65:机の引き出しを外したスペース
引き出しの中に入っていたのは大きめのサイズの本が10冊ほど。
全て背表紙がこちらを向いている上に、書名が書いてないため何の本か分からない。
とりあえず無作為に何冊か手にとって確かめてみる。
「なんだこれ、写真しゅ――うぅぅぅぅぅぅぅう!?」
目に飛び込んできたものが理解の範囲を逸脱していたせいで、驚きのあまり奇声を発してしまった。
茹で上がってモジモジしていた狐々乃月も、頬を膨らませてそっぽを向いていたアリシアも、その声に何事かとこちらへと振り向く。
「どしたん?」
「どうかなさいましたか?」
奇声の原因が手に持った本だと気付いたのか、2人はそれがなんなのか確かめようと近付いてくる。
「い、いや、なんでもないんだ。ちょっと驚い――じゃなくて、発声、そう発声練習をしたんだ。ほら、あーいーうぅぅぅぅぅぅうーえーおー、みたいな」
当たり前と言えば当たり前なのだけれど、2人はそんな戯言に耳を貸すことなく、真っ直ぐに向かってきた。
咄嗟に本を背中に隠すが、それが余計不味かったらしい。
誤魔化そうとされたことで僅かに苛立ちを覚えた彼女らは、その苛立ちを更に加速させた。
怪訝だった表情は疑心に変わっている。これがさらに時間を経ることに怒りに染まることは容易に想像できた。用意が容易だった。
「御主人様、いま何をお隠しになりましたか?」
「その背中のもん、ちょお見せてみーな」
遠慮なしに距離を詰められ、彼我の距離はもはや息遣いを拾えるほど近い。
「やだなぁ、何も隠してないデスヨ?」
「なんで疑問系の上、カタコトやねん」
「いやいや、普段からこんな喋り方デスヨー」
「明らかにおかしいやろ」
狐々乃月がツッコミを入れながら、グイグイと詰め寄ってくる。
身長差があるせいで、自然その視線は上目遣いになっていて、ちょっと可愛く思えてしまうのだけれど、状況はいまそんな余分を許してはくれない。
「ほら、白状しーや」
もう近付きすぎて身体が触れる寸前だ。幸か不幸か、密着でもしない限りはその慎ましやかな胸が押し付けられることはない。いまそんな感触を与えられたら、隠している物が物だけに挙動不審が加速することは間違いなかった。
とりあえず、なんとか狐々乃月の追求をかわさないと――って、あれ?
ここに至ってようやく気付いた。
真正面から責めてくる狐々乃月に気を取られて、もう1人の存在を忘れていることに。
「で、これは何ですか御主人様?」
声はすぐ後ろから聞こえた。
やられた。
狐々乃月が正面を攻めている間に、アリシアはこっそりと背後に回り、直接ブツへと急襲をかけたのだ。
「うわわわわわぁ!」
見られまいと急旋回すると、アリシアと本の奪い合いのような形になり、変な力の掛かった本たちは2人の手を離れ、盛大に床にばら撒かれた。
「あーーーーー!」
回収を試みようとするが、時すでに遅し。
アリシアと狐々乃月の目はしっかりと、落ちて――しかもその衝撃で開いて中身が見える状態になっていた本を捉えていた。
動きの固まった3人と、訪れた静寂のせいで、時が止まってしまったような錯覚に陥る。
やがてアリシアが熱のこもった目で、狐々乃月が絶対零度の眼差しで、同時に追求してきた。
「これは何ですか、御主人様?」
「これ、なんやねん」
床にばら撒かれた本たち。
そこには可愛い女の子たちの写真が載っていた。
そして、その女の子たちは様々なポーズを取っていた。
さらに、その女の子たちは服を着ていなかった。
つまりは有体に言うと、
エロ本だった。
2014/4/22 誤字修正




