48:目標確認
難しいことを考えたわけじゃなかった。
単純に、女の子を盾にすることが嫌なだけだった。
アリシアやリリスなら呼べば助けに来てくれるかもしれない。
けれどその場合、この殺意の前に彼女たちを呼び込むことになる。
それは避けたかった。
まぁ要はつまらない男の意地みたいなものだった。
もう一つ、単純に大声を出せば誰かしら、まだ会ったことのない患者や医者、もしくは警備員が助けに来てくれるかもしれないけど、やっぱり見知らぬ人をこんなのに巻き込みたくはない。
ひょっとすると出会い頭で取り返しのつかない怪我をしてしまうかもしれない。
だから、もし助けを呼ぶならコイツを無力化してからだ。
よし!
心が決まったところで、落ち着いて――心臓はバクバクいってるけど――相手を観てみる。
そして気付いた。
周囲が暗かったから相手もよく見えないんだと思ったら、相手は黒尽くめの格好だった。
黒いズボンに黒いパーカー、そしてフードを深くかぶり、口には黒いマスク。
なんか某推理マンガに出てきそうなビジュアルだ。
それについては名称をちゃんと覚えてないけど。
そして、刃物。
これはおそらく包丁かそれに近い長さのナイフだと思う。
合計で2度避けることが出来たのは、このリーチの短さのおかげに他ならない。
向かい合って数十秒ほど膠着していたが、ここで相手が焦れたのか、再び襲い掛かってきた。
「――っとぉ!」
横薙ぎのナイフを大げさなくらいに身体を振ってかわす。
ここで刃物が刃渡り20cmくらいのナイフであることが確認できた。
うん、よく見える。
暗さに目が慣れてきたのもあってか、輪郭も動きもハッキリ捉えられる。
「さぁかかってきなよ」
逃げの手を打たせない為に挑発なんかもしてみる。
それが効いたのか、そいつは前傾姿勢を取ると、これまでとは比較にならない速度で切りかかってきた。
「うおぉ!」
間一髪――本当に前髪が切れた――回避に成功する。
目の前をパラパラと髪が落ちていく。
心臓の鼓動がより強くなっている。
し、死ぬかと思った!
油断してた。
3回続けて回避できたから、正直舐めてた。
そして余裕ぶっこいた挙句死にかけた。
もう挑発なんて止めよう、うん。
そもそもそんなことより、大事なことがあるはずだ。
それを口に出して確認する。
「勝利条件、不審者の撃退。手段、刃物の無力化。敗北条件、自分及び第3者の負傷」
相手には聞こえないくらいの小声だったけど、口にしたことで目標がハッキリした。
口に出しての確認って大事。
さて、どうやって達成しようか
「なっとぅー!」
凶刃が耳元を掠める。
ちょ、考え事の最中に攻撃してくんなよ! 変な声出たじゃん!
幸い、目の前のやつ以外には聞かれていない。
なんだよ、
「なっとぅー!」
今度は間を置かずにナイフで切りつけてきた。
なんだよ、なっとぅーってって思ってたところだったから、また言っちゃったじゃん!
くそう、刺殺される前に恥ずかしさで悶死しそうだ。
まさかそれが狙いか?
奇声をあげて悶死とか本気で嫌なんだけど。
末代までの恥だよ、マジで。




