51:襲撃再び?
妙な寝苦しさを覚えて目を開けると、変態――間違えた、アリシアが覆いかぶさるように上に乗っていた。
「ハァハァ、御主人様御主人様。クンカクンカ。ふふふ、いまのうちに既成事実を作ってしまって……(目が合った)あ、御主人様お早う御座います」
アリシアは何にもなかったようにベッドから降りて居住まいを正すと、ニッコリ笑顔で爽やかな挨拶をしてきた。
「いや、無理だから。誤魔化せてないから!」
あまりにものスムーズな流れにウッカリ誤魔化されそうになったけど。
でもやっぱり寝起きにこれはインパクト強すぎるから。
「え、なんのことですか?」
「なにって、いま上に、こう乗って息荒げてたでしょ」
「え、なんのことですか?」
「だから、さっき……」
「え、なんのことですか?」
コイツ……押し通す気かっ。
「はぁ、もういいや」
寝起きにゴチャゴチャやるのが面倒になって結局放り投げる。
というか、それ以上に気になっていることがあった。
そしてそれを確認する為にそっと首に手を添える。
「やっぱり、なんともないよな」
念入りに首を両手で探ってみても、傷らしき感触は一切なかった。ちょっと髭が生えてるくらいだ。
「どうかなさいましたか、御主人様?」
「ん? あぁ、なんでもないよ」
寝起きの変な行動にアリシアが首を傾げて聞いてきたけど、どう答えたらいいのか分からなくて曖昧に濁す返事になった。
いやぁ、変な黒尽くめのやつに胸潰されて首刺されたんだよねー。なんて言っても、変なこと言ってるくらいにしか思われないだろう。
自分自身でもそう思う。
だって傷も何もないんだから。
着ている服を見回しても血痕どころかシミ一つない。
ということはさっきのは夢だったんだろうか? 夢だったんだろう。
そうでないと説明がつかない。
今考えても色々おかしかったし。光源がないのに目が見えてたり。
けどそれも夢だと考えればおかしなことじゃない。
ちょっと縁起の悪い夢ではあったけど、夢に文句を言っても仕方ない。
自分が殺される夢なんて、誰だって見るさ。
そう結論付けて、異様に生々しく残っている記憶を頭の隅に追いやる。
「御主人様、あまりお顔の色が優れないようですが、体調が優れないのでしょうか?」
さっきまであんな奇行をしていた人物とは思えない殊勝な態度である。
「あぁうん、体調は大丈夫だよ。ちょっと起きて早々襲われそうになったせいで頭が痛い気がしなくもないけど」
「まぁそんなことが? 寝込みを襲うなんて卑劣な!」
いや、怒ってるけど君だからね? 分かってやってるよね? もし分かってなくて素で言ってるんだとしたら、本気で身の危険を感じざるを得ない。リリスに頼んで部屋を隔離してもらうまで考える必要がある。
……大丈夫、だよね?
ある意味、夢より恐ろしい考えを首を振って消す。これ以上考えるのは精神衛生上よくない。
「そ、そうだ。こっちからはまだ言ってなかったよね。おはよう」
起きてからまずしたことがツッコミだったせいで、朝の挨拶を失念していた。原因は目の前の彼女だけど。
「はい、お早う御座います」
アリシアが恭しく挨拶を返してくる。
まだ違和感が強いけど、このアリシアの慇懃な態度にも少し慣れつつあるな。まだ2日目なのに。
「それでは御主人様、早速ですが朝食になさいますか?」
「え、あぁそうだね。でもその前にトイレ行ってくるよ」
寝起きでちょっと尿意が。
「かしこまりました」
そして何故かスカートの中から取り出されたるシビン。
「さぁどうぞ」
「さぁどうぞじゃねぇよ!?」
突然の出来事にツッコミが荒くなってしまったけど、別にいいよね。
「え?」
「いや、そんな愕然とした表情されてもダメだから! しないから!」
「え、ですがベッドから動かないで済みますよ?」
「それで、そっかーじゃあお願いってならないから! トイレくらい自分の足で行くよ!」
「そう、ですか」
「ちなみに用を足すのに手伝いとかいらないからね」
「えぇ!?」
やっぱり着いてこようとしてたのか。昨日も似たようなやり取りしたもんね。
膝をついて打ちひしがれるアリシアをよそに、1人でトイレへと向かった。




