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Hollow cathedral  作者: 林檎亭
第1章 目覚め
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68:籠目籠目

 結論から言うと、全部選んだ。

 あの中から1冊に絞ったのだけれど、それは1つのジャンルに偏ったものではなく、色んなジャンルが一緒に収録されている1冊を選んだのだ。

 メイドもロリも巨乳もスレンダーも、全部が載っていた。

 そもそも結構な冊数があったのだ。

 リリスは自分で色んなものを用意しといて、結果に対して舌打ちをしていたが。

 にしても、アリシアは好意を知っているから自分と同じタイプを選んで欲しいというのは分かるのだけれど、他の3人は何だったんだろう?

 多分、女のプライドみたいなものだとは思うけど。

 別に好意を持つ相手でなくても、女として自分がタイプだと言われれば嬉しいだろうし、逆に目の前で他の女のほうが可愛いといわれたら面白くないのだろう。

 そういう気持ちは男にだってあるのだから、分からなくはない。

 誰だって異性からモテたい――とは言わなくても、褒められたいものだから。

 ともあれ、危機を脱出したあとは皆それぞれの理由で退室していった。

 完全に白けた空気が醸しだされていたけれど――理由も分かるけど、そんなの知ったことではない。こっちはある種、命の危険さえ感じたのだから。

 珍しくというか、寝るとき以外は初めてじゃないだろうか、ここの部屋で1人きりになるのは。

 大体アリシアがいたし、そうでない時はリリスがいたり、こちらから狐々乃月の部屋まで行ったり。

 アリシアはいま食事の片付けのために自室に戻っている。


「せっかくだし、探検でもしてみようかな」


 そうだ、そういえば昨日リリスに許可を貰ってから自由に院内を歩き回ったりしていない。

 最初は部屋を出てすぐアリシアと会ったし、トイレに行ったときも結局アリシアが着いてきた。その後も狐々乃月の部屋に行き、また今日も廊下に出たときは狐々乃月の部屋を目的地にしていた。

 こう思い返してみると、部屋の外に出たときって狐々乃月の部屋にしか行ってなくないかな?

 だって他には――真っ暗な廊下で浮かび上がる白い刃――一瞬、嫌なイメージが頭を過ぎった。

 思わず喉に手を当ててしまう。

 粘つくような汗が額から滲み出て、頬を伝って流れ落ちた。

 いや、あれは夢なんだから関係ない。

 夢での出来事なんだから、意味がない。

 それがカウントされるなら、引き篭もりだってアウトドア派に早変わりだ。


「はは……」


 そんな益体もないことを考えて声だけで笑う。

 それでも幾らかは気分がマシになったが、依然として重たい何かが腹の中を締め付ける。


「ちょっと散歩に行くか、気分転換もかねて」


 行動する気など起きないのだけれど、口に出して無理矢理動かす。

 嫌がる足を引き摺るように動かしながら、廊下に出る。

 真っ白な廊下だ。

 窓はないし蛍光灯のような光源もない。

 しかし廊下は明るい。

 影一つなく、まるで壁自体が発光しているかのように明るかった。

 そういえば、これはどういう原理なんだろう。やっぱりリリスがその能力とやらで何かしているのだろうか。科学的な知識も乏しいため、他に何も思いつかない。

 廊下を歩きながら、周囲を見回してみても特に不審なところはない。

 直接触れてみても、普通の壁にしか感じられない。

 少し暖かくはあるけれど。

 そんな風に様子を窺いながら歩いていると、向こうから女性が1人歩いてきた。

 真っ直ぐに背筋を伸ばし乱れのない足音を響かせ翠の髪と碧の瞳をした、芸術品と言われても納得してしまいそうな造形の美女が。

 なんでだろう、さっき変なことを思い出したからだろうか。

 イデアと夢の襲撃者の姿がダブって見えた。


「ひっ」


 そのせいで思わず立ち止まって身構えてしまった。

 硬直してしまったと言い直したほうがいいかもしれない。

 イデアはそんな不審な動きを見て、訝しんだり心配したりする素振りをみせず、ただ無表情のまま、


「ドウカサレマシタカ?」


 感情の乗らない声で尋ねてきた。


「え、いや……」


 言葉が喉につっかえて上手く出てこない。

 出たとしても、言う言葉がない。

 まさか本当のことをそのまま言うわけにもいくまい。

 夢の話をされても困るだけだ。

 しかもそれで勝手に怯えるなんて失礼な話だ。 

 イデアもそんなことを聞かされていい気持ちはしまい。


「いや、なんでもないよ」


 搾り出すように声を出すと、喉がひどく痛んだ。


「ソウデスカ」


 イデアは興味なさげに言うと、そのまま立ち去って――はいかなかった。


「少シ宜シイデショウカ?」


「え?」


 その翠緑の瞳に間抜け面が映る。

 瞳の中に人がいるかのようにくっきりと。

 それはまるで、エメラルドの宝石に閉じ込められた囚人のようだった。

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