70:誰が得して誰が得しないのか
「でも急にそっちが脱ぐから」
けれど、こちらばかりが悪いわけでもないと思うので、反論を試みてみる。
そうだ、いきなり脱いだのはイデアなんだから、それを見てしまうのは仕方ない事だ。
だって故意に見ようといたわけじゃないんだから。
その場に立って目を開けていたら、向こうから視界に入ってきたんだ。
車を運転してたら、死角からいきなり目の前に飛び出してきたみたいな。
うん、それなら仕方ないね。
「デハ、目ヲ逸ラセバイイデショウ。何秒モ凝視スル必要ハ有リマセン」
論破されてしまった。
だよね。車でも結局轢いたほうが悪いもんね。
ぐうの音も出なくなってしまったので、後ろを向いて視界を身体ごと動かす。
さっきまで、すわ美術品か!というくらいの素晴らしい女体が目の前にあったのに、いまはもう壁しか見えない。
この病院の何処でも見られる真っ白な壁だ。
白い壁はある意味女性の身体を表現してなくもないと言えるけれど、 イデアは少なめと言ってもそれなりには膨らんでいるので、壁とはちょっと違う。
それに全体的に見れば、引き締まるところはかなり引き締まってるので、膨らみ自体が少なくとも、落差は結構ある。
なので、多分数値以上に盛りがある思う。
どっちかって言うと狐々乃月だろう。
あれはまさに壁と表現するに相応しい。少ないって言うか、無いからね。
見渡す限りの平原。取っ掛かりなどない。
山登りっていうか、ピクニックって感じ。
まぁ、何処がとは言わないけど。
「……(ぶるっ)」
何故か一瞬寒気がした。
寒気がしたのに、燃え盛るような熱さも感じた。
言うなら、熱すぎて寒気がした。
ともあれいま出来ることは、さっき見た映像を思い出して白い壁に投影することぐらいだ。プロジェクターみたいな感じで。
「モウイイデスヨ――何シテルンデスカ愚図」
「うおぅ、ごめんなさい!」
急に掛けられた声に驚いて振り返ると、ジャージ姿になったイデアが憮然とした表情で立っていた。
ジャージ似合わないなぁ。
「着替エニ時間ヲドレダケ掛ケルンデスカ。早ク済マセテ下サイ」
「あ、そっちか」
「ソッチ?」
「な、なんでもないよ。うん、着替えるから。ははっ」
別によからぬ妄想をしていたことを怒られた訳ではないらしい。
そりゃそうか。妄想なんだから、他人には伝わるわけがない。
とりあえず、誤魔化すためとはいえ着替えるって言っちゃったんだし、着替えるか。
「遅イ」
「へ? うわぁ!」
「全ク、手間ガ掛カリマスネ」
「ちょ、何してって、そんなとこ触らないで」
「煩イ。着替エルノガ遅イカラ悪イノデス。私ガ着替エサセマスカラ、大人シクシテイテ下サイ」
「自分で着替えるから、ひあっ」
「妙ナ声ヲ出スンジャアリマセンヨ。コノ変態」
「いや、妙なトコを触ってるのは、うあっ」
「何デスカ、欲情シテルンデスカ? 猿デスカ?」
「してないよ! 何言ってんのさ! だから、自分でやるって! きゃあ!」
「気持チ悪声ヲ出スナ、コノ色情豚」
「罵る言葉酷くない!?」
「ダカラ煩イデスヨ。イイカラ、大人シクサレルガママニナリナサイ」
「いやだよ――あ! それは本当にダメだって」
「何ガ駄目ナンデスカ、ナニガドウナッテイテモ今更幻滅ナドシナイノデ大丈夫デスヨ」
「そっちがよくても、こっちがよくない!」
「エエイ、マドロッコシイ! 大人シクシナサイ!」
「ダメだって! ダメ……あ、あーーーーー」




