64:罵倒コンボ
jaは肯定の意味のドイツ語です。キャラ付けのために追加しました
ある程度と言いつつも、本棚は8割がたが埋まっていた。
ほとんどが娯楽小説のようで、専門書や学術書はなく、あっても辞典が数冊あるくらいだった。
「ウチの本棚とラインナップちゃうねんな」
「そうみたいですね。確か私の部屋と狐々乃月の部屋も同じ本はありませんでしたし、各部屋毎に違う本が並んでいるのでしょう」
「そうよぉ。同じ本ばかりだとぉ、つまらないでしょぉ?」
「そうやな。これなら読み終わった本同士で貸し借りも出来そうや」
狐々乃月はかなり嬉しそうに呟いた。
さっき部屋に行ったときも本を読んでいたし、もしかして本が好きなのだろうか。
「そういうわけやから、今度本貸してな」
「うん、もちろんいいけど、狐々乃月はどんな本を読むの?」
「ウチ? ウチは……まぁ推理しょ」
「恋愛小説です」
狐々乃月が何か言おうとしたところに、アリシアが食い気味に答えた。
「なっなななっ」
狐々乃月は顔を真っ赤にして驚いている。
「恋愛小説でしょう? ココノツの本棚、恋愛小説一色じゃないですか」
「なんでバラすねんな――って違うで、恋愛小説なんて読んでへんからな!」
「そんな本棚を見れば一発でバレる嘘をつかなくてもいいじゃないですか」
「う、嘘ちゃうもん」
「そこで意地張らなくても……御主人様はそんな事気にしませんよ。 ねぇ、御主人様?」
「へ? あぁうん、別に恋愛小説読んでてもいいんじゃないかな。むしろ可愛らしくていいと思うよ」
「なっ、かわっ」
よっぽど恥ずかしいのか、白い頬が林檎みたいに染まっている。
「ご、御主人様っ。私も恋愛小説読みますよ」
「え、どうしたの急に?」
「恋愛小説読んでる私にも言う事ないですかっ?」
「え、言う事って? え、えーと、さすが女の子だね」
「違います! ほら、あの」
アリシアが何を言いたいのかが分からない。
「あーもう! 御主人様のバカ!」
「なんで!?」
いきなり罵倒された。
「ほんと罪作りよねぇ、貴方」
「いや、意味分からないんだけど」
狐々乃月が照れてるのはかろうじて分かるけど、アリシアがなんで怒っていて、リリスがなんで茶化してきて、イデアが白い目でこちらを見てくるのかが分からない。
いったい何したっていうんだ?
「分からないなら分からないでいいんじゃないかしらぁ。それも一種の美徳よぉ。ねぇ?」
「ja、仰ル通リデス。個人的ニハ死ナバイイノニ、ト思イマスガ」
「また罵倒された!」
なんなんだ、メイドは人を罵倒しないといけない決まりでもあるのだろうか。
まさかこの短時間に見に覚えのないことで、2人のメイドから罵られるとは。
一部の人からしたら大変なご褒美だろうけど。たいへんたいな人からしたら。
「あんまり気にしなくていいわよぉ。イデアは愚鈍な男を見ると誰でもこうなんだからぁ」
「いますっごい気になるフレーズ言ったよね! それ聞いて気にしなくなる人いないよね!」
しかし、渾身のツッコミもあらあらとスルーされてしまった。
何気にリリスも虐めにかかっているのだろうか。
これはやはり癒しは狐々乃月に求める他ないのか。
「まぁまぁそんなに落ち込まないでぁ。そぉんな貴方のためにぃ、い・い・も・の用意してあげてるからぁ」
「いいもの?」
「そうよぉ。とぉってもいいもの」
いいものと言われてるはずなのに、嫌な予感が止まらない。
「えーと、ちょっと遠慮し――」
「その本棚のぉ、下の引き出し開けてみなさいなぁ」
断ろうと思ったのに、強引に押し切られた。
聞いてしまっては開けないわけにはいかないだろう。
何が入っているのか警戒しつつ、ゆっくりと引き出しを開けてみた。




