44:女狐の尻尾
「アリシア、あれって」
「はい、あれがココノツの能力です。彼女は焔を思うままに発生させ操ることが出来ます」
つまり、着替えを覗いたときに感じたあの熱気の正体がこれということか。
扉一つ隔てた向こう側で焔が轟々と燃え盛っていたわけだ。
そりゃ暑いよ。
「アリシアちゃんといい貴方といい、何で院内で能力使わないようにって規則を守ってくれないのかしらぁ」
挑発したのアンタだろう、というツッコミが喉まで出かかったけど、何とか堪える。
ここで余計なことを言って巻き込まれたくない。
「ルールを守って欲しかったら、自分の行動から省みたらどうや?」
「私は自分から使ったりはしないわよぉ。自分の身を守るとかぁ、そういう不可抗力でしか使ってないものぉ」
「はっ、ウチが何も気付いてへんと思ってんの?」
狐々乃月が意味ありげに笑う。
「うーん、やっぱり狐ちゃんはやりにくいわねぇ。やっぱり経験かしらぁ」
「それは褒め言葉やと受け取っといたるわ」
「やっぱりやりにくいわぁ」
リリスが怒気を収めて一歩下がった。
「とりあえず今日はこの辺でお暇させていただくわぁ」
そして手をひらひらを振りながら滑るように退室していった。
「どっちが狐やっちゅーねん」
それをジト目で見送り、独りごちる。
「ココノツ、よかったの?」
逃がして、とアリシアが聞くと、狐々乃月は、
「ええよ、あれ以上やっても収穫得られそうになかったし」
やや残念そうに答えた。
「どういうこと?」
言葉の意味が分からなかったため、アリシアに続いて尋ねた。
「んー、アイツはまだまだウチらに隠してることあるねんな。それを挑発でもすれば口の滑りもよーなって、ポロっと零してくれるか思ってん」
狐々乃月が指を一振りすると、周囲に浮いていた日の玉が消える。
「まぁ、その前に逃げられたけどな」
無駄な疲労とストレス溜まったわー、と愚痴りながら狐々乃月はベッドに座った。
「え、じゃああの言い争いはわざとだったんだ?」
完全にガチで喧嘩してるのかと思った。
「イラついてたんはホンマやけどな。せやけど、それで焔使うほどキレたりはせーへんよ。いくらウチが短気や言うてもな」
あ、目的はともかく罵ってた言葉は本音なのね。
「にしても、リリスは何しにきたんだろ?」
ただ狐々乃月と口喧嘩しただけにしか思えないんだけど。
「何って、問診していったやん。アイツは一応ここでは医者やし、それはホンマの用事やったやろうな」
あぁ、あれかなり軽くやられたから全然印象に残らなかった。
ちゃんと仕事しにきただけだったのか。
「ただ……」
そこで納得しようとしてたのに、狐々乃月が不穏なことを呟いた。
「本来まだ会うはずやなかったウチとアンタが、こんな早う会うことなったんは、なんかしらの思惑があるんやろうけどな」
「え、偶然じゃないの?」
「そうですよ、この部屋に御主人様が来たのはウッカリ部屋を間違えたからですよ」
アリシアも同意する。
「そうやな、ここに来たこと自体はある程度は偶然かもしれへんけどな」
狐々乃月は一息区切ってから、意味ありげにこう続けた。
「リリスはなんでウチとアンタらの部屋を廊下で繋げたんや?」
その指摘の意味が一瞬分からなくて考え込む。
「あ」
そして、その意味が分かったときかなりの間抜け声が出た。
「そうか。会わせたくないなら、壁かなんかで廊下を遮ればいいのか。この病院の中なら自由に構造を変えられるんだから」
それがリリスの能力だったはずだ。
「そういうことやな。せやから、何か企んでんのか、あるいは」
「あるいは?」
「相当焦ってるか、やな」




