40:国籍
「漢字の名前なんだ?」
「そうや、ウチは日本の京都出身やから」
リリス・アリシアと続いたから、漢字の名前は新鮮に思えた。
あと前の2人が欧米圏の名前だったことで、自分も勝手にそうなんだって思ってたけど、日本人の知り合いがいるならそうとも限らなくなってしまった。
「あ」
そういえば、アリシアが黒い瞳がどうこう言ってたな。
黒い瞳っていうなら北欧系では珍しいよね。
ふーむ、なら髪の色はどうなってんだろ?
「てやっ」
「御主人様なにを!?」
急に髪の毛を抜いたのに驚いたのだろう、アリシアが悲鳴みたいな声を上げていた。
狐々乃月も変なものを見るような目をしている。
「いや、ちょっと気になったことがあって」
抜いた髪をつまんで目の前に持っていく。
「黒いなぁ」
見事に黒かった。
リリスほどの深い黒ではないけど、普通に黒いと言って差し支えのないくらいには黒かった。黒髪だった。
「あぁ御髪のお色を知りたかったのですか?」
いきなりの奇行の理由について察しがついたのか、アリシアが得心したように息を吐いた。
「うん、何人だったかの参考になるかなぁと」
黒目に黒髪なんだから、東アジア系だろう。
「それならお聞き下されば、お答えしましたのに」
「え? あぁそっか、そうだよね。思い立ったらつい……」
考え無しに行動してしまった。
そうだよ、聞けば痛い思いしないですんだのに。
しかも、確認した後のことも考えた無かった。
この髪どうしよう?
その辺に捨てるわけにも行かないよね、他人の部屋だし。
ゴミ箱ないかな? と思っていると、
「御主人様、私しが処分しておきましょう」
と言ってアリシアが流れるような手つきで取り上げてしまった。
「あぁ、ゴメン、ありがとう」
「いえいえ」
そして自然にポケットの中へ仕舞われる髪の毛。
「って、なんでポケットの中? ゴミ箱とかに捨てないの?」
「いえ、ちゃんと処分しますよ? そんな、あとで匂いを嗅いだり味を確かめたりしようなんて思ってませんよ」
「その台詞のせいで不安が激増したよ! え、なに、そんなことする気だったの!?」
「いえ、大丈夫です。御主人様用の収集箱に入れるだけです。そんな舐めるなんて変態じゃないんですから」
「いやいやいや、十分変態なこと口走ってるよ! そんな不思議そうな顔しないで!」
何がダメなのか、本当に分からないような顔をされたら、どうしていいのか分からなくなる。
「自分ら、そういうところは記憶失くしても相変わらずやねんなぁ」
横で狐々乃月が呆れて溜め息をついていた。
「相変わらず?」
オウム返しで聞くと、
「そうや。前もそんな風なやり取りしょっちゅうしてたわ。デジャヴでも見てるんか思ったわ」
「そうなんだ」
アリシアに視線をやると、彼女も懐かしさに目を細めていた。
狐々乃月も呆れながらも嬉しそうだ。
……。
……。
「って、だからって髪の毛を保存させたりはしないからね。返してもらうよ!」
ちょっといい雰囲気に流されそうになったけど、それは流しちゃいけない。
「ちぇ」
アリシアが残念そうに髪の毛を差し出す。
そんな可愛く拗ねてもダメなものはダメだ。
「ほら、貸し。ウチがゴミ箱に捨てとくから」
狐々乃月が奪うように髪を取り、ベッドの横に備え付けてあるゴミ箱へ捨てた。
「あぁ……」
無念、とばかりに膝を折るアリシア。
うん、なんか可哀想な気はするけど、内容が内容だけに慰める気にはならない。
髪の話が出たついでに、ここで思っていたことを聞いてみた。
「そういえば、狐々乃月の髪は真っ白だよね。瞳も赤いし。京都出身って言ってたけど、両親は北欧の人だったりするの?」




