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Hollow cathedral  作者: 林檎亭
第1章 目覚め
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61:争いは敗者しか生み出さない

 ご飯の前に色々あったけど、何はともあれ食事が始まった。

 白ご飯に味噌汁に漬物に目玉焼きに焼き魚という至って普通の朝食メニューだった。

 一応パンも用意してくれていたみたいだけど、個人的にはご飯の香りのほうが惹きつけられたので、こっちにした。

 狐々乃月はパンなど目もくれず和食を選び、リリスは他に倣ってという理由で和食を選んだ。

 つまりは全員が同じメニューになった。

 アリシアが席に着こうとしなかったので、一緒に食べようと促すと、


「私はもういただいたので」


 と言って断られてしまった。

 イデアはリリスの世話があるから食べないらしい。というかメイドが主人と一緒に食うわけないだろ、と怒られた。

 そんなやり取りをしている内に配膳が終わった。


「「「いただきます」」」


 3人で唱和する。そして賞味する。

 まずは味噌汁から。

 これは別にこだわりがある訳ではないのだけれど、単純に箸を湿らせるのと口の中に水分を取り入れることを目的としただけだ。こだわりなんてものはそう、精々最初に漬物はないよな、くらいのものである。それも他人に強制するほどでもない。自分がそうなだけだ。別に横でボリボリと音が鳴っていても気にしない。食事が始まっていの一番に漬物に手を伸ばし、ぽいぽいと口の中に入れていく様をすぐ隣で見せられても気にしない。漬物って口直しとかに食うものじゃないのか、とか思うけど気にしない。気にしないったら気にしない。


「おかわりや」


「って、もう漬物食べ終わったの!?」


 他のものに一切手をつけることなく、狐々乃月は漬物を、漬物だけを平らげてしまった。


「なんやな、漬物食わへんならもらうで」


 言うが早いか、返事をする間もなく漬物を攫われてしまった。しかも皿ごと。


「ああーーーー!!」


 まだ一口も食べてないのに!


「ポリポリ。なんや、食わへんからいらんのかと思ったポリ」


 そしてすでに漬物は狐々乃月の口の中へ。つか噛む音が語尾みたいなってる。


「まだ食べ始めたばっかなんだから手ついてないだけだよ!」


「なんやそうやったんポリか。スマンスマン」


 なおも口いっぱいに漬物を積めながら謝るその顔は、悪いという感情は微塵もなく、ただ漬物を食べてひたすらに満足げだった。


「もう、喧嘩しないでください。まだありますから」


 アリシアが先程受け取っていた狐々乃月のお皿に漬物を入れてテーブルに置いた。


「そぉい!」


 そして狐々乃月が漬物を飲み込むその瞬間、隙をついて漬物を強奪。一気にかっ込んだ。

 なんだこれ、凄い美味しい。


「ぎゃーーーーー!! 何してんねん!」


「はっ、さっき食べられた分を返してもらっただけだから、文句言われる筋合いなんてないね!」


 これ以上ない正論だと思う。まぁやり方が随分大人気ない気もしないでもないような気がするけど。


「それやったら人の食わんと、アリシアからおかわり貰ったらええやろ!」


「それを狐々乃月が言う!?」


 思いっきりブーメランじゃないか。


「なんやと!」


「なんだよ!」


 あとあと考えると何でこんな下らない言い争いをしたのか全然分からないんだけど、なんでかこの時は譲ったら負けみたいな気持ちになって、漬物がなくなるまで戦った。


「ご飯時くらい静かにしなさいよぉ」


 リリスだけは蚊帳の外で普通にご飯を食べていた。


「あらぁ、この味噌汁美味しいわねぇ。特に出汁が効いてるわぁ」


「貴女に褒められても嬉しくないですけど、有難う御座います」


「りりす様、オカワリハイリマセンカ?」


「いただくわぁ」


 せっせと味噌汁を入れるイデアを見て、アリシアは深い深い溜め息をついた。


「美味しく食べてもらう為に頑張って作ったのになぁ」


 その視線は醜く争う2人に向けられていた。

 最初はそんな悲しいような気持ちで喧嘩を見ていたのだけれど、段々自分の苦労とままならない現状に対しイライラしてきていた。


「せっかく早起きして作ったのに……美味しく食べてもらおうと1年勉強してきたのに……そもそも何で漬物しか食べてないのよ……魚も味噌汁も玉子焼きも頑張って作ったのに……私のご飯が食べられないっていうのかしら……」


「あらん? これはちょっとまずいかしらぁ?」


 拳を握り締めたアリシアの様子を見、リリスは自分の分の食事を持ってちょっと離れたところに退避した。

 そして、


「だぁぁあもう! いい加減にしなさい!」


 キレた。

 鼓膜を突き破り脳を振るわせるほどの声量に、餓鬼2匹の言い争いが止まる。


「ちょっとは! 静かに! 食べられないの!」


 その一文字一文字が打撃のように鼓膜を殴りつけてくる。


「「で、でもこいつが」」


 お互いの指を挿してハモる。


「でもも何もない! いいから! 大人しく食べなさい! じゃなきゃもうこのご飯はなし! 片付けます!」


「ええ!?」


 その一言は強烈だった。

 目の前に並べられた湯気の立つ食べ物たち。

 空腹時にこれらを目の前で下げられるなど、まさに拷問としか言えない。


「そ、それは堪忍してーな」


 狐々乃月が涙目になりながら訴える。


「じゃあ大人しく食べなさい! いいわね!」


 睥睨して言うアリシアに対し、


「「はい……」」


 2人は大人しく頷いた。

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