77:お風呂はランチのあとで
「アンタなんか汗臭くない?」
そう狐々乃月が指摘したのは、食事も片付けも終わって一服していたときのことだ。
「え、本当に?」
自分の体の匂いを嗅いでみるも、よく分からない。
自分の匂いなんて自分では分からないものだ。ましてや、運動したあとに汗を拭いて着替えていたら余計に。
「アリシア分かる?」
「私には御主人様の香りは全てアロマのようなものですので、汗臭いとは感じませんでした」
「何言ってんの?」
聞く人を間違えた。
改めて狐々乃月を見ると、憐れむような目つきで頷かれた。
「ウチは鼻効くほうやしな。なんや運動でもしたんか?」
「うん、さっきちょっとね」
イデアに散々投げ飛ばされました、とは恥ずかしくて言えなかった。
「そーか。まぁ言うても臭うっちゅーほどちゃうから気にせんでええと思うけど」
「でもさすがに汗の臭いがするって言われたら気になるんだけど」
「確かにそうやな」
どうしたものか。またアリシアに濡れタオルでも用意してもらおうか、そう考えたとき、
「では、お風呂に行きましょう!」
アリシアが声高に提案した。
「え、お風呂とかあるの?」
「そらあるわ。アンタ入ったことなかった……そういえばまだ目ぇ覚めて2日目やっけ。なんやもっと時間経ってるような気ぃしてたわ。具体的には1ヶ月くらい」
「なんで1ヶ月?」
「さあ? ウチも分からんけど、初登場からそれくらい経ってる気がしてん」
ふーむ、謎だ。
まぁそれはいいとして。
「お風呂あるなら入りたいな。確かに汗はかいたから流したいし」
「かしこまりました。では、ご用意いたしますのでお茶を飲みつつ暫しお待ち下さい」
「うん、分かった」
「風呂か、ウチもついでやし入ろかな」
「えっ?」
まさか一緒に!?
「なんやのその反応? あ、ちゃうで! 風呂は別やしな! 何考えとんねん! まだ早いわ!」
「え、早い?」
「だーっ、うっさい! とりあえず、ウチも入るねん! それで終わりや!」
「あー、うん」
なんか凄い剣幕で怒られてしまった。
軽い冗談のつもりだったのに。
「ではココノツの着替えも用意しましょう」
アリシアはそう言いながらもテキパキと用意を進めていく。
口調はのんびりなのに、身体はすばやく動いてるって凄い違和感あるな。
「さあ準備は完了です。参りましょう」
「って、速っ」
のんびりお茶を飲んでる暇もなかった。
「自分、ウチとコイツの分しか用意してへんやん」
「え、御主人様とココノツが入るんでしょう?」
「何言うてんねん。アリシアも入るに決まってるやん」
「いえいえいえ、私はいいです。遠慮しておきます」
「なんでやな。たまには一緒に入ろーや」
「しかし、私はメイドですから」
「いや、いいんじゃないかな。2人で一緒に入りなよ。こっちはさすがに1人で入るから」
と言うかもしかしてこっちに入ってくるつもりだったんだろうか。
それは困る。色んな意味で困る。
これは是非とも女性2人で入ってもらわねば。
2人からの同時攻撃の効果か、
「御主人様がそう仰られるのであれば……」
アリシアが渋々ながらに了承の返事をした。
「んじゃ決まりやな。風呂いこかー」
「おー」
「分かりました」
こうして3人は一路、お風呂を目指すのであった。




