42:高齢化社会
「ほれほれ」
目の前で尻尾が左右に振られている。
コスプレ? とか、作り物? とかいう意見はアッサリと封じられた。
「これで納得した?」
狐々乃月は尻尾を器用に服の中に納めると、どうだと言わんばかりの態度で聞いてきた。
尻尾、しかも動くしどう見ても身体から直接生えてるしで、反論が思いつかない以上は頷くしかない。
「うん、とりあえず信じるよ」
しかし、その返事が不満だったようで、
「なんやの、まだ信じられへん? それやったら、これはどう?」
今度は頭を差し出してきた。
身長差があるせいで、頭のてっぺんがよく見える。
本当に綺麗な白髪だなぁと思って眺めていると、2本の寝癖がピクピクと動いた。
「これって……」
「耳や。変わりにこっちはなんもないけどな」
そう言うと、狐々乃月が横に分けた髪を上げる。
すると、本来耳があるはずの場所には何もなかった。
髪が生えているだけで、耳の形もなにもなかった。
「え、じゃあ本当に?」
「さっきからそう言うてるやん」
狐々乃月は最後にまた耳を動かすと、距離を取るように離れた。
「ウチは白面金毛九尾狐やねん」
再び無い胸を誇らしげに張る。
白面金毛九尾っていうと、詳しくは知らないけど、かなり有名な妖怪だったはず。
一般的に九尾の狐って言われて想像するのは、ほぼ確実にこの妖狐だ。
中国の妲己、インドの華陽婦人、日本の玉藻前など歴代の悪女の正体とも言われている。
それだと、目の前の幼女がその傾国の美女だというのだろうか?
いや、確かに目を奪われるほどの美幼女だとは思うけど、個人的には抱きしめて撫で回して頬ずりして揉みし抱いて嘗め回して愛情を表現したいくらいだけれど、それでこのロリキャラが国を滅ぼしたのかと聞かれると微妙である。
それとも紂王とか鳥羽上皇は極度のロリコンだったのだろうか? 確かに現代と違って昔は結婚の年齢が低く、年端も行かないロリっ子とジジイが夫婦になるのもおかしくなかったらしいけど。なにそれ、羨ましい。誰かタイムマシンでも作ってくれない?
そうすれば世の犯罪も減ると思うんだけど。
思考が逸れたが、この幼女あるいは妖女はそうなるともの凄く性格が悪いという事になる。
人類に対して徹底的なまでのドSである。
罵ってくれるだけならそれはある意味ご褒美とも言えなくもないが、大量殺戮となるとさすがにそんな悠長なことは言ってられない。
こんな魔性のロリと知り合いだったとか、過去の己は一体どんな交友関係を持っていたのか。
ツンデレ魔女に変態メイドに妖ロリ。
頭の痛くなるラインナップである。
話によると、まだ見ぬ知り合いがこの病院で待機しているという。
両者の気持ちの整理がつくまでの順番待ち。
もしかして他の面子もこんなんばっかなのだろうか?
なんか会って記憶取り戻すのちょっと嫌になってきたな。
「なぁちょっと失礼なこと考えてへん?」
自動で落ち込んでいく様を不審に思ったんだろう、狐々乃月が思考を邪魔するように声を掛けてきた。
「いや、九尾の狐ってこんな子だったんだなぁ、と思って」
他に色々考えてたけど、それについては伏せて、無難な答えを返す。
「あー、説明してへんウチも悪いかもしれんけど、ウチは玉藻前とかとは別人やからな。勘違いせんというてな」
なにか思うところがあったのか、うんざりした顔で誤解に対する訂正を要請してきた。
「それにさっき京都生まれやー、言うたやん。ウチは白面の血脈やけど、まだ生まれて300年程度のひよっこや。あんな何千年も前から暗躍してるような大物とは別人や。尻尾かて最大数はまだ6本やし」
なるほど、じゃあ別に悪ロリというわけではないのか、安心した。
「にしても、加速度的に常識が崩壊していくな――待てよ。このロリっ子が300歳って、まさかアリシアも実は見た目どおりの年齢じゃない可能性も……」
チラリと見てみると、アリシアは若干不機嫌そうな顔つきになり、
「そんな高齢者と一緒にしないで下さい。私は見た目のままです。ピチピチの19歳ですよ」
威張るように大きな胸を張るアリシア。
そうか、アリシアはちゃんと見た目どおりなのか、よかった。
「高齢者とはまた随分な言い草やなぁ」
さりげにディスられた狐々乃月は特に怒ることも無く嘆息していた。




