38:雪原
露わになっている肌は透き通るように白いけれど、リリスのある意味無機物的な白さとは違い、雪をイメージさせるようなふわふわとした肌をしている。
その中に浮かぶ2つの瞳。それは言葉で表すことが無粋と感じるほどに綺麗な赤をしていた。まるでルビーをそのまま瞳としたかのように美しい。
そして、その赤い瞳が限界まで見開かれていた。
元々大きな目をしているようだけど、それが更に大きくなっている。
その瞳に浮かぶ感情は上手く読み取れない。
ただ、動揺しているということだけは窺えた。
目が合ってから数瞬、その美少女ならぬ美幼女の桜色の唇が震えだした。
なにか言うのかなと待ち構えていると、幼女は頬を林檎のように真っ赤にして叫んだ。
「出ていけ、このアホー!」
その声と同時に幼女の周囲の空気がぐにゃりと歪んだ。
「御主人様、危ない!」
唐突に目の前の扉が閉められた。
「アリシ――」
扉を閉めた人物の名前を言い終わる前に、焼け付くような熱風が喉を襲った。
「――っ!?」
喉から身体を内から燃えるんじゃないかというくらいに熱せられた空気が入ってくる。それは肺の中で暴れ回り、呼吸を許さぬ痛苦を与えてきた。
死が現実感を持って目の前に現れている。
「ふっ!」
しかし、突然の突風がその沸騰しているような空気を吹き飛ばした。
なんとか熱いから暑い程度に気温が下がり、呼吸を取り戻す。
「御主人様、大丈夫ですか?」
倒れそうになっていた身体を、アリシアが支えてくれながら声を掛けてきた。
「あ、あぁなんとか、大丈夫。助けてくれたんだね、ありがとう」
何が起こったのかは分からないけど、アリシアの気合を入れる声を聞いた直後に楽になった。多分、なにかしてくれたんだろう。
「いえ、お助けするのが遅くなってしまい申し訳御座いません」
お礼に対してそんなことをいってくるけど、アリシアがいなかったらどうなっていたか分からない。下手をすれば死んでいたんじゃないだろうか。
そう思うと、感謝こそすれ、責める気など毛ほども沸かなかった。
「いや、そんなことないよ。ありがとう」
アリシアの頭に手を乗せ、感謝の意を示す代わりに撫でる。
「はい、有難う御座います」
アリシアは嬉しそうに目を細めると、撫でた手に擦り寄るように首を動かした。
「ところで、なんだったんだろう、いまの」
突然襲ってきた謎の熱気。
死すら覚悟したほどの灼熱。
何処からどう発生したのか。
「あれは、この部屋の者のせいです」
問いに対してアリシアがすぐに答えをくれた。
「え、部屋の中には幼女しかいなかったけど?」
そう、上半身裸の美幼女が。
「はい、そうです。その幼女の仕業です」
「えぇ!?」
え、だって幼女だったよ? 人間離れした可愛さの、幼女だったよ?
「魔女や私のように、ちょっと普通とは違う幼女なんですよ」
「あ、なるほど」
ちょっと納得した。
いまだ幼女と熱の関連性がイメージつかないけど、それはアリシアもリリスも一緒だ。いや、リリスはいかにも何かやりそうではあるけど。
アリシアはその可憐で華奢な身体つきからは想像もつかない蹴りを放ち、さらには音まで操る。
そう思うと、幼女が空気を熱するくらいありそうだと思えてくる。
もうこの常識はずれの状態に適応してきているのだろうか。
慣れって怖い。
「危ないのでもう戻りましょう」
アリシアが真面目な顔で自室へ戻るのを促してくる。
けれど、
「うん、でも謝らないと」
さすがに部屋を覗いておいて、そのままサヨウナラはしにくい。
しかも着替えの最中っぽかったから、余計だ。




