35:お花を摘みに参ります(物理)
「それと、もう一つ」
「はい」
「最後に床とか柱とか壊れたでしょ? あれ、何か分かる?」
なんか、雰囲気的に自身から発生した現象みたいだった。
破壊も自分の足元から始まったし。
「あれは……」
アリシアは少し逡巡すると、
「あれも私の能力です。私は音で物質を破壊したり出来ますから」
「え、本当に?」
なにか釈然としない返事に、思わず聞き返してしまった。
「はい、音波は本当に私の能力です。御主人様が水を掛けられたときに魔女も言っていたでしょう? その力を院内で使うな、と。まぁ結局戦闘になったので使ってしまいましたけど」
思い返してみると、確かにそんな事を言っていたような気がする。
「私の能力だと、破壊だけじゃなくて、対象の人物の頭に直に声を叩き込めるので、混乱していた御主人様に落ち着いてもらおうとして、あの時使いかけたのです」
それならまだ納得できなくもない。
「信じてもらえませんか?」
まだ疑るような顔をしていると、アリシアが悲しそうな目で見つめてきた。
うぅ、その目は反則じゃなかろうか。
女の子(可愛い)にそんな風にされたら、信じるしかないじゃないか。
まさか計算でやっているのだろうか?
そうだとしたら、アリシア恐ろしい子!
アリシアはかなり直情型みたいだから素っぽいけど。
「いや、信じるよ、アリシアの言ってること」
そう言うと、アリシアの顔がパァっと明るくなる。
「有難う御座います、御主人様!」
なんか、この顔を見れただけでも信じることにしてよかったと思ってしまう。
あと、疑って悪かったなって思う。
なんだろう、このもの凄いまでの手のひらで踊らされてる感。
考えてみればまだ会ってから数時間しか経ってないのに。
やっぱり元々知り合いだったから、何となく彼女のことを覚えていて、親しみやすくなっているのかな?
「そういえば」
「どうかしましたか?」
気になっていたのに事態が目まぐるしく動いたせいで忘れていたことがあった。
「ずっと気になっていたんだけど、鏡とかないのかな?」
「鏡ですか?」
「うん、記憶がないせいで自分の顔も思い出せないんだ。名前はもう諦めるにしても、さすがに自分の顔くらいは知りたいんだ」
「それは確かにおすですよね。えぇと、お手洗いになら鏡はありそうですけど、男性用のお手洗いは入ったことないので、確証はないんです」
「そっか、でもトイレなら普通は鏡くらいあるよね。じゃあちょっと言ってみるよ。トイレ何処かな?」
「はい、扉を出て左、真っ直ぐ行くと右手にあります。ご案内しますね」
「いや、いいよトイレくらい1人で行くよ」
「そうですか? なんならお手伝いもしますが」
「お手伝いって、何をする気!?」
「え、御主人様の下着を下ろして、えぇと、御主人様の分身を支えてあげて……」
ぽっ、みたいな感じでアリシアの頬が赤くなる。
いや、そんな可愛らしい仕草してもダメだからね! 言ってることからして全然可愛くないから!
それにそんなことされたら小便どころじゃなくなるって違う!
「そもそも鏡を見に行くだけだから、用なんて足さないよ!」
「あ、そういえばそうでしたね」
アリシアは本当に驚いたように口を丸く開いた。
本気だったのか、この子。
いや、アリシアは毎回本気か。
もうこういうやり取り何回目だよってね。
「はぁ、とりあえず行ってくるよ。1人で行くから、着いてこなくていいからね」
何も言わないと着いてきそうな気がしたので、釘を刺しておくと、
「はい……」
しょぼんとした表情で、短い答えがあった。
本当に着いて来る気だったのか……。
やれやれ、と嘆息しながらベッドを出た。
男性だとトイレに行くの隠語は「雉を撃ちにいく」らしいですね




