76:広げると中から温かくてとろとろしたものが(以下自重
「これは、好きなようにソースをかければいいのかな?」
「その前に、上に乗ってる卵の真ん中にスプーンで切れ目を入れてくださいっ」
オムライスと別容器に入っているトマトソースを見ながら聞いてみると、アリシアが待ってましたと言わんばかりに答えた。
言われるがままに卵の真ん中に上から下までスプーンで切ってみると、表面が割れて中からとろとろ状態の卵が――
「くぱぁ」
「おい止めろ」
せっかく感動しかけたのに、作った本人に邪魔をされてしまった。
「申し訳御座いません、つい」
ついでそんな言葉が出るとか怖い。
「くぱぁって何やの?」
そして意味を知らない純真な幼女(300歳)。
「くぱぁって言うのは――」
「説明しなくていいから!」
幼女になんてこと教えようとしてんだアンタ。
いや、実年齢的にはBBAだけども。
「いいから食べよう! ほら、冷めるよ」
「そやったそやった。早よ食べなな」
大して知りたかったわけではないのだろう、狐々乃月はいとも簡単に食事へと興味を戻した。
アリシアもさすがに自分の作った食事が冷めるのは嫌だったのか、それ以上の余計な言動は控えて給仕に集中するようになった。
見た目だけじゃなく、オムライスは実際にかなり美味しく、スプーンが止まらなくなるほどだった。朝食同様、奇抜な仕掛けや味はないけど、その分それぞれの味がしっかりとしていて文句なしの美味しさに仕上がっていた。
アリシアは顔は可愛いしスタイルはいいし料理は美味しいし気は利くし顔は可愛いし、本当にスペック高いな。
まぁそれを十二分に霞めてしまうほど難のある性格してるから、プラマイゼロ……下手したらマイナス突っ切ってるけど。
いわゆる残念な美少女だ。
いや、性格も基本的にはいいんだけどね。
でも、性格がいいと言い切るには厳しいというか、癖があるというか。
彼女を見ているひとなら、言いたいことが分かってくれる筈。
「難しい顔をしていらっしゃいますが、どうかなさいましたか?」
「え? いや、なんでもないよ」
「そうですか? もしお口に合わないものがあるようでしたら、遠慮なく仰ってくださいね」
「うん、分かった。でも、アリシアのご飯はどれも美味しいから大丈夫だよ」
「そう言って頂けると嬉しいです。しかし、どんな味にもやはり好みというものは存在しますから、気にせずに仰って下さい。御主人様はお優しいですから言いにくいでしょうけど、そういう事は言っていただいたほうがこちらも助かりますので」
「そっか、確かに一理あるね。長い目で見ればその方がいいよね」
「長い目……ずっと……一生……プロポーズ!?」
「すっごい飛躍した!」
「それはつまり『お前の味噌汁を毎日食べたい』というのと同じ意味のプロポーズですね!」
「言ってない! 言ってないよ! 思考のジャンプ高すぎるよ、もっと抑えて!」
屋内だと天井に頭ぶつけてるレベル。
「はっ、もしやさっきのオムライスでのくぱぁと掛けて、お前を毎日食べたいというメッセージ?」
「そんな、隠されたメッセージに気付いてしまった! みたいな驚愕の表情いらないから! そんな意図ないから!」
そんな暗号出てきたら名探偵も帰るわ。
「そうですか、残念です。御主人様、意味深な言葉で女性を惑わすなんていけませんよ。私でなかったら刺されているところです」
「なんて物騒な世の中だよ」
そのうち男が絶滅してしまいかねない。
にしても、考えた傍からアリシアの残念なところが見えてしまった。
本当にこれがなければ完璧なのになぁ。
まぁ完璧すぎると可愛げないから、これくらい欠点があったほうが……いい、のかなぁ?




