5:先に立つもの
「なら、知ってることだけでいいので教えてくれませんか?」
リリスは値踏みするように目を細め、こちらを見ている。
「んー、例えばどんなことぉ?」
こちらの質問を聞くつもりはあるみたいだ。
まずは、何を聞こうか?
やはり、基本的なことからかな。
「自分の名前も思い出せないんです。それを教えて欲しい」
「名前、ねぇ……」
リリスは先程までと比べると、少し真剣な表情で考えると。
「それも知らなぁい。せっかくだから、自分で新しくつけてみたらぁ?」
ん? なんだろう? これも絶対嘘なんだと思うんだけど、からかわれているという感じがしない。
むしろ、優しさ? なんだろうか。
ともかく、これは冗談じゃないんだって事は確かだ。
名前を自分でつけろ、と真剣に言っているんだ。
ただ問題があるとすれば、
「でも、いきなり言われても思いつかないんですけど」
こちらには記憶が一切ないのだから、名前を考えるにしても思いつきにくい。
自分がどういう人間かも分からないのに、名前をつけるというのは少々難しい。
「そもそも、何処の国の人間なんでしょう?」
「んーとねぇ、そういう先入観もなしで考えて見なさいなぁ」
「……それは何か意味があるんですか?」
「んふふー、どうかしらねぇ」
「まぁ、いいです。じゃあ、考えてみますよ」
「うん、がんばってねぇ~」
頑張ってやろうじゃないか。
とは言っても、本当にどうしよう?
もう好き勝手決めてしまえばいいんだろうけど、それが逆に難しい。
選択肢がある中から選ぶのは簡単だけど、自由すぎる範囲で考えるのは相当難しい。
特に名前は大事なものだ。
下手をすれば、いや下手をしなくても、一生自分を表す記号となるのだから。