56:世界平和
「え、いいの?」
正直、さっき触れた耳の感触がかなりふわふわしてて、もう一回くらい触りたいなーと思っていたのだ。
「あ、アンタのためちゃうからな! また急に触られたらビックリして読書にならへんからや!」
なるほど。確かに、いつ触られるかということに意識を割くより、いっそ許可を与えて触られているほうがまだ気にならない。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
本日2度目の台詞を言うと、狐々乃月の耳に触れる。
あぁ、やっぱり気持ちいい。この世のものとは思えないふかふか感。
ずっと触ってたくなるなぁ。
「も、もうちょい強く触っても大丈夫やで」
「そう?」
いまでも十分に楽しんだけど、せっかくなのでなぞるくらいの強さから撫でるくらいの強さへと変えて、耳に触れる。
「お、おお?」
すると、手が飲み込まれていくように綿毛の中に沈んでいく。
うわ、なにこれ気持ちよすぎる。
「狐々乃月(の耳)、最高だ」
その快楽に陶酔してしまい、思ったことがそのまま口に出てしまった。
「ふ、ふんっ」
少し機嫌を損ねてしまったのか、狐々乃月が拗ねたように鼻を鳴らしたけど、頭は動かさずに撫でさせ続けてくれた。
もはやすっかり狐々乃月の耳の感触の虜になってしまい、延々と撫で続ける。
狐々乃月も特に振り払うことはなく、本に顔を向けてジッとしている。
癒しを求めてここにきたのだけど、それはどうやら正解だったようだ。
桃源郷はここにあったのだ。狐耳万歳。
争いをする人々もこれを触れば心が浄化され、穏やかな気持ちになるのではないだろうか。
ケモミミは世界を救う。
冗談でもなんでもなく、いまは本気でそう思えてきた。
そうやって狐々乃月の耳に陶酔していて、どのくらい経っただろう。まだ5分くらいしか触ってない気もするし、1日中触ってるような気もする。
ふいに、扉がノックされた。
「にゃう!?」
よっぽど気を抜いていたのか、狐々乃月が驚きのあまり奇声を上げた。
「ココノツ、ちょっといいかな?」
ノックの主は声からするにアリシアか。口調が砕けてるのがなんか新鮮だ。
「どうしたん?」
狐々乃月もかなりフレンドリーな声色で聞き返した。
この2人は仲良いんだな。
「うん、御主人様しらな――」
そしてその仲の良さ故か、アリシアは言葉を続けながら扉を開いた。
「――い?」
そして、そのお探しの御主人様を見つけ、固まった。
狐々乃月も、耳を触られている状態で固まっている。
もふもふ
3人全員固まっていると思いきや、耳をモフる動きだけは今なお活発に行われていた。
だって止められないんだよ。やめられないとまらない。
「あ、あ、あ……」
アリシアは油の切れたオモチャみたいなぎこちない動きで指をさすと、
「な、なにをするだー!」
叩きつけるような声で叫んだ。そしてズンズンと近寄ってきて、狐々乃月の肩をガッチリと掴んだ。
「なにっ、イチャイチャっ、してるのよっ」
肩を掴みながら狐々乃月の身体を前後に激しく揺さぶるアリシア。
「ちょっ、まっ、ねぇっ、ちょぉっ」
狐々乃月は何か言おうとしてるのだけど、揺さぶりが激しいせいで言葉になってない。
相当揺らしてからアリシアはもう一度目一杯さけんだ。
「ズルイ! 私もするー!」




