33:ツンデレへのお礼は面倒くさい
「ごめんごめん、もう笑わないよ」
ひとしきり笑ったあと、機嫌を損ねてしまったアリシアに声をかける。
彼女は拗ねたせいで、こっちを向こうともしない。
「なんなんですか、なんなんですか、そんなに笑って」
つーん、という効果音が目に見えそうだ。
「ごめんって。違うんだよ、ちょっと嬉しくなっちゃっただけなんだ」
頭を下げて謝る。
どんな理由があっても、あれは確かにこっちが悪い。
でも、あんな事をされたら笑うしかないと思う。
「はぁ、もういいです」
ようやく諦めたのか、アリシアは溜め息をついたあとお許しの言葉をくれた。
「まぁ、御主人様が笑ってくれたのですから、それはそれでいいです」
まだちょっと納得いかないのか、複雑な表情ではあるけれど。
「うん、ありがとう」
許してくれたことにお礼を言う。
「いつまでも不機嫌にしてたら御主人様にも失礼ですしね」
アリシアは自分に言い聞かせるように発言すると、気を取り直して居住まいを正し、
「御主人様。改めて、これからよろしくお願い致します」
椅子に座ったまま深く深く頭を下げた。
「うん、こちらこそ宜しく」
出会った時と違い、本心でそう思えた。
それはやっぱり悪役の魔女さんのおかげだったんだろうな。
あとでお礼を言うべきだろうか?
でも、こんなやり方を選んだ上にそれを説明しないとなると、言わないほうがいいのかな? でも、お礼はしたいし。
「ねぇ、アリシア」
「はい、なんでしょう?」
頭を上げたアリシアが返事をする。
その際、少し胸元が揺れた気ががが。
うぅ、なんだか顔が凄く熱くなってきた。
なんでだ、確かに魅力的だけど、こんな直視するのも出来ないほど照れくさいものだっただろうか。
そもそもさっきまで、こんな風にはならなかったはずだ。
自分の知らないところで何かあったのだろうか?
「御主人様?」
声を掛けておいて何を言ってこないことを不思議に思ったのか、アリシアが確認を取るように呼んでくる。
首を傾げるのが可愛くて困る。
「あぁ、いや、ごめん、えーと」
しどろもどろになりながら、言葉を探す。
「あのー、ま、じゃなくて、リリスについてなんだけど。何かお礼って出来ないかな?」
「お礼、ですか?」
眉間に皺が寄る。
「うん、アリシアの話だと、知らない内にお世話になったみたいだし、それのお礼をしたいんだ」
「確かに、御主人様との距離感が近くなったことについては感謝はしますが、そもそもあの魔女はそういうの嫌がると思いますよ」
「あ、そうなの?」
「はい。これは私があの女を嫌いだとか、そういう理由ではないんですけど」
「あぁ、それは大丈夫。疑ってないよ」
だって、口で言うほど嫌ってないみたいだし。
アリシア自身もいい子みたいだし、嫌いだからって恩を仇で返すタイプじゃないだろう。
「え、あ、そうですか。えぇと、そう、あの女は実は他人に感謝されるのが死ぬほど苦手なんですよ」
「あー」
それは納得できた。
確かにそういうの苦手そうだ。
「仮にストレートにお礼を言っても、軽口言ってスルーされると思いますよ」
「んじゃあ、何かプレゼントするとか」
「それなら何だかんだ理由つけて無理矢理渡せなくもないかもしれませんけど」
「けど?」
「御主人様も私もこの病院から出られないので、何も調達できませんよ」
「え、アリシアも?」
自分自身は記憶喪失のせいもあって出られないことは予想がついてけど、アリシアもそうだったのは意外だ。
「えぇ、理由はいくつかあるんですが、外出は禁止されていますね。こっそり出ることも無理矢理出ることも不可能です」
「そうなんだ……」
これは困った。
「どうしても、というのであれば、御主人様の病状が回復されて外出できるようになってからにすればいいのではないでしょうか」
「回復してから、かぁ。どれくらいかかるんだろ」
「分かりませんが、現状それしか手段はないですね」
「そっか、じゃあこの件はそれまで保留にするしかないかな?」
「そうですね。また何か思いつけばいいですけれど」
「そうだね、とりあえずお礼はまたの機会にしようか」
「はい」
微妙に納得いかなかったけど、どうしようもないなら仕方ない。
精々忘れないように気をつけよう。




