34:魔法使い
ここで、そろそろ棚上げにしていた問題について考えてみたい。
事が現実離れしすぎていて、気絶前に実際に起こっていたことだと割り切れなかった。
けれど、いつまでも放っておくわけにもいかない。
なぜなら、放っておけば気になりすぎて今夜にでも眠れなくなりそうだからだ。
「ねぇアリシア、まだ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
聞かなければ、見なかったこととして処理できないかなぁ、なんて思ったりもするけれど、無理な話だ。
「はい、なんでしょうか?」
けど、聞いてみて頭のおかしいやつ扱いされたらどうしよう?
いや、きっとアリシアなら真剣に聞いてくれる。
と、思わないとやってらんない。
「あのさ、さっき、流れで口にしたからそのまま流したけど」
「あー、はい」
思い当たったのか、なんとなく理解したような相槌が打たれた。
「この部屋、おっきくなったよね? もしくは瞬間移動みたいなの、したよね?」
そう、気絶する前、いくつかの常識では有り得ないことを体験した。
「あとは壁が盛り上がったりしたりして……」
そして極めつけは床と柱の破壊である。
「あれ、なんなの?」
「そうですね、さすがに誤魔化しようもないのでハッキリご説明した方がいいですね」
あ、最初はああいう事が出来るって知らんぷりするつもりだったんだ。
ま、そりゃそうか。
「あれは、分かりやすく言うと魔女が使った魔法ですね」
「魔法……」
そりゃまた魔女っぽい。
「正確には違うんですけど、細かく追求しないなら魔法という解釈で問題ないです」
「ふぅむ」
なんかややこしそうだから、詳しく聞くのは止めたほうがよさそうだ。
魔法なんて嘘くさいってツッコミも、もう体験してしまった今では出来ないものだ。
「あの魔女は、自分の領域内のものを自由に操れる、という能力を持っています。今ならこの病院ですね。大きさも形も思いのままです。ですので、先程のは瞬間移動ではなく、部屋の拡大です。そして、床の形を自由に変えた、ということです」
「なるほど、俄かには信じがたいけど、そう説明されるとあの不思議なことも納得できる」
というか、納得するしかない。
「私の、この病院の外に出ることも不可能だという発言もここからです。あの女の許可なくしては出入り口や窓すら出てきませんから」
「うわ、そうなんだ」
それってもう監禁されてるってことにならない?
うーん、あんまり深く考えたくない。
「はい。あと、建物内にいる人間の細かな言動までは把握できないそうですが、何処に誰がいるかくらいは分かるらしいです」
「それってどれくらいの精度で?」
「申し訳御座いません。そこまでは私も存じてないのです」
「そっか、じゃあ仕方ないか。まぁ聞いたところでリリスが親切丁寧に教えてくれるとも思えないし」
「そうですね」
まぁ知りたいことは分かったからよしとしよう。
ちょっと頭の許容範囲超えそうだけど。
いや、今でも信じがたいことばっかなんだけど、信じないと何ともならなさそうだし。
「あと、私は単純に脚力が尋常じゃなく強いですね」
「あぁ、そうだろうね」
なにせ床から生えた壁を蹴り壊してたもんね。
今の話を聞く限りでは、この建物の素材がコンクリートだとは思えないけど、だからと言って脆い物質でもないだろう。
まがりなりにも建物としての体裁を保てるくらいの強度ではあるはずだ。
まだ廊下にしか出てないけど、それでもそれなりの広さの建物であることは伺えた。
これを支えるには相応の強度がないと無理だそう。
少なくともコンクリートより脆いってことはない気がする。
「もしかして、ブーツもその為? 脚用の装備みたいな」
ブーツが異様に大きい話はしたけど、もしあの蹴りの威力を上げる為なら納得だ。
あれなら攻撃力も上がるし、自分の足の保護にも役立つだろう。
「え、あ、ええ、そうですね」
あれ?
いま妙な反応しなかった?




