6:自分の在り処
それから、必死に考えてみたけど、当たり前のようにいい名前なんて浮かんではこなかった。
そもそも自分が自分で分からないのに、自分を示す名前を思いつけるわけがない。
いくら唸っても、無い所からは何も出てこない。
そんな姿を見て何を思ったのか知らないが、リリスが声をかけてきた。
「なぁんにも、思いつかないのかしらぁ?」
それは蔑んでいるような哀れんでいるような愉しんでいるような、
あるいは安心しているような、そんな声だった。
「うん、そう、そうですね。何も出てこない」
素直に答えると、リリスは今度はハッキリと嬉しそうに目を細めた。
「そ。なら無理に考えなくてもいいんじゃなぁい?」
「え?」
「別に思いつかないならぁ、無理に考える必要ないもの」
いや、でもアンタが自分で考えろって言ったんじゃ……。
「じゃあ、名前を考えるのはまた今度にしましょうかぁ」
「いいんですか? それで」
「いいもなにも、思いつかないんじゃあどうしようもないものぉ」
「まぁそれはそうですが、他の人につけてもらうとか」
安易な意見だったんだろうか?
リリスはあからさまに不機嫌な顔をすると、吐き捨てるように言った。
「貴方は信用できるかも分からない赤の他人に、名前を、いいえ、自分の形を決定づけられてもいいの? 私はゴメンだわ。付けるのも、付けられるのも」
それは、冷たい一言だった。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
その理由は分からなかったけど、何故かその時、リリスは優しい人なんだと思えた。