁ、うん。またね」


「はい、いってらっしゃいませ御主人様」


 いってらっしゃいませはちょっと違うような気がしつつも、扉を開けて中に入る。

 まず玄関スペースがあり、奥への仕切りとしてのれんがかかっている。

 その先には衝立があり、のれんと合わせて外から中が見えないような構造になっていた。

 そして中ほどまで進むと脱衣所が待っていた。

 10人くらいまでなら同時に着替えを行えそうなくらいには広い。

 ここまでは銭湯としてはごく常識的な造りだ。

 正直、リリスの病院のお風呂という事で変な仕掛けがないかなんて思ってたのだけれど、杞憂に終わりそうだ。

 脱いだ服を簡単に畳んで脱衣籠に放り込み、アリシアの用意してくれた入浴セットを――もちろん着替えは別だ――脇に抱え、浴場へと入っていく。


「おお!」


 磨りガラス製の引き戸を開けると、そこにはまさに文字通りの銭湯があった。

 20ほどのシャワー付き洗面台に、奥には泳げそうな浴槽。

 アリシアは小さめの銭湯といっていたが、これは十分に広いと思う。

 やばい、テンションがさらに上がってきた。

 いや、落ち着け、慌てるな。

 まずは掛け湯からだ。

 そう、いきなり湯船に飛び込むなんて常識知らずな真似は出来ない。

 湯船近くの洗面台に腰を下ろして、備え付けの洗面器にお湯を入れて頭から被る。


「ぷあーっ」


 なんだこれめっちゃ気持ちいい。

 ほぼ1年寝たきりだったからか。

 さっき運動して汗をかいたからか。

 どっちにしろお湯を被るとそれだけで目が覚めたような気持ちよさがあった。


「んー、どうせだし先に身体洗うか」


 掛け湯さえすれば入ってもいいとは思うけど、座ってしまったからにはついでに洗ってしまった方がいいだろう。

 あんまり立ったり座ったりは繰り返したくはない。

 ソープやシャンプーなんかはアリシアの入浴セットに同梱されていたので、それらでせっせと身を清めていく。

 記憶を喪っているとは言っても、身体の洗い方くらいはちゃんと覚えているようだ。

 苦もなく体を洗い終えると、次はついに湯船に浸かる番だ。

 どうする。思いっきり飛び込むか、それともゆっくり浸かるか。

 うん、やはりここはマナーを守ってゆっくりだろう。

 他に利用者はいないとはいえ、マナーに背く行動には抵抗がある。


「お湯は……うん、ちょうどいい湯加減だな」


 ちょっと熱めだけど、個人的にはそれがいい。


「くっ……ん……うあー」


 足先から入れて、ゆっくりと腰を下ろし、肩までしっかり沈み込む。


「あー……」


 凄い気持ちいい。それ以外考えられないくらい気持ちいい。

 さっきイデアに投げに投げられ、殴りに殴られの痛みと疲労がお湯に溶けて消えていくみたいだ。


「手加減……はしてくれたんだろうけど、容赦なかったもんなぁ。痣とかになってんじゃ」


 自分の身体をあちこち見回してみる。

 もしかしたら全身痣だらけなんじゃないかとすら思う。

 それくらいボコボコにされたのだ。

 けれど、


「あれ?」


 不思議なことに、


「ない?」


 身体の何処にも痣どころか、痛む箇所すらなかった。

アリシアたちの入浴シーンがくると思った?

残念、野郎の入浴シーンでした!

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