45:焦ったり焦らされたり
「焦ってる?」
あのリリスが焦るというのがイメージできない。
「リリスは仮にも魔女や言われてる女や。それがこんな簡単に尻尾の先を見せるなんて、普通はありえへん。ホンマやったらもっと周到に、誰にも疑いすら持たれずに事を進めるはずや」
なんか狐々乃月のリリスに対する評価がめちゃくちゃ高い気がする。
「ま、もしかしたらウチがこんな疑いを持つことすら計算に入れてるんかもしれんけどな」
「しかし、それを言い出しては……」
「キリないっちゅー話やな。一応、何かしら考えてはみるけど、あんま気にしすぎひんようにせんとな」
狐々乃月とアリシアが神妙な顔で頷きあう。
「んーと、つまり何か企んでるっていう意識だけは持ちつつも、特別アクションを起こしたりはしないってことでいいの?」
「そういうことやな」
なるほど、分かったけど分からん。
結局、何をしたらいいんだろう?
下手の考え休むに似たりって言うし、変に考えないほうがいいかな?
探りを入れるとかそんな器用なこと出来そうにないし。
「ま、この話はここで終わりや。何処にアイツの耳があるかも分からんしな」
よかった。これ以上難しいこと話されたら頭がついていかないところだった。
……頭の構造がよろしくなさげなのは記憶喪失のせいだと思いたいなぁ。
「にしても……」
ピリピリした空気を一変させ、観察するような目で狐々乃月が見てきた。
「外見は全く変わってへんのに、雰囲気が違うせいでまるで別人に見えんな」
「そうなんだ? 自分ではよく分からないけど」
「そらそうやろ、記憶喪失やねんし」
「大丈夫です。いまの御主人様も素敵ですよ」
「え、うん、ありがとう」
唐突な褒め言葉に照れる。
アリシアだとお世辞とかじゃないっぽいから余計恥ずかしい。
「……記憶を失う以前ってどんな人間だったか聞いてもいいかな?」
間が持たないので、話題の変更を試みる。
「それは答えられへんなぁ」
あ、やっぱり。
どうにも過去のことは誰も答えてくれないらしい。
それに狐々乃月はウッカリ口を滑らしたりもしなさそうだ。
これならアリシアのほうがまだ聞き出しやすそうだ。
「じゃあ、狐々乃月と過去どんな関係だったか、とかも教えてくれない?」
これはアリシアにも聞いたが、回答を拒否された質問だ。
どうせ答えてはくれないだろうな、と思って聞いてみたのだけど。
「んー、関係なぁ」
何故か難しい顔をして考え込んでしまった。
え、そんな複雑な関係だったの?
「ココノツ」
何か言ってしまうか心配だったのか、アリシアが窘める口調で狐々乃月の名前を呼んだ。
「分かってる。答えるつもりはないんやけど、改めて考えてみると、どうやったかなぁって思ってん。ウチとそいつの関係」
ますます首を捻って考えこんでいる。
「恩人じゃダメなんですか?」
事情をしてるであろうアリシアが口を出すが、
「恩人はちゃうやろ。確かに助けてもらったかもしれんけど、それとは別に――あー思い出したら腹立ってきた」
え、え、一体何があったの? なにをして、このロリっ子怒らせたの?
「もしかして、酷いこととかしちゃった?」
おそるおそる聞いてみる。
「されたなぁ。まぁウチも悪いっちゃあ悪いねんけど」
したんだ。本当に何をしたんだろう。
これはかなり気になる。
「じゃあ、狐々乃月は恨んでたりした?」
「別に恨むってほどのことでもないけど」
やはり詳細は答えてくれなさそうだ。なら、
「じゃあ、どういう風に思ってたの?」
これくらいなら答えてくれないかな、と思って聞いてみる。
すると、何故か狐々乃月の顔が真っ赤に染まった。
「べ、別にアンタのことなんか何も思ってへんわ!」
なんで更に怒ったの!?
助け舟を求めてアリシアを見ると、思いっきり呆れた顔で溜め息をつかれた。
「ココノツは300年生きていて様々な知識を得ていますが、ある特定の経験値が圧倒的に不足しているため、処理しきれないんですよ」
えらく遠まわしな説明をされる。
そのせいで何を言いたいのかサッパリ分からない。
「不足してへんわ! めちゃめちゃ豊富やっちゅーねん」
「へぇ。何の経験とは言ってませんけど、認めていいんですか?」
その指摘に狐々乃月は、
「あ、いや、ちょ、ちが」
あからさまに狼狽した様子で言葉を探している。
そして感情が臨界点を突破したのか、急に叫びだした。
「あーもう知らんわ! とりあえず出てけー!」
狐々乃月の背後から白いモコモコ――要は尻尾が現れ、巨大化、それが目の前に迫ってきたかと思ったら、アリシア共々部屋から押し出されてしまった。




