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Hollow cathedral  作者: 林檎亭
第1章 目覚め
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63:えいごのはつおん

 「そういえばぁ、説明してなかったけどぉ、テーブル出せたのねぇ。 アリシアちゃんか狐ちゃんが教えてあげたのかしらぁ?」


 お茶を飲みつつホッコリしているところで、思い出したようにリリスが切り出してきた。


「ふーふー。せやで、ちゃんと説明しときや」


 狐々乃月はいまだ口をつけていないお茶に必死に息を吹きかけながら答えた。

 添えているだけの手を見るに、湯のみすら持てないようだ。

 焔を操る狐妖が猫舌で、熱いの苦手ってどういうことだ。


「ふぅん、ところでぇ、どこまで教えたのぉ?」


「まだテーブル一式出すまでや。丁度そこでアンタが来たからな」


「そうだったんですか。タイミングの悪いときに現れるなんて、邪魔な魔女ですね。お邪魔女ですね」


「それはかなり違う意味になるから」


 ツッコミを入れると、アリシアがきょとんとした顔になった。無意識だったのか。


「なるほどなるほどぉ。やっぱりねぇ」


「やっぱりってどういうことや?」


「ぜぇんぶ出した割には反応薄いわねぇ、と思ってぇ」


「全部?」


「そお、ぜぇんぶ。テーブルのほかにもぉ、色々あるのよぉ。 確認してみればぁ?」


「へぇ」


 言われるがままに扉横のボタンのところまで移動してみる。

 見ると、確かにチェアーやらテレビジョンやらクローゼットやら色々書いてあるボタンがある。


「んーと、これなんだろ? ふりど?」


 読めない単語があったので、しどろもどろになっていると、狐々乃月がやってきた。


「読めへんの? しゃあないなぁ、ウチに任せてみ。どれや?」


「これなんだけど」


 読めない単語を指で示すと、狐々乃月が顔を近づけてきた。ボタンの位置がちょっと高いせいか背伸びをしている。


「あ、これなー。これは簡単やん。ほら、あれや」


「あれってどれさ」


 自信満々だったはずの狐々乃月の顔に焦りが浮かんできた。


「まさか……」


 読めないんじゃ?


「な、んなわけないやろ。読めるっちゅーねん。ちゅーねん!」


 何故繰り返した。余計に読めない疑惑がましただけなんだけど。


「これは、あーとー、ふ、ふりど?」


「それはさっき言ったよ」


「わ、分かってるっちゅーねん。これは間違いやでーって、言おうとしただけやん」


 もうこれ明らかに読めてないでしょ。

 しかし狐々乃月は健気にというか意地を張ってというか、うんうん唸りながらも諦めようとしない。

 誰か助け舟は、と思って部屋を見渡してみても、アリシアとリリスは悪そうな顔で笑ってるだけだし、イデアは心底興味なさそうに――なんなら狐々乃月の言葉を一切聞いてもいないようにしてるだけだ。

 味方など誰もいないっぽい。


「分かるから、分かるからな。いま考え……じゃなくて思い出すから、ちょお待っててーや」


 ここまで意固地になってる姿は、幼女な外見のせいでかなり可哀想な感じになってくる。

 仕方なく、アリシアに視線を送ると、


「仕方ありませんね」


 ヘルプの意思を察してくれたらしく、こちらへと歩いてきた。

 どれどれ、と覗き込むと――実際はどの単語で躓いているか分かっていたらしく、いま来て見て気付きましたよというアピールの為のポーズだったんだけど。


「これはフリッジと発音します。つまりは冷蔵庫ですね」


 当たり前のように答えた。まぁアリシアにとっては当たり前だったんだろう。


「そやそや、ふりっじや。あ……ま、まぁ知ってたけどな」


 まだ強がる狐々乃月。逆に凄いなこの子。


「そか、冷蔵庫。そんなものまであるんだ。あ、これは?」


 読めそうで読めなかった単語があったので、ついでに聞いてみる。


「それは分かるで。ぶっくしえるふ、本棚やな」


 つるぺったんの胸を突き出して威張るけれど、色んな意味で残念だった。

 それ「は」って言ってしまってることとか、足りない色気とか、発音とか。

 しかしそこには触れないでおこう。そこを追求してもきっと誰も幸せになれない。


「本棚か、でも本なんて一冊も持ってないよ」


 そう言ってしまえば冷蔵庫に入れる食料品もないのだけれど。


「それならぁ、ある程度は集めてあげるわよぉ。それにぃ、いくつかはぁ、私の独断と偏見で並べてあるわよぉ」


「へぇ、そうなんだ」


 興味がわいたので、なんとなしに本棚のボタンを押してみた。

 テーブルの時と同じように床の一部が光り、少しの間を置いて本棚がせりあがって来た。

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