75:お腹と背中がくっつくぞ
扉を出て記憶を頼りに真っ直ぐ進んでいくと――と言っても一本道なんだけど――覚えのある標識が目の端に映った。
「トイレがあるってことは、この手前の扉かな?」
一応ノックをして、反応を確かめてみる。
自分の部屋ならなにもないはず。部屋の主がいないんだし。
なんて思ってたら、いきおいよく扉が開いた。
「御主人様!?」
「うぉ、アリシ――ぐはっ」
「あぁ御主人様、一体どこにいらしたのですか!」
「痛い痛い痛い! 絞まってる絞まってるから!」
扉を開けたら美少女に抱きつかれました。
普通なら歓迎したいこの出来事、しかし馬鹿力のアリシアにされると、どっちかっていうとタックルの上に締め上げられてるみたいな気分になる。
もちろん豊満な2つのマシュマロも押し付けられてはいるのだけど、痛いのと苦しいので全然感触を楽しんでいられない。
「お部屋にもいらっしゃらないし、ココノツやイデアに聞いても知らないと言うし」
「ちょ、説明するから離して、お願い!」
「しかし、この手を離したらどこかに行ってしまわれそうで」
「行かない! 行かないから! むしろこのままだと逝っちゃいそう」
「約束して下さいますか?」
「約束するから離し――あ、いま背骨がミシっていった! ほら、指切りしよう! 約束の証に!」
「そんな指切りなんて、私ごときにもったいない」
「いや、いいから。離して! うん、指切りはやめよう、普通に約束しよう。ここにいるから! だから助けてー」
そんな助けを求める叫びが天に届いたのか、
「何やってんねんな、自分ら」
呆れた顔をした幼女が登場した。
「あら、ココノツ」
「いまだ!」
狐々乃月の登場に気を取られた隙をついて、何とかアリシアの腕を振りほどいて脱出に成功した。
危ない。もう少しで大事なものが折れちゃうところだった。
「ありがとう狐々乃月。おかげで助かったよ。君は命の恩人だ」
「命の恩人て大げさな」
いや、本当だから。
あと一歩でお空に旅立つところだったから。
でも、死んだら肉体的には地面の下いくよね。
じゃあ、地の底に旅立つところのほうが正しいかなって、それ地獄じゃないか。
自分の罪も知らないのに地獄は本当に勘弁して欲しい。
「ところで狐々乃月はどうしてここに?」
「ボチボチ昼ごはんの頃合かな思ってアリシアんとこ行ってんけど、誰もおらへんかったからこっち来たんや」
「あ、そうです。昼食ですよ、御主人様! 早速お召し上がりになりますか?」
「そうだね、お腹も空いたし頂こうかな」
「はいっ、ではすぐにご用意いたしますね。どうぞ座ってお待ち下さい」
アリシアが椅子を引いて着席を促してきた。
さすがに無視するのも悪いので、そのまま引かれた椅子に座る。
どうやら既に準備はほとんど済んでいたらしくすぐに配膳が始った。
今回のメニューは、
「これは、オムライス?」
「はい、それにスープとサラダをご用意しております」
言いながら、お皿を並べていく。
「本日はトマトソースのオムライスにしてみましたが、もし他のお味がよいのでしたら作り直しますので、遠慮なく申し付けて下さいね」
「それはさすがにもったいないような。まぁ好みなんて分からないから、とりあえず食べてみるよ」
「はい」
とは言っても、やっぱりもったいないので好みじゃなくてもいらないとは言わないようにしよう。
けど、こんなにいい香りなんだから不味いってことはないと思う。というか、絶対美味しいと思う。
「ウチはトマトが1番好きやから問題ないな」
「ココノツはもう少し好き嫌いを減らしてください」
「そのうちなー。それより、早よ食べよーや。冷めてまうで」
「そうだね。アリシア、もう食べてもいいかな?」
「はい、どうぞ召し上がって下さい。あ、でもちゃんといただきますは言って下さいね」
「うん、じゃあ狐々乃月」
「ん、おっけーやで」
お互い手を合わせ目を合わせてタイミングを合わせ、
「「いただきます」」
声を合わせた。




