3:魔女
「聞いているのぉ、少年?」
苛立ちを目一杯にふくんだ声で、その女性は問いかけてきた。
美人だが、少しきつめの印象を与える細い目を吊り上げているせいで、余計にきつく見える。
それに対する答えはもちろん聞いていない、のだけれど。
「気を失っていた所をここまで運んでくれた上に、治療も施してくれたって事ですよね?」
何故か答えられた。
「えぇ、そうよぉ。なんだ、聞いてたんじゃない」
女性の表情が明るくなる、が。
「いいえ、聞いてない可能性もあるわねぇ」
そう言うと、彼女は少し考え込む素振りを見せた。
考え事をする時の癖なのか、下げていた腕を胸のあたりで組んで唸っている。
組んだ手で押し上げられて、大きな胸がさらに強調される。
そんな事をされては、視線がそちらに向かざるをえない。これはもう自分の意思ではどうしようもない。
ううむ、しかし、本当に大きいな。実はメロンかなんか服の下に仕込んでるんじゃないのだろうか?
シャツがぱっつんぱっつんになっていて、いまにもボタンが弾け飛びそうじゃないか。
もしそうなったらどう反応するのが正しいのだろう?
素晴らしいものを見せて貰ったお礼に、ありがとうございますと言うか?
いや、どう考えても怒られるだろう。
ならば先程の思考とあわせて、もしやお見舞いのメロンですか、とか?
いやいや、どこのおっさんだ。完全にセクハラじゃないか。
やはりここは紳士的に行くべきか。
しかし、紳士的ってどうすればいいんだ?
目を逸らすのが正しい気がするけど、ちゃんと理性に従って動けるだろうか?
本能のままにガン見する予感しかしないんだけど。
と、色々考えていたら、
「ま、いいわ」
考え事がまとまったのか、あるいは放棄したのか、彼女は表情を弛めてこちらを見た。
「とりあえず、自己紹介からするわね」
あぁ、そういえばこちらで勝手に散々外見について好きに言っていたけれど、
まだ彼女の名前も何も聞いていなかった。
「私の名前はリリス」
彼女、リリスは自身の名前を告げた後、意味ありげに微笑むとこう続けた。
「魔女よ」