57:ゆびきりげんまん
どうしてこうなった。
いま1人の少女が2人の大人に挟まれて弄ばれるという構図が出来上がっていた。
狐の耳を依然触り続ける男と、
「あぁ、やっぱりココノツの尻尾はいいなぁ」
尻尾を揉み続けるメイド。
「いや本当にどうしてこうなったんだろう?」
今度は口に出した。
「触ってる当人が言う台詞ちゃうやろ」
間に挟まれた狐々乃月は本を読むのを諦めて、なすがままになっている。
「はあ、もふもふ」
恍惚の表情で尻尾を愛で続けるアリシアは話に加わることすらなくなっている。
「しかしまぁ、アリシアのこういう口調は意外だなぁ」
昨日からここまで誰に対しても、どんな感情になっていても丁寧語を使い続けたアリシアである。それが今はぬいぐるみに甘える思春期の女子のように、砕けたものとなっている。
「ウチとしてはこっちの方が自然な感じするけどな。むしろ丁寧な喋りかたしてる方が違和感強いわ」
「そうなんだ?」
「前は――アンタが記憶を失う前は、仲間内で1番年少やったしな。気は使わんわ、我がままやわで、みんなに甘えまくっとったからな」
「そ、そんなことない……です!」
心外な評価だったのか、取ってつけたような丁寧語でアリシアが反論した。
尻尾に夢中だったのに、いつの間にか帰ってきてたのか。
「へぇ、わがままなアリシアってちょっと想像つきにくいな」
「アンタが寝こけてる間にずっとメイドの勉強しとったからな。今まで頼ってた相手に、今度は頼ってもらうんやーってな」
「な、なんでバラすの! あ、いや、違いますからね御主人様。私は昔から完璧なメイドです!」
ふぅむ、スキルは高そうなのに結構スキが多いと思ったら、そういうことだったのか。
なんか逆に嬉しくなってくるな。
「それにココノツだってもごぉ」
なにか言おうとしたアリシアの口を狐々乃月が塞いだ。
「ア、アンタそれは言うたらアカンやろ!」
「もごもご――ぷはぁ! でも先に言ったのココノツじゃないの!」
「そやけど、それとこれはレベルが違う――いやゴメンて。ウチが悪かったから!」
狐々乃月が素直に謝ることで、溜飲を少しばかり下げたアリシアが不機嫌ながらも口を閉じた。
「でも今度なにか言ったらバラすからね」
「分かった、もう言わへんから」
「じゃあ指きり」
「は? なんで指きり――って、分かった分かったするから! 指切りするから、大声出そうと息を吸い込むな!」
「もう初めからそう言えばいいのに。ココノツは素直じゃないよね」
「素直っちゅー問題か? それに脅してきたんアリシアやん」
「え、なぁに?」
「なんでもないから、その笑ってない笑顔やめてや」
狐々乃月が渋々小指を出すと、飛びつくようにアリシアが小指を出した。
しっかりと小指を結ぶと、それはもう絡みとって絶対に逃がさないという意思を感じさせるかのごとく結ぶと、せーのと呼吸を合わせ、
「「ゆーびきーりげんまーん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」」
寸分のズレなく斉唱し、アリシアは満足そうに、狐々乃月は嫌そうなポーズをしつつも満更でもなさそうに、指を切った。
「でも、そんな気にしなくてもいいと思うんだけどなぁ」
アリシアが狐々乃月に意味深な視線を向けつつ言うと、
「言わへんいうたやん!」
悲鳴みたいな声での抗議が上がった。
「ほら、何がとは言ってないでしょ。変に突っかかるとバレちゃうよ?」
こちらに視線を送りながらアリシアが忠告すると、狐々乃月は釈然としない表情で唸って黙った。
(個人的には)黙りこむのが辛い空気が流れ、何か言わないといけない気分になる。
「えーと、そういえばアリシアは何か用があって探しにきたんじゃないの?」
まぁ部屋にいたはずの人間がいなくなってたから探しに来ただけなんだろうけど。
その無理矢理とりなした指摘に、アリシアはあっと声を上げると、
「そういえばお食事のご準備が出来たことをお伝えしようと思っていたんでした」
その直後、待ってましたといわんばかりに腹の虫が咆哮した。




